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西野努のJリーグ現状分析(後編)。「社長として一番大事なのは、クラブのビジョンを言語化して掲げ続けること」

2026.02.26

「古巣への配慮から特定クラブに関する発言は控えるという前提のもと、オフシーズンに西野努氏のインタビューが実現。フリーの立場でJクラブの現状分析と発展の方向性を議論するというものだったが、インタビューの直前に「実はアビスパ福岡の社長に就任することになりました」と伝えられ、びっくり。急遽、“その話”も聞くことになった。

後編では、西野努氏がこれまでの経験からたどり着いた“クラブにとって本当に必要なもの”を言語化していく。なぜ今、クラブフィロソフィやゲームモデルが求められるのか。なぜ強化と経営をつなぐデータ人材が不可欠なのか。そして、特殊な仕事である強化責任者は、何を学び、何をクラブに残すべきなのか。話題はやがて、アビスパ福岡の社長に就任するという新たな挑戦へと及ぶ。

「社長として一番大事なのは、クラブのビジョンを言語化して掲げ続けること」――強化の最前線を知る人物は、経営の立場からJクラブの未来をどう描こうとしているのか。その思考の輪郭に迫る。

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なぜフィロソフィやゲームモデルが必要なのか?

――西野さんは強化責任者を歴任してきましたが、そもそも強化の職域とは何でしょう?監督選びや移籍マーケットを含めたチーム編成、メソッド部門、アカデミー部門など多岐に渡ると思いますが。

 「強化担当の職域はクラブによって異なります。役職名も強化部長、GM、SDなど様々です。一般論を言うと、トップチームの強化責任者であれば社長の下でトップチームの人事と予算の権限を持って、勝つためのチーム作りを担うことになります。そこにアカデミーの仕事が含まれるかはクラブ次第ですね。強化責任者の下にアカデミーが入るケースもあれば、アカデミーダイレクターが別組織として経営とつながっているケースもあります。クラブの規模ややり方によって変わってくる部分ですね」

――昨今、クラブフィロソフィやゲームモデルの必要性が叫ばれていますが、この策定は強化責任者の仕事でしょうか?

 「そうだと思います。フィロソフィやゲームモデルを言語化したり、項目を作ってデータの数字を決めたりしなければならない、というのはみんな理解しています。ただ、それを監督が実践できるのか、ゲームモデルをきちんと言語化して共有することができるのか、実際にやるのは全く簡単ではありません」

――やった方がいいと思いますか?

 「やった方がいいし、やり続けなければいけません。一回作って終わりではなく、作ったら監督とすり合わせが必要ですし、作ったゲームモデルが今のリーグで勝てるサッカーになっているのかもチェックしなければいけません。毎年マイナーチェンジをやり続けることが大事です。それがあることで監督選びや選手獲得の解像度が上がりますし、みんなが同じ基準で話せるようになります。何より、経営サイドとコミュニケーションを取る時に必要になります。サッカーの専門家ではない人に『なぜ、この監督なのか』『今までのチームの問題点は何で、何が改善ポイントなのか』『他の優勝争いをしているチームとの差は何なのか』などの会話は、共通言語やデータがないとできません。毎年更新して、それをもとに経営陣とコミュニケーションを取り、クラブの方針を決定する――言葉と数字を持つことの最大の目的はそこにあると思います」

――ちなみに、そのゲームモデルはアカデミーと一貫しているべきですか?

 「そこはクラブによりますよね。トップとアカデミーが全く同じゲームモデルでないといけないのかという問いもあります。トップチームへの選手輩出が一番の目的ですが、別に他のクラブでプロになってもいいし、トップ昇格後に移籍する選手もいるでしょう。だとしたら、どこのチームに行っても活躍できる選手を育てる必要がありますよね。もちろん、トップからアカデミーまで一気通貫しているクラブがあってもいいと思います」

――個の育成という意味では、トップの強化責任者とアカデミーダイレクターとの緊密な連携が必要ですよね?

 「そこはすごく大事ですね。トップとアカデミーの垣根はない方がいいですし、可能ならば同じ場所でやった方がいい。そうでなくても、スタッフが行き来できて、常にコミュニケーションが取れることが大事です。そういう意味ではエリートリーグやU-21リーグは2つをつなぐものとしての価値があります。

 役職としても、インディビジュアルコーチという個の育成に特化したコーチをトップとアカデミーの双方に置くクラブは増えてきていますし、育成年代のフィジカルデータを記録して成長を可視化したり、栄養管理や生活面全般のフォローをしたりと全方位的な育成が可能になってきています。あとは、そこにクラブがどれだけ投資できるか次第ですね」

――データに関して、現在は現場の監督の下にアナリストがいることが多いと思いますが、海外では強化サイドに紐づく形でデータサイエンティストがいたり、データ部門があったりしますが、Jでも同じような人材・組織は必要でしょうか?

 「私も過去のクラブでデータサイエンティストを雇用した経験がありますが、そうした人材は必要だと思います。監督を支えるテクニカルスタッフの一員としてのアナリストは自チームのテクニカル・タクティカルな分析、対戦相手の分析などが主な仕事ですが、強化サイドのアナリストはリクルーティングやスカウティング、さらには強化視点で今のチームの現状を評価するという役割があります。先ほど経営陣とのコミュニケーションやレポート作成のためにデータが必要という話をしましたが、そのサポートをしてもらうわけです。現場のアナリストは我々が意思決定者であることがわかっているので、どうしても難しい部分がある。評価する側とされる側は分けるのが健全だと思います」

特殊な仕事をどう学び、何をクラブに残すのか?

――西野さんはSHC(スポーツヒューマンキャピタル)の理事も担当されていますが、強化担当の学びの場をどう用意するかは難しいですよね。そもそも海外の強化担当はどう学んでいるんですかね?

……

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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