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サッカー選手を32タイプに分類。奈良クラブ×SAPの「育成のIT化」

2019.11.12

2019年10月、JFLの奈良クラブが選手のパフォーマンス向上を目的にSAP社の「SAP® SuccessFactors®」を導入したと発表した。主に企業のヒューマンリソースマネジメントに利用されているこのサービスをサッカークラブで採用したのは世界初だという。そこで林舞輝GMに導入の経緯と狙いを直撃した。

「コンバート」をもっと効率的にやりたい


――まずはSAP® SuccessFactors®(以下、SuccessFactors)の導入の経緯から教えてもらってもいいですか?


 「最初は中川社長がSAPの話を聞いてみようと言い出したんです。SAPは、ホッフェンハイムの取り組みのイメージもあるし、新しいテクノロジーの象徴みたいなところがあるので。それでSAPをどう導入できるか検討し、フランクフルトでSAPのカンファレンスがあって、ゲスト枠で僕も参加させてもらったりしました。そしたらサッカークラブのほとんどが使ってるのが『SAP® Sports One』(以下Sports One)というクラウドのソフトウェアでした。これをまず導入しようと検討したんですが、今の奈良クラブには宝の持ち腐れになると思ってやめました。SportscodeWyscoutとかのソフトウェアとか、日々のトレーニングとかメディカルとかのデータも全部クラウドで1つにできて、しかもそれぞれに関連性を持たせてダッシュボードにまとめたりグラフ化やレポート化ができるんですね。魅力的なソフトではあるんですが、そもそも膨大なデータとスタッフを持つようなビッグクラブじゃないと使いこなせないと思いました」


――なるほど。だからSports Oneって名前なんですね。


 「そうです。でもそもそも僕らは規模が大きくなくて、それほど膨大なソフトウェアやデータがあるわけじゃない。そんな中でほぼ偶然SAPの他のソフトウェアを調べていたら見つけて、これは面白そうだなと思ったのが、SuccessFactorsでした。全然スポーツ向けではなくて、普通のビジネスの世界で使われているソフトウェアです。『これは使える』と直感があって、それから各方面に相談して、アカデミーで使うことになりました」


――あくまでビジネス向けのソフトウェアですよね。どの辺りに可能性を感じたんですか?


 「ヒューマンリソースマネジメントのソフトウェアなので、普通のビジネスの現場では主に人事管理で使われています。社員の適性や能力を把握できて、後継者管理とかもできる。例えば、数年後の人事部長の候補は今人事部にいるこの人とこの人だよね、でもこの人にはコミュニケーション能力がまだ足りない。だったらこの人はコミュニケーション能力を高めるために1年間営業部で働いてもらおう、みたいなことができるんです。だからサッカーで使うとなると、例えばアカデミー全体で何年後かにこのタイプの選手が足りなくなるからこういう選手をスカウティングしておいた方がいいと判断できたり、この選手は将来こういうタイプの選手に育つ可能性があって、でもそのためにはこの部分が欠けてるから、それを伸ばさないといけないよね、みたいなことが見ていきます」


――長期的な選手の管理という意味で生かせるわけですね。


 「あと選手の情報を一元的に管理できるというのも大きいですね。今までは紙レベルだったので。出身地、過去の所属チームや指導者とかもわかって、この子はここでこういうことを教わってたんだ、こういう練習してたんだ、みたいなことがすぐ見えるのは大きいです」


――サッカーに導入するにあたって、選手のプレースタイルや役割を32タイプに分類しているとプレスリリースに書いてありますよね。これはどういう目的なんですか?


 「選手の可能性を最大限に引き出すためです。もともとの問題意識としてあるのが、例えばコンバートして一気に活躍する選手とかいるじゃないですか。あれって要するにコンバートするまではその選手のポテンシャルをちゃんと評価できてなかったわけで、それってマズくないかって話で。例えばジルーみたいなポストプレー型のFWとフィジカル系のCBって、求められるフィジカルの能力は似ています。速さよりも大きいこと、空中戦に強いこと、ボールが収まること。ここのコンバートってよくあるんですよ。数年前に奈良クラブにいた選手で、ずっとCBでやってて、あるシーズンいきなりFWで起用されて得点王になった選手もいました。でもそれって偶然監督の見る目があってFWになったから上手くいっただけで、もしかしたら一生CBで覚醒しなかったかもしれない。だから本当は育成の時から、この選手はフィジカル的に強くてCBとFW両方の可能性があるよね、CBで育つとしたらもっとこの能力が必要で、FWで育つとしたらこの能力を育てる必要があるよね、ということを考えて指導をするべきなんです。長友選手とかも、もしSBにコンバートされずにずっとボランチをやっていたら、インテルに行くことはなかったかもしれない。でもいきなりSBで起用されてあそこまでのし上がった。香川選手だって、クルピにセレッソでボランチからトップ下にコンバートされて大成功した。そういうことを指導者との出会いなどに賭けるのではなく、育成からもっと効率的にやりたいんです。もしかしたら、日本サッカー界にはSBにコンバートされなかった長友選手やトップ下にコンバートされず眠ったままの香川選手が、まだまだいるかもしれない」

GKが1タイプ、SBが3タイプ、CBが4タイプ、DMFが4タイプ、OMFが4タイプ、WBが3タイプ、WGが3タイプ、CFが7タイプ、STが3タイプと計32タイプに分類されている


――32タイプというのは、ポジションの分類がベースにあった上で、特性によってさらに細かく分類してるってことですよね?


  「そうです。信頼できる協力者に相談して、そもそもサッカー選手ってタイプ分けできるんじゃないのって話をして。FW、MFという区切り方はできないわけですよ。例えばボランチといってもいろんなボランチがいる。シャビとか柴崎みたいなゲームメイク型の選手がいる一方で、1列下で『サリー型』って名付けたんですけど、サリーをできるような選手、ブスケッツとかピルロみたいな選手もいる。トップ下も、スナイダーみたいなゲームメイカー型の人もいれば、香川みたいなスペースで受けてボールを引き出すタイプもいるし、トッティとかカカーとかデ・ブルイネみたいなカウンターでスピード乗った時の攻撃で最も生きるような選手もいる。そういう風に分類していって、その中でそのタイプの選手にどういう能力が必要かをさらに詰めていくという感じです」


――それは奈良クラブのゲームモデルとして、一例ですけど[4-3-3]の枠組みの中でこういうタイプの選手が必要だから、みたいな考え方になるんですかね?


 「奈良クラブのゲームモデルは考慮していないです。奈良クラブのゲームモデルに合う選手を育てるためではなくて、その選手のポテンシャルを最大限に引き出すためのものなので、普遍的に分類しています。いろんなチームを見て、全員が分類できるようなものにしました」


――特定のプレースタイルの中での役割ということではないんですね。


  「そうです。日本代表のメンバー全員にも当てはまるようになっているし、全世界の選手たちも。例えばファン・ダイクなんて、幅広く能力が高いのでCBの中でどのタイプにも当てはまるみたいになるんですけど、そこはメインの能力とプラスアルファみたいな扱いをしています。必ずどこかのタイプには当てはめられるようになっています」

「多角形のパラメーター」で伸ばす能力を可視化


――その分類があった上で能力を段階分けするというのは、ゲームメイク型のMFがいたとして、その選手に必要とされるパラメーターが具体的に設定されているってことですよね?


 「そうです。各タイプに対して必要なパラメーターを僕が全部つけるわけです。メンタル、ソーシャル、フィジカルタクティカルテクニックという主に5つの能力の指標です」


――じゃあ多角形で表示できるわけですね。


 「そうです。その中で、能力項目を細分化させて、この中でじゃあ何ができてないといけないか。何が足りないか。例えば、スピードがあって、縦に抜けられてクロスも上手い育成年代の選手がいるとします。この選手をどうやって育てるのって時に、今はチームではウイングだけど、もしかしたら将来はFWとしていけるかもしれないし、SBでいけるかもしれない。でも、実際の育成の子の数値とかを見ても、一見適性があるように見えても意外と足りない要素ってあるんですよ。そのウイングの子は将来的にはスピード型のSBとしても可能性もあるとして、SBとしてこの選手の適性は78%ある、じゃあ残りの22%は何の能力が足りないのか、これがすぐわかるわけですよ。テクニックがある、スピードがある、クロスも良い、でも意外とスローインを投げる能力が足りないとか出てきたりして、確かにと納得する。多角形でいうと、『投げる』というフィジカルの能力ですね。投げる能力ってウイングにはあまり必要ないけど、SBとしては絶対に必要。それで、この子は今はウイングとしてチームの中でプレーしてるけど、実はSBとしても適性があって、でもスローインが投げられないのはSBとしては致命的な欠陥になってしまうから、今のうちに練習しておいたら将来SBとしての可能性も広がるよ、というような指導プランができるようになるんです」

ポジションの適性度に加えて数値化されたポジション別の各能力項目がパラメーターとして可視化される


――そのようなデータをコーチや監督で共有して、コミュニケーションが取れると。


 「そうです。そうするといろんなものが見えてくるわけですよ。U-15はこのポジションにこういう選手が足りないから、ユースのセレクションの時にそういう選手を取らなきゃだめだとか。例えばU-12で左SBが足りないなという時に、こういう選手が足りないんだよな、セレクションで取るかってなった時に、U-11を見て、この選手できそうじゃん、とか。下の代では今右ウイングをやってるけど、この選手は左SBもできるんじゃない、そしたらこの子の将来の可能性も広がるかもっていうのをアカデミー内で相談したりもできますね」


――選手本人が閲覧することもできるんですよね。今自分がどういう能力値になっているのかがわかるのはいいですね。


 「一人ひとりに評価シートみたいなのも出せて、あなたはここが良いところで、ここのポジションのこういうタイプの選手として可能性がありますよ、だからこういうプロの選手のプレーを参考にしたらいいよと示せる。加えて、その選手みたいになりたいんだったらここの能力が足りないから、来年はここを重点的に鍛えていこう、みたいな話もできる。例えばさっき話に出てきたポストプレー型のFWにもフィジカル型のCBにも適性がある選手がいたとして、CBとしても将来可能性があるから、コミュニケーションとかリーダーシップとかもチャレンジしてみよう、と評価シートをもとにアドバイスができるわけです」


――その選手が2つのタイプにまたがったりするわけですね。


 「します。例えば、ポストプレー型のFW適性85%、CB適性75%みたいな感じで、適性の高さによって順位順に並べられます。今このポジションでやっているけど、実はこっちの方がいいよみたいなこともあって。もうすでに自分で見ていて、うわこの発想なかったな、みたいなこともよくあります」


――さっき奈良クラブのゲームモデルに沿ってないという話がありましたが、それは逆にいうと他のクラブでも使えるってことですよね?


 「使えると思います。奈良クラブの育成の真の目標は、奈良クラブのゲームモデルに沿った選手を作ることではなくて、同じ学年からシャビとガットゥーゾを出すことです。ガットゥーゾはカタルーニャに行ったらサッカーをやらせてもらえなかったかもしれません。バルセロナのゲームモデルにまったく合ってませんから。同じようにシャビはイタリアで生まれていたらとっくに潰されてるかもしれなかった。でも、奈良ではそうやって潰すわけにはいかない。人口だって多いわけじゃないし、奈良クラブはこの道でいきます、この道に合わない選手はどっかに行ってくださいとやる余裕はないです。とにかくどんな小さい可能性を秘めている選手でも、その子の中でのベストなプレーヤーになってほしい。例えば自分が生まれてからずっとアヤックスのアカデミーで育ってたら、一体どこまでの選手になれたかとか思いません? もしかしたら僕もアヤックスで、プラン・クライフに乗っかってやってたら、選手としてJ2くらいまでいけたかもしれない(笑)。だから何が足りないというより、まずその子のポテンシャルを客観的な指標も含めて見せてあげたい。これだけサッカーっていうのが発展して体系化されてきている中で、選手にポテンシャルを最大限に生かせる場所や方法を見つけてあげることができるんじゃないかと思います」


――CBの選手がいたとして、ビルドアップ能力が低いというパラメーターが出ていたとしたら、1列前で鍛えようかみたいな発想になるかもしれないですしね。


 「そういうことです。シティのストーンズはバーンズリーのアカデミー出身で、当時から彼は優秀なCBだったんですけど、あまりにもリーダーシップとかコミュニケーションとかソーシャル系の力が弱いから、1学年下に降ろされたんですよ。1学年下の代にいって、そこではお前が1番の年長者で、お前がリーダーシップを取って、お前がチームを引っ張っていかなきゃいけない、ここのチームはお前がキャプテンだって言われて。保護者にも、1学年下でキャプテンをやらせて、そういう能力を伸ばさないと彼は良いCBにならないってちゃんと説明して。それって『すげぇな』と。それこそが僕は育成だと思ってるから。

 そういうことを、コーチの主観じゃなくて、客観的に数値化してやりたいんです。コーチ1人の判断ってある意味センスじゃないですか。もちろんコーチの見る眼みたいなのはめっちゃ大事なんですけど、それプラスでちゃんとある程度可視化された状態で選手を見てあげたらもっと才能の無駄遣いをしないで済んだりとか、その子の持ってるポテンシャルを十分引き出せるんじゃないかと。そういう意味で、僕はガットゥーゾみたいなのをシャビみたいに育てるつもりはないし、戦うゲームモデルだからシャビに『とにかく走れ』と言うつもりもないんです」


――ゲームモデルの色の濃いアカデミーでプレーすると、そのゲームモデルでしか生きない、違うゲームモデルに適応できない選手になるんじゃないかっていう議論があるじゃないですか。それとはまったく逆の発想ですよね。


 「はい。ビッグクラブで、日本中からどんな選手もそろうというのであればそれでいいと思うんですよ。でも今の僕らの立場上、フィルターにかけてる場合じゃないので」


――目標としては、トップのユース出身率50%っていうような数字を掲げられていますが。


 「こういうプロジェクトを進める以上、何かしらの数値目標は決めようと。去年のアヤックスがあれだけのインパクトがあったのは、ほとんどの選手がアカデミー出身だったからというのが大きい。全盛期のバルサも、レアルとは違って、お金で集めて銀河系軍団を作って勝ったんじゃなくて、カンテラ出身の選手がどんどんスタメンを取っていったからすごかったわけです。ピケマルケスからポジションを奪って、ブスケッツがヤヤ・トゥーレからポジションを奪って、ペドロがアンリからポジションを奪うみたいな、わけがわからないことが起きて、世界のサッカー界が驚いた。奈良クラブで言っているサッカーを変えるっていうところを、こういう風に体現する方法もあんじゃないかと。そういう意味で、僕らがただ単にJリーグに行くとかじゃなくて、しかもその内の半分が奈良クラブのアカデミー出身なんですよってなったら、ただの昇格以上の意味でサッカーを変えられる。その時に初めて見てくれるわけじゃないですか、奈良クラブは育成で何をやっていたんだって。プラン・クライフをやっている時は誰もアヤックスに目を向けなかったけど、今はすごかったなクライフって言ってくれる。だからそういう風になったらいいなと思っています」

10年後のサッカーのために「適応力」を鍛える


――難しいのが、バルセロナやアヤックスにアカデミー出身者が多いのは、ゲームモデルに沿った育成をしているからという要素が大きいと思うんです。だからこそバルセロナはゲームモデルに合った選手をそろえるためには、アカデミーからの輩出に頼らなければいけないという逆説的な考え方もできるんですけどね。RBライプツィヒとかも今後そうなってくるのかもしれません。その部分はどうお考えですか?


 「僕は選手にとって一番大事なのは変化への適応力だと思っています。10年後にどういうサッカーがトレンドになっているかなんてわからない。僕らは10年前はポゼッションサッカーがすべてを支配すると考えていましたけど、突然ラングニックが出てきて、ストーミングみたいなわけのわからないものが出てきたわけじゃないですか。10年後、20年後にどういうサッカーが強いかもわからなければ、奈良クラブがどこのカテゴリーで何をやってるかもわからない。もしかしたらゴールキックの変更みたいなすごいルールの変更があって、ペナルティエリアの外から打ったら3点みたいなルールが加えられているかもしれないし、ワンツーの後にワンタッチでクロスを上げて、それをボレーシュートで決めたら、技術+演技構成点でプラス1.5点とかあるかもしれない、フィギュアスケートみたいに。だから、こういうサッカーをしたいのでこういう風に育成しますと決めてしまうのは、ある種の博打だと思ってるんです。


 日本は2014年のブラジルW杯の時にトランジションのトレンドに乗っからなかったから、他のポゼッションチームと一緒にグループステージで敗退したわけです。スペインやイタリアとかと一緒に。だから僕は、いつかのインタビューで話したと思うんですけど、一番大事なのは適応能力だと思う。ダーウィンが言ったように、最後まで生き残る種というのは『強い種でもなく、賢い種でもなく、最も適応能力が高い種だ』と。なので、自分の武器を持ちながら、その武器を所属するチームのためになる状態で最大限発揮できる選手が一番良い選手。そういう選手を育てたいと思っています」


――「適応能力を伸ばす」という意味では、具体的にはどういう指導をすることになるんでしょうか?


 「選手は今回のSAPの導入で自分の能力を把握することができますよね。僕はこういうタイプの選手に適性があるけど、こういうタイプの選手にもなれると。そうすると、こういうサッカーをやる時にはこういう役割になれば、自分も生きるしチームのためにもなるとわかってくる。その上で僕ら指導者は、アカデミーではいろんなサッカーをやらせてあげればいい。例えばこの監督のチームでこういうサッカーをするんだったら、お前のこの能力はこうやって生きるから、こういうタイプとして活躍したらいいんじゃない?みたいなことを提示しながら」


――32タイプに分類すると聞くと、型にはめているような印象を持ってしまいそうですが、必ずしもそうじゃないんですね。適性は理解した上で、自分がどういうタイプとしてチームに貢献するかは11人のバランス次第だし、監督の考え方次第でも変わってくると。


 「そうです。決して型にはめるとか、こういう風に育っていけって決めつける訳ではなくて、本当にその選手のポテンシャルを最大限に発揮させるために作ったので。ある選手がスピードに優れているとして、スピードを[4-4-2]のカウンターサッカーでしか生かせないです、みたいな選手にはなってほしくないわけですよ。例えばポゼッションをするチームだったらウイングとしてこういうスタイルでいけばチームのために貢献できるとか。[3-4-2-1]だったらウイングバックですごい生きるとか。自分の能力を自覚して適応させて、そのチームとかその監督とかそのチームメイトの中でどうやったら生かしやすくするのかを学ばせるということです」


――そういう選手がたくさん育成から上がってきた将来の奈良クラブのトップチームが目指すサッカーは、相手に合わせていろいろやり方を変えられるサッカーみたいな感じですか?


 「その時は正直どうなるかわかりません。10年後、20年後のサッカーがどうなるかわからないので。ただ、将来のサッカーがどうなろうと適応できたり、どんなルール変更があっても生きるような個であってほしい。サッカー選手として普遍的にあった方がいい能力というものはあると思うから。それはコミュニケーション能力とか基本的なところもそうだし、例えばシュート精度が高いのももちろんそうだし、ドリブルで抜けていくこともそうだし、スピードがある、背が高いこともそうです」


――もう1つ、プレスリリースにも書かれていたんですけど、サッカーインテリジェンス、戦術理解力を上げるためにeラーニングの仕組みを導入するというのは、具体的にはどういうことなんですか?


 「このソフトウェアの中に、オンライン授業みたいなのがあって。それを全員が見られるようになっています。だから来年新しいアカデミーコーチが入ってきたりした時に、今の僕の講義を残しておけばそこで見てキャッチアップしてもらえるんです」


――同じシステムの中で講義が見られるんですね。


 「そうです。講義を見終わった後にテストがあって。実は今年フットボリスタ・テストをやったんですよ。アカデミーのコーチ全員。ゲームモデル号の中から問題を出して記述式のテストをやって、みんなめっちゃフットボリスタを必死に読んでたんですけど(笑)。そういうテスト付きのオンライン授業みたいなのがあって、そういうのを選手もコーチングスタッフも全員見られるようにしたいなと。加えて、そこに相手チームの分析動画を乗っけるのもありだし。僕は今この選手のこのプレーを見て、みたいな感じで選手に渡してるんですけど、それもここに載せておけばいいし。この前1回N. ROOM(奈良クラブ内の勉強会)で、セビージャとか、シティやリバプール、ライプツィヒ、ノリッチとかの面白いチームの試合を切り出して、僕がプレゼンしたんですけど、そういうのも共有していこうかなと」

――事前に今回のプロジェクトを担当したアビームコンサルティングの人に話を聞いたんですが、システム構築するにあたって結構何回もミーティングをやったらしいですけど、林さんと中川社長はすべて出席してくれた、なかなかそういう人たちはいないという話をされていました。


 「言い出しっぺですからね。アビームさんは本当に尽力してくれて。こっちがすごいいろいろ要求したことに対して、全部やってくれちゃって。強い気持ちを感じました。納得の出来栄えです」


――僕も少しだけ見せてもらいましたが、すごいなと思いましたよ。


 「革命的なことだと思いますよ。ビジネスマネージメント系の大企業とかで使われているヒューマンリソースマネジメントをサッカーに適応させて、アカデミーで選手の育成に役立てるっていうのは」


――10年後、楽しみにしてますよ。


 「いや、20年かかります。10年はちょっと無理かも(笑)」


――わかりました(笑)。今日はありがとうございました。

Maiki HAYASHI
林 舞輝(奈良クラブGM)

1994年12月11日生まれ。24歳。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻し、首席で卒業。在学中、チャールトンのアカデミー(U–10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部の大学院に進学。同時にポルトガル1部リーグに所属するボアビスタのBチーム(U–22)のアシスタントコーチを務め、主に対戦相手の分析・対策を担当した。モウリーニョが責任者・講師を務めるリスボン大学とポルトガルサッカー協会主催の指導者養成コース「High Performance Football Coaching」に合格。2019シーズンよりJFL奈良クラブのGMに就任。


Photos: footballista, NARA CLUB

Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。