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「ヨーロッパに数多くの選手を供給しているが、タレントは貧しくなっていない」イタリア代表アナリストのJ1戦術総括(後編)

2025.12.22

世界から見たJリーグ#3

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第1~3回は連載『レナート・バルディのJクラブ徹底解析』が好評のイタリア代表現役アナリストのレナート・バルディが、J1リーグの戦術的傾向を語り尽くす。後編では、ポジション別の総評とその中で印象に残った選手を分析してもらった。

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Jリーグから羽ばたいた鈴木彩艶はイタリアでも別格の評価

――ここからは、それぞれのポジション別に、レナートの視点から見て気づいたことを掘り下げていければと思います。GKに関しては、シュートストップに加えって、足下のテクニック、ビルドアップへの参加という観点からも平均レベルが高い一方で、ハイボールへの飛び出しやクロス対応などにややミスが目立つという話がありましたね。

 「はい。スペース管理や状況判断といった面でやや拙さが目立つGKが多かった印象があります。高さや重さが足りないからかもしれませんが、ハイボールに対してフィジカルコンタクトを厭わず積極的に飛び出して処理しようというGKは少なく、またその飛び出しのスペースをDFとの連携でどう作り出すか、どう分担するかが明確になっていないチームもありました。その一方で、足下のテクニックは総じて高いレベルにありました。

 日本のGKということで言えば、パルマでプレーしている鈴木彩艶は別格ですね。フィジカル能力が非常に高く、技術的にも欠陥がない。数年後にはミランやインテル、プレミアリーグでプレーしている器だ、と実際に指導したGKコーチも言っていました」

――CBも、今や190cm台が当たり前になっているヨーロッパの標準と比べると体格面でどうしても見劣りしてしまう部分があります。

 「それは仕方ない部分だと思いますが、ゾーンで守る意識が強い一方で、ペナルティエリア内でのマーク、1対1のデュエルの強さといったマンツーマンの個人技術、個人戦術があまり磨かれていないという印象がありました。スペースは埋めるけれど人を見る意識が足りない、デュエルやフィジカルコンタクトによって相手を自由にプレーさせないという原則があまり浸透していない。これは4バックで守るチームだけでなく5バックで守るチームにも共通する特徴でした。

 他方、ボール保持の局面では、足下のテクニックが高く、後方からのビルドアップに貢献できるCBが大半を占めていました。ただ、シンプルなパスワークで組み立ての起点にはなっても、長短のパスを使い分けて局面を前進させるレジスタ的なCBはあまりいませんでした。その中で、流れの中で中盤にポジションを上げてMF的に機能していた柏の原田、171cmと小柄ながらロングパスによる展開で攻撃の起点となっていた京都の宮本が目立っていました」

Photo: Takahiro Fujii

偽SB的なプレーでは浦和の荻原

――SBには、ボール保持局面で積極的に敵陣に進出する攻撃的なタイプが多かったように思います。

……

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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