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さいたまシティカップ2020で来日!スアレス、レコバらを輩出したウルグアイの名門ナシオナル

2020.01.24

2020年2月9日(日)に開催される「さいたまシティカップ2020」。2017年以来3年ぶりとなる今回、11回目にして初となる南米勢が参戦。ウルグアイのクルブ・ナシオナル・デ・フットボールが来日し、大宮アルディージャとNACK5スタジアム大宮で激突する。

2019シーズンに国内リーグを制覇。タイトルを引っ提げ日本にやって来る強豪ながら、実際にどんなチームなのかは知り得ない部分も多い。そこで、南米サッカーに精通するChizuru de Garcíaさんにクラブの歴史から現在のチームの特徴まで、クルブ・ナシオナル・デ・フットボールのイロハを紹介してもらおう。


■クラブ紹介

Club Nacional de Football
クルブ・ナシオナル・デ・フットボール
創設
1899年5月14日
ホームタウン
モンテビデオ
スタジアム
エスタディオ・グラン・パルケ・セントラル
主なタイトル
国内リーグ:47回
コパ・リベルタドーレス:3回
レコパ・スダメリカーナ:1回
インターコンチネンタルカップ:3回

主なOB
ルイス・スアレス(現バルセロナ)
ディエゴ・ゴディン(現インテル)
マティアス・ベシーノ(現インテル)
フェルナンド・ムスレラ(現ガラタサライ)
アルバロ・レコバ(元インテルなど)

日本で世界一も経験した強豪

 人口350万人、面積は日本のおよそ半分という小さな国、ウルグアイ。広大なアルゼンチンとブラジルの間に挟まれ、世界地図の中では思わず見落としてしまいそうなほど目立たない存在だが、サッカー熱においては実は南米でも随一。ワールドカップの初代チャンピオンという肩書きを誇りとし、昔から才能の宝庫として知られ、現在もルイス・スアレス(バルセロナ)、エディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)、ロドリゴ・ベンタンクール(ユベントス)、ホセ・マリア・ヒメネス(アトレティコ・マドリー)、ディエゴ・ゴディン(インテル)、フェデリコ・バルベルデ(レアル・マドリー)に代表されるトップクラスの選手たちを次々と生み続けるサッカー大国だ。

ウルグアイ代表のルイス・スアレスとディエゴ・ゴディン。いずれもナシオナルのOBだ

 今回紹介するクルブ・ナシオナル・デ・フットボール(通称ナシオナル)は、そんなウルグアイを代表するクラブの一つ。実績、人気、影響度においてライバルのペニャロールと肩を並べる文字通りの名門で、世界的には「ルイス・スアレスがプロデビューしたクラブ」として知られている一方、日本ではかつてトヨタカップ(インターコンチネンタルカップ)で1980年と88年の2度にわたって南米王者として来日したことを覚えているサッカーファンも少なくないだろう。

 1899年に首都モンテビデオで誕生し、昨年5月に創立120周年を迎えたナシオナルは「ウルグアイで生まれた人々によって作られた最初のサッカークラブ」であり、移民ではなく自国民の手で創設されたクラブとしては南米においても先駆者の中に入る。

 その長い歴史を語る上で忘れてはならない存在が、かつてクラブのトレーナーとして従事していたプルデンシオ・ミゲル・レジェスだ。レジェスは現在南米のスペイン語で使われる「hincha」(インチャ=サポーター)という言葉の語源となった人なのだ。

 19世紀初頭、サッカーはまるでオペラを観劇するように静粛な中で観戦するものとされていた。ところがナシオナルで働いていたレジェスは、観客が静かにゲームを見学する間、試合で使うボールを膨らます作業に専念しながらもゴール裏から常に選手たちを激励。毎試合スタジアムに響き渡るほどの大声で声援を送り続けた。レジェスの存在は「el que hincha la pelota」(ボールを膨らます男)の愛称とともにたちまち世間に知られるようになり、やがて「膨らます」を意味する「hincha」(インチャ)がサポーターの代名詞として広く伝わった。つまり、世界で最初に「インチャ」と呼ばれたサポーターは、ナシオナルから生まれたのである。

 また、ウルグアイは1901年から隣国アルゼンチンとのクラシコを戦ってきたが、対アルゼンチンにおける初勝利となった1903年9月のクラシコでウルグアイ代表としてプレーしたのはナシオナルのチームだった。その歴史的勝利を称えるため、ナシオナルは現在も毎年9月にウルグアイ代表のチームカラーであるセレステ(空色)のユニフォームを着用することになっている。

 そんな逸話を持つナシオナルだが、国際的な知名度を高めたのは1971年のこと。同年、南米王者を決めるコパ・リベルタドーレスで初優勝を遂げ、その後インターコンチネンタルカップで欧州チャンピオンのパナシナイコス(ギリシャ)を破って当時のクラブ世界一に輝いた時だ。

 その後しばらくは国際舞台での活躍から遠ざかっていたが、1980年代に入ってから復活を遂げる。1980年に2度目のコパ・リベルタドーレス制覇を達成し、翌81年2月に行われた栄えある第1回トヨタカップでノッティンガム・フォレスト(イングランド)相手に1-0の勝利を収めて優勝。その後も安定したチーム力で南米の強豪勢と互角に競い合い、88年にもコパ・リベルタドーレス制覇を成し遂げた。

写真は1981年のトヨタカップでのもの。国立競技場を埋めた観衆の前で世界一の称号を手にした

 南米大陸のカップ戦で優勝したのは今のところ89年のレコパ・スダメリカーナが最後となっているが、ウルグアイの1部リーグでは1902年を皮切りに最多優勝数を誇っており、昨年12月には優勝決定戦でライバルのペニャロールに勝って47回目の国内制覇を達成したばかり。

 しかしながら、ナシオナルがウルグアイ国内のみならず南米においても名門と謳われる「真の理由」はタイトルの数だけでなく、タレント養成における実績にもあると言っていいだろう。

高強度のプレーから繰り出す速攻は脅威

 ナシオナルの下部組織における発掘、指導には定評があり、過去にもウルグアイ代表チームへ主力となり得る選手を数多く提供してきた。そして今は特に、世代交代の真っ只中にある代表チームにとってキープレーヤーとなる可能性を秘めた人材を供給する機関としていっそう評価を高めている。ほぼ毎シーズン監督が交代しているにもかかわらず一定のチーム力を維持していられるのも、ユース世代に優秀な人材がそろっているからこそである。

 今年から監督に就任したグスタボ・ムヌアは、そんなナシオナル育ちの若い選手たちを積極的に活用したチーム作りに着手し始めたところだ。

 現役時代はGKとしてナシオナルでプレーしたあと、10シーズンにわたってスペインのクラブで活躍したムヌアにとって、自身の古巣でもあるナシオナルで監督を担うのは2015-16シーズンに続いてこれが2期目。2016年のコパ・リベルタドーレスで強豪ぞろいの「死のグループ」を勝ち抜き、決勝トーナメント1回戦でもコリンチャンス(ブラジル)相手に勝ち越してベスト8に進出した手腕を買われ、サポーターたちにとって長年の夢である南米制覇実現のため再び監督に抜擢された。

 経済的な事情から大がかりな補強はできないナシオナルにおいて、下部組織の若手をベースとしてコンペティティブなトップチームを築くことは最低条件となる。そこでムヌア監督は、最初のテストとなった去る1月11日のリーベルプレート(アルゼンチン)との親善試合でさっそくユース世代の選手たちを起用した。

 試合は4-4で引き分けた後、PK戦によってナシオナルが勝利を収めたが、強敵リーベル相手にブライアン・オカンポ、ホアキン・トラサンテ、ティアゴ・ベシーノら20歳の選手たちがそれぞれ得点をマーク。3人はいずれもクラブの下部組織出身で、与えられたチャンスの中でしっかりアピールする果敢さを見せた。

 ムヌア監督がこの試合で先発布陣として選択したフォーメーションは[4-4-2]。高めの守備態勢から両SBによるスピードに乗った攻め上がりを生かした攻撃を展開した。チームはまだテスト段階にあり、スタイルも確立されてはいないが、リーベルの守備陣をてんてこ舞いさせた速攻は新生ナシオナルの大きな武器となるだろう。

 もちろん、ただ速いだけのチームを目指しているわけではない。無駄な動きをなくしながらインテンシティの高いプレーでパフォーマンスの向上を狙うべく、ムヌア監督は昨年末まで指揮していたFCカルタヘナからスペイン人のフィジカルコーチ、フェリックス・マルティネスを呼び寄せた。インテンシティにこだわるマルティネスは欧州の最先端の技術を駆使し、戦術理論に基づきながら「量よりも質」を重視したトレーニングを行っており、若手中心のチームのコンディションを最大限に発揮させるうえで鍵を握る存在となっている。

A代表デビューの逸材も

 メンバーの7割が23歳以下という現在のナシオナルには将来性あふれる若手がそろっているが、その中でも注目すべき2人、マティアス・ビーニャ(22歳)とティアゴ・ベシーノ(20歳)を紹介しよう。

 左SBのビーニャはスピーディーな攻め上がりを得意とするDFで、CBもこなす。U-20ウルグアイ代表として2017年のU-20南米選手権およびU-20ワールドカップに参加したあと、昨年9月にはA代表でもデビュー、これまでに3試合に出場して高い評価を受けた。ウルグアイ国内で昨シーズンのMVPに選ばれた逸材で、すでにスペインとドイツのクラブが獲得に興味を示していると報じられたが、ナシオナルとしてはそう簡単には手放せない存在だ。

ウルグアイ代表デビュー済のビーニャ(右)。昨年夏の時点でアトレティコ・マドリーなどからの関心が報じられていた

 ナシオナルの下部組織で160ゴールをマークし、先輩スアレスの175ゴールに近づいたべシーノは生粋のストライカー。優れた得点の臭覚と決定力を持ち、ゴール前では相手DF陣にとって非常に危険な存在となる。ナシオナルのユースが優勝した2018年のU-20コパ・リベルタドーレスでの活躍から一躍脚光を浴びるようになり、昨年8月にトップチームでデビューするなりゴールを決めてみせた。U-20ウルグアイ代表メンバーだが、“ルイス・スアレス2世”として今後A代表でもチャンスをつかみ取ることができるかどうかが注目される。

リーベル戦でクアルタと競り合うティアゴ・ベシーノ(右)。クラブからの期待を背負うスター候補生だ

 41歳のムヌア監督率いる若いナシオナルは、続々と才能が輩出される「小さなサッカー大国」ウルグアイを象徴するチームとも言える。最後に国際タイトルを獲得してから30年の月日が流れた今、復活を期す古豪のプレーをぜひその目で見てみてほしい。

■第11回さいたまシティカップ 2020  開催概要

大宮アルディージャ vs クラブ・ナシオナル・デ・フットボール

日時
2020年2月9日(日)13時
会場
NACK5スタジアム大宮

※チケットの販売状況等、詳細は大会特設ページをご確認ください

Cooperation Sebastian Amaya(『El Observador』)
Photos: Reuters/AFLO, Getty Images, Bob Thomas Sports Photography via Getty Images

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クラブ・ナシオナル・デ・フットボールさいたまシティカップフットバリスタ大宮アルディージャ

Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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