福山シティFCの成長を支えているのは、売上や観客動員、カテゴリーといった目に見える数字だけではない。選手やスタッフ一人ひとりの人生に目を向け、地域との接点を増やし、クラブを離れた後にも続いていく人と街のつながりをつくる。選手を「市場の商品」として扱うのではなく、それぞれの価値を高めながら、クラブ、スポンサー、地域社会へと循環させていく――。後編では、岡本佳大代表が考える人材育成、キャリア、地域との関係、そして福山市の象徴として目指す未来について聞いた。
「クラブにとってメリットしかない」経営ノウハウを公開・共有する理由
――昨秋には著書『スポーツクラブ経営3.0″地方発”福山シティFCが実践する新時代の経営戦略』(総合法令出版)も出版されて、スポーツビジネスと地域活性化の相互作用についてノウハウを開示されています。さらに同カテゴリーのライバルクラブにも、福山シティFCの経営戦略を積極的に伝達していると聞きました。どういう意図があるのでしょうか。
「サッカークラブの経営は、通常の事業会社の経営とは全然違うと思っています。例えば特殊技術を扱う一般の企業であれば、その技術は企業秘密ですよね。そのノウハウが漏れて他社に真似されると、自社の経営がダメージを受けかねません。ですが、サッカークラブの経営のノウハウは、それが他クラブに真似されたところで、経営的にダメージを被るようなことはないと思っているんですよね。なぜかというと、Jリーグが誕生した当初、ホームタウン制を敷いて活動エリアを各クラブごとにゾーニングすることで、領域と権益が守られた状態になっていたことが大前提にあるからです。それに加えていまは、サッカー界全体がよくなっていくことが大事だというムーブが、メディアを通じても多く謳われています。
そういった時流に乗ることが、経営をしていく上では何よりも大事だと私は思っているんですよね。自分の領域や権益ばかりを守り続けていると、いつしか化石化して自分自身がアップデートできずに“オワコン”になってしまいかねない。そちらの方がリスクだと思うので、我々はとにかくオープンマインドに開示していくし、逆にそのことによっていろいろなネットワークを通じて多彩な新しい情報がどんどん入ってくるようになっているという印象です。本当に、いろいろな方面からいろいろな方を紹介していただけるようになって、クラブにとってメリットでしかないという状態になっています」
このたび、初の著書『スポーツクラブ経営3.0 ─ “地方発”福山シティFCが実践する新時代の経営戦略』を出版いたしました。
地方クラブ経営のリアル、スポーツを通じたまちづくり、そして次代のスポーツビジネスの可能性を、福山シティFCの実践現場から生まれた“挑戦の記録”としてまとめた一冊です。… pic.twitter.com/2LGcFSaMvw
— 岡本 佳大|福山シティFC (@keita_okamoto_) November 2, 2025
40~50億円の資金調達も視野に。スタジアム構想と次なる成長戦略
――現在、スタジアム建設プロジェクトはどこまで進んでいるのですか。
「いまは土地の決定を進める準備段階で、土地に関しては行政からお借りするというスキームです。行政がどう活用しようかと悩んでいる土地があり、そこを我々がお金を払って使わせていただけるように、いろいろと根回しをしながら進めています」
――現代のスタジアムはまちづくりの一環でもあり、かつて“箱物”と言われたものとは違う位置づけになっていますよね。
「はい。そのありようまで行政に丸投げするのではなく、やはり民間やサッカークラブのアイディアやリソースを使ったスタジアム作りが、すごく大事になると思います。
来月もまたオランダにスタジアムの視察をしに行くんですけど、地元の人たちも一緒に連れていくし、日本政策投資銀行や出資を検討してくださっている銀行の方々にも同行していただくつもりです。40~50億円の資金調達の目処も立ってきたので、あとは土地さえ決まれば着工に向けて前進していける状況です」
――ここまで非常に順調にクラブを成長させてこられた中で、リスクマネジメントについてはどうお考えですか。
「そこはかなりしっかり考えています。まさに、これまでの5年間は私の勢いでやってきたところがあるんですけど、いまJ3クラブの平均くらいの売上げになってきたので、あらためてガバナンスとコンプライアンスを考えなくてはなりません。実はちょうど来月からアドバイザリーボードも設置して、きちんとガバナンスを利かせた経営体制へと切り替えていくところなんです。地元の商工会議所の副会頭にも社外取締役に入っていただけることは、地域にとってシンボリックな、なくてはならないクラブになった証なのではないかと思っています」
――この調子で行けば、史上最多のサポーター数で地域CLに臨むことにもなりそうですね。
「それを目標にできればなと思いますね。我々は6月のホームゲームには約6300人の入場者数を記録したんです。それはクラブのポテンシャルというよりは、そもそも街のポテンシャルだと思っていて。ということは、我々がJリーグに上がった時には、1万から1万5千人収容のスタジアムも作れるだけのポテンシャルがこの街にはあるということだと思っています」
選手の「物語」を自分で書く。個人の価値を高めるクラブづくり
――代表ご自身がサッカー経験者であることは大きいですね。
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Profile
ひぐらしひなつ
大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。最新刊は2023年3月『サッカー監督の決断と采配-傷だらけの名将たち-』。 note:https://note.com/windegg
