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酷暑のサッカーにはお金がかかる。ある高校サッカー部監督の提言

2018.08.14


35を超える暑さが続く今年の夏。厳しい日差しの中、外に出るのも危険な環境下で、学生たちはスポーツをしている。子供たちのことを考える指導者であればあるほど、熱中症の危険はもちろんだが、“万が一”を予防するための準備や費用にも頭を悩ませている。もはや真夏の日中にスポーツを行う意味を、再考すべき時が来ているのかもしれない。


 フットボリスタ・ラボに所属しています、和歌山県立粉河高校サッカー部監督の脇真一郎と申します。今回は、ラボ内で私が展開した「酷暑における練習中止の判断」の記事を編集したものをお送りします。


「暑さに耐えた」結果パフォーマンスが落ちるのは、本末転倒では?

 事の発端は、去る7月16日以降の猛暑が続く中での、部活動中止判断に対する反響でした。この週は、前週まで比較的過ごしやすい日が続いていたこともあり、その落差も相まって身の危険を感じるような猛暑となりました。また本校の日程として、20日の終業式を前に授業は午前中のみで、午後からは連日三者面談にあてられていました。部活動は面談時間と並行して、ちょうど暑さのピークとなる午後の時間帯に行なわれることとなっていたのです。

 夏場の練習では、日陰確保のためにテント(運動会とかで使うやつ)を2張り設置、氷水をポリバケツに溜めスポンジでアイシングするものを準備し、スクイズボトルは常に氷水を入れ、塩分チャージタブレットは箱で準備、ということを例年行ってきました。

 18日(水)の練習ではこれに加え、「炎天下では20分以上連続でプレーさせず日陰に入る」、「全体でも2時間までで練習を終える」、を追加しました。さらに、学校付属の製氷機では追いつかないので、スーパーに走ってバラの氷を15kgほど、板氷を2枚、クールダウンと糖分補給用に果汁アイスを人数分購入しました。そして、これらを準備した上で予定通り調整を行いました。幸いにも、誰一人として熱中症の症状を訴えることなく、18日の練習は終わりました。

 翌19日(木)は、前日同様の猛暑となりました。そこで、部員たちには「この日の部活動は中止とする」旨を伝達しました。その判断の根本には、「この環境下での活動が、トレーニングであり得るか」という疑問、「やり方次第で無意味ではない」のバランス取りがあって、そこに日程的な要素を併せての決定、という感じです。

 これは18日のトレーニング中の状況から、「このような形で練習をしていても、選手たちは『暑さに耐える』ことが焦点化され、トレーニングの効果を考えると疑問が残る」と判断したこともあります。確かにリーグ戦等の日程上、暑さに耐えることも求められる要素なのかもしれません。が、選手たちが「この暑い中、とにかく頑張った」結果、常に消耗が重なって試合でのパフォーマンスが落ちるのなら、それは本末転倒でしょう。

 ですので、「この環境を効率的に乗り切って、パフォーマンスを落とさず意味ある取り組みにするかを考えて頑張っていこう」、と伝えました。水曜の負荷を木曜に上乗せするよりは、一度リフレッシュを挟み、20日(金)に調整して週末の試合へ向かう判断をしました。

 選手たちは納得してくれていたと思いますし、21日(土)の試合でのパフォーマンスも良かったと思います。保護者の方々の反応までは聞けていないのですが、とはいえ、普段から同様のスタンスで取り組んでいること、選手たちにも判断の根拠を伝えるようにしていることと併せれば、ネガティブな取られ方はしていないのかなとは思います。


バラ氷は1kg200円前後。バカにならない負担

 ここからは、少し話を拡大して「本校サッカー部におけるその他の熱中症対策」「本校の他クラブ、近隣校での対策」「インターハイ会場で行なわれていた対策」「私からのお願い」を追記させていただきます。


<本校サッカー部におけるその他の熱中症対策>

 練習時の対策は上記の通りですが、試合時ではさらに噴霧器を準備して氷水を入れ、アップ時や給水、クーリングブレイク、ハーフタイム・試合後などに首筋を中心に冷やすようにしています。また、小型クーラーボックスにハンドタオル10枚程度と氷水を入れ、クールダウンに使用しています。あとは、ポカリ等を常時摂取できるように準備しています。

 これだけ対策をしても、1カ月程度で数人は熱中症の症状を訴える選手が出てしまいました。重篤な者がいなかったのは幸いでしたが、印象としては選手自身の体調管理と、精神的負荷の強さに強く影響を受けていたように思います。症状が出た選手に、手足等の末端を冷やして深部体温を下げる方法を試しましたが、効果はあった印象でした。


<本校の他クラブ、近隣校での対策>

 本校のグランド使用クラブには野球部、ソフトボール部、陸上部があります。例年の様子として、夏季はソフトボール部は練習開始時間を早朝にし、気温が上がる頃には終わるようにしています。陸上部はテントを設置しつつ、練習時間を短くして取り組んでいます。

 この辺りは今年も変わらずでしたが、野球部は気温の高い時間帯に室内でビデオミーティング等を行ない、炎天下での練習時間を短く設定するようになりました。また近隣校のサッカー部の様子としましては、本校と同様に急きょオフを設定したところもあれば、水分補給程度で活動を行なっているところもあって、様々でした。


<インターハイ会場で行われていた対策>

 8月7日、三重県で行われましたインターハイの視察に行ってきました。暑さも和らいだ印象ですが、事前対策として行われていたこととしてはチームベンチには各1台ずつ大型ミストファンが設置され、手持ちのポリバケツには氷水を入れ、スポンジをいくつか入れたアイシング用のセットを運営側で準備、提供していました。本部には、スポーツドリンクも常備していたと思います。


<私からのお願い>

 特に、今年の夏を過ごす中で感じたことからお願いをしてみたいと思います。

 例えば練習を炎天下で行わざるを得ない場合、本校の今年の基準で考えると、バラ氷を15kg前後、板氷をいくつか使用しています。これを金額換算すると、バラ氷が1kgで200~250円程度、板氷が1枚250~300円程度ですから、氷だけで毎回相当な負担が必要です。試合となると、さらに増えます。

 議論の在りどころとして、活動時間帯であるとか試合の有無であるとか、そのような根本的なものが優先されるべきなのですが、あくまでも現状のまま活動をする前提で考えるなら、この「氷が大量に必要」という部分を乗り切る知恵を貸していただきたいと思うのです。

 それこそ氷屋さんがスポンサーに付いてくれて、なども思いますが、要は「どこの活動においても実現でき得る」こととして何か方策はないものかと悩んでおります。

 最後に。今年の夏だけが異常なのではなく、きっとこれからも同様の、下手をすればこれ以上の過酷な環境下でトレーニングや試合を行うことが避けられない状況が続くことが予想されます。

 個人的には、「選手ファースト」であるべきという思いは強い方と思っていますが、その方向で考えるなら、やはり議論は日程や活動時間帯といった部分に収束すべきと思います。この記事もただの熱中症対策の話で終わるのではなく、「この時期に活動をするなら、これくらいの負荷がかかる」という事実を知っていただき、根本的な議論へと広がっていく一石となれば、との思いです。

 ワールドカップの喧騒が過ぎ去る中、日本サッカーのこれからを考える意識の種は確実に蒔かれていると感じています。末端の一指導者の些細な意見かもしれませんが、このような気候環境もまた日本という国が避けて通れない部分でもあります。そことどう向き合うか、そんなことを考える契機に繋がることを期待しています。

Photos: Toshihide Ishikura
Edition: Daisuke Sawayama

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トレーニング猛暑育成

Profile

脇 真一郎

1974年10月31日、和歌山県生まれ。同志社大学卒。和歌山県立海南高等学校でサッカーと出会って以降、顧問として指導に携わる。同県立粉河高等学校に異動後、主顧問として指導を続け7シーズン目となる。2018年5月に『フットボリスタ・ラボ』1期生として活動を開始して以降、“ゲームモデル作成推進隊長”として『footballista』での記事執筆やSNSを通じて様々な発信を行っている。Twitterアカウント:@rilakkumawacky

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