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フェリペ・メロは、「らしさ」健在。ピッチ外では子煩悩な猛犬

2018.08.03

名優たちの“セカンドライフ”


欧州のトップリーグで輝かしい実績を残した名優たちが、新たな挑戦の場として欧州以外の地域へと旅立つケースが増えている。しかし、そのチャレンジの様子はなかなか伝わってこない。そんな彼らの、新天地での近況にスポットライトを当てる。


from BRAZIL
FELIPE MELO
フェリペ・メロ


 2005年から16年までユベントス、インテル、フィオレンティーナ、ガラタサライといったビッグクラブに在籍し、闘志剥き出しの激しい守備で一世を風靡した“猛犬”は、母国ブラジルへ戻った今も健在。ピッチ内外で、らしさを存分に発揮している。

 17年1月、母国の名門パルメイラスと3年契約を締結。入団会見に両親、愛妻、子供たちを同席させ、「このクラブのためにベストを尽くす」とコメント。にこやかな笑顔の中にも、闘志を露わにした。

 その言葉通り、中盤の底で体を張り、敵のアタッカーを体ごと跳ね飛ばすような猛烈なタックルを見舞う。「危ないじゃないか。気が狂っているのか」などと相手選手が抗議すると、鬼の形相でその何倍も言い返す。相手選手のみならず、審判、監督、チームメイト、クラブ首脳、メディア関係者、サポーターの誰とでも衝突して物議を醸す。高い守備力に加え、確かなテクニックも備えているのだが、彼の異質のプレースタイルと人間性はチームに与える影響も大きく、監督によって評価が大きく分かれる。

 2017年前半、かつて柏レイソルやヴィッセル神戸を率いたネルシーニョ監督の息子エドゥアルド・バチスタが指揮を執っていた間は絶対的レギュラーだったが、5月に監督がクッカ(2013年にアトレチコ・ミネイロを南米王者に導いた大物だ)に代わると、ベンチを温めることが増えた。すると、「欧州のビッグクラブでレギュラーを張り、セレソンの一員としてW杯にも出場したこの俺がどうして控えなんだ」と不満タラタラ。7月末、監督は彼の反抗的な態度に業を煮やしてチームから追放。以来、試合出場はおろかチーム練習にも参加させてもらえず、一人ぼっちで練習しながら他チームからのオファーを待った。


「世界一の夫にして父親」

 それでも、この男は落ち込んだりしない。「アイツ(監督)は臆病者で大嘘つきだ」「俺にはオファーが殺到しているんだ。こんなクラブ、いつでも出て行ってやる」と知人に言い放ち、その録音がインターネットで流れて大騒ぎになった。

 彼は高給取りでもあり、クラブの会長は彼の移籍先を求めて奔走。しかし、実力は認められても問題児ぶりがネックとなり、移籍がまとまらない。8月下旬、会長がクッカ監督と彼を引き合わせて仲を取り持ち、再びチームに加わった。それでも控えのままだったが、10月に監督が交代してから出番が増加。今年は新たに就任したロジェール・マシャド監督に実力を評価され、主力として試合に出続けている。キャプテンを任されることもあり、それが大きな励みになっているようだ。激しいタックルでイエローカードをもらうことが多く、累積警告で欠場することも少なくないが、これは彼のプレースタイルからすれば仕方がないだろう。

 私生活では、妻と4人の子供(3男1女)を溺愛し、「家族は俺の命。何があろうと俺が守る」と言い切る。妻のロベルタさんは、「みんな誤解しているようだけど、本当の彼はとても優しいの。もの凄く子煩悩で、世界一の夫にして父親なのよ」と語る。家族の前ではまったくの別人らしい。

 ピッチ内外で「ジキル博士とハイド氏」を行き来する性質は、どうやら直りそうにない。6月末で35歳になったが、これからもピッチ内では“猛犬”であり続けるようだ。


Felipe Melo
フェリペ・メロ

(パルメイラス/元ブラジル代表)
1983.6.26(35歳)183cm/76kg MF BRAZIL

2001-03 Flamengo
2003   Cruzeiro
2004   Grêmio
2005   Mallorca (ESP)
2005-07 Racing (ESP)
2007-08 Almería (ESP)

2008-09 Fiorentina (ITA)


2009-11 Juventus (ITA)


2011-15 Galatasaray (TUR)


2015-16 Internazionale (ITA)


2017-   Palmeiras


Photos: Getty Images

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Profile

沢田 啓明

1986年ワールドカップ・メキシコ大会を現地でフル観戦し、人生観が変わる。ブラジルのフットボールに魅せられて1986年末にサンパウロへ渡り、以来、ブラジルと南米のフットボールを見続けている。著書に『マラカナンの悲劇』(新潮社)、『情熱のブラジルサッカー』(平凡社新書)など。

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