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子供たちに喜びを。ドイツ連盟の新たな試み「フニーニョ」(後編)

2019.04.28

 前編では、ドイツサッカー連盟が10歳未満のジュニア世代で本格導入しようとしている“フニーニョ”の紹介をした。また、この3対3をベースにしたルールが、子供たちの創造性や実戦の中でボールに頻繁に触れる機会を育むだけではなく、子供たちが純粋にサッカーを楽しむための戦略的な方針転換だということも説明した。今回は、より具体的に疑問点について応えていきたい。

GKはどうする?

 ドイツは、マヌエル・ノイアー(バイエルン)やマルク・アンドレ・テアシュテーゲン(バルセロナ)のような選手を輩出している“GK大国”としてよく知られている。古くはゼップ・マイヤー、近年のオリバー・カーン、そして前述の2人につながるように、GKのポジションの選手は伝統的にチーム内でも大きな人気を誇り、メディア露出でも抜群の存在感を発揮している。

 それだけに、幼少の頃からGKでプレーすることに憧れる子供たちも少なくない。その問題には、「3対3+GK」という妥協案が示された。ルールは、次のようなものだ。

(1)GKは、2つのゴールを守る。
(2)GKがプレーする“GKゾーン”を設定する。
(3)シュートはセンターラインを越えて、敵陣内に入ってから
(4)希望に応じて、GKは試合ごとにローテーションを行う。

独誌『キッカー』が紹介している「3対3+GK」の“フニーニョ”

 原口元気や浅野拓磨が所属するハノーファーのサッカースクール統括を務めるマルコ・クレシッチは、4月23日の『キッカー』のなかで、長期間に渡ってこれを導入した実感を説明している。

「GKは手を使えますが、“GKゾーン”から出てはいけません。後方からゲームメイクに参加する一方で、2つのミニゴールの間にポジションを取ることで、空間に対する感覚を養うこともできます。

 すべての選手が、このようにすべてのポジションを経験することで、多面的な成長を促すことができます。こうして、私たち指導者も、選手たちの基本的な潜在能力をより高めることができます。これは、GKにも当てはまります」(クレシッチ)

 ホッフェンハイムのGKコーチを務めるミヒャエル・レヒナーも、同記事のなかで、次のように同調する。

「(もし子供が希望するのなら)8、9歳からGKのポジションを専門的に学ばせるのは、問題ない。だが、そこで初めてGKの技術を学ばなければならないことには、思うところもある。本来なら、ずっと早い時期にGKの“原体験”を培わなければならない」(レヒナー)

勝利への闘争心が失われる?

 また『キッカー』は「勝利への闘争心が失われるのでは?」という点に対しても答えを提示している。ホルスト・バイン氏とともに“フニーニョ”を提唱し、普及を進めているマティアス・ロッホマン教授(スポーツ生物学、運動医学)は、この点に対して同誌の中で明確に答えた。

 リーグ戦で一巡した後に、それぞれの順位に合わせて“チャンピオンズリーグ”、“ヨーロッパリーグ”や“ブンデスリーガ”という具合にクラス分けをしたあとで順位を決めれば良い、というものである。

「私たちは、成功を目指す野心をなくそうとは思っていません。原則的に、私たちは、結果を求める姿勢と、スポーツの普及に努め裾野を広げる考え方の“結婚”を考えています。問いは、『社会がそれを欲しているか? それとも否か?』というものです。ドイツサッカー連盟は、自分でその答えを出したということです」(ロッホマン教授)

 現状のようにハーフコートで7対7を行い、控え選手がベンチに座るぐらいなら、そのコートを4面に区切ってレベルに応じた対戦相手と3対3を4カ所で行えばいい。10歳未満の子供や両親にとって、サッカーがストレスにならないルール作りに着手したドイツサッカー連盟の動向に注目したい。


Photo: Getty Images, Tatsuro Suzuki

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ブンデスリーガ育成

Profile

鈴木 達朗

宮城県出身、2006年よりドイツ在住。2008年、ベルリンでドイツ文学修士過程中に当時プレーしていたクラブから頼まれてサッカーコーチに。卒業後は縁あってスポーツ取材、記事執筆の世界へ進出。運と周囲の人々のおかげで現在まで活動を続ける。ベルリンを拠点に、ピッチ内外の現場で活動する人間として先行事例になりそうな情報を共有することを心がけている。footballista読者の発想のヒントになれば幸いです。

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