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西野努のJリーグ現状分析(前編)。「強化責任者という仕事の難易度は非常に高くなっている」

2026.02.25

古巣への配慮から特定クラブに関する発言は控えるという前提のもと、オフシーズンに西野努氏のインタビューが実現。フリーの立場でJクラブの現状分析と発展の方向性を議論するというものだったが、インタビューの直前に「実はアビスパ福岡の社長に就任することになりました」と伝えられ、びっくり。急遽、“その話”も聞くことになった。

前編では、Jクラブの強化責任者を務めてきた実体験をもとに、秋春制移行によって変わる移籍市場、高度化する強化戦略、そしてデータ時代における意思決定のリアルを掘り下げる。「強化責任者という仕事の難易度は非常に高くなっている」――その言葉の意味を、Jリーグが迎えた過渡期の構造とともに読み解いていきたい(取材日:1月14日)。

秋春制は「強化責任者の仕事」をどう変えるのか?

――若手の海外移籍が加速すると同時に今年から秋春制が始まるなど、Jリーグ1つの過渡期を迎えています。ビッグクラブの強化責任者を務めてきた西野さんは現状をどう捉えていますか?

 「秋春制への移行でヨーロッパとシーズンが同じになりますので、選手の出入りの垣根が下がり、移籍市場の競争はさらに激しくなるでしょう。それは選手だけでなく、監督・コーチにも同じことが言えます。当たり前の話ですが、選手が出ていく際にはいかにお金(移籍金)を残せるか、獲る時はいい人材をいかに安く獲るか。強化担当にはよりビジネス的な感覚が必要になりますし、クラブの総合力が問われることになるでしょう。

 もう1つはその点とも関連しますが、データをどう使うかですね。選手の評価、スカウティング、チームのパフォーマンス分析、今は当たり前のようにたくさんのデータがあるので、それをどう使うかが問われています。大きなポイントはその2点ですね」

――秋春制で外国籍選手のトレンドが変わったりするのでしょうか? 例えば同一シーズンだったブラジル人が減り、ヨーロッパ系が増えるとか。

 「ブラジル人選手がシーズンのギャップで減ることはないと予想しています。Jリーグにブラジル人選手が多いのはシーズンが揃っているということ以上に、ピッチ外の要因も大きいです。日本にはブラジル人のコミュニティがありますし、生活面も含めて彼らは日本に適応しやすいのはあります。海外に出たいブラジル人選手はその手前の契約で準備しますし、ブラジルのクラブはきちんとお金を払うなら出してもいいというスタンスですからね。シーズン移行で外国籍選手のトレンドが大きく変わるというのは、今のところ考えていません」

西野努氏

――西野さんは浦和時代に北欧路線と言われたように独自ルートの補強が目立ちましたが、ヨーロッパからの補強は広がる余地はありますか?

 「この仕事を始めた時から広く情報を集めることは意識していました。なるべくたくさんの情報を得た上で、それを精査してターゲットを絞り、取りに行く――そのポリシーはずっと変わっていません。北欧路線というのもその中から出てきた方向性で、北欧のリーグには欧州の5大リーグに行けなかった質の高い20代後半の選手たちが一定数いて、その選手たちは能力的にピーク、あるいはこれからさらに成長が見込めるかもしれない。彼らの中には国外のプレーを望む選手も多いのですが、そういう選手の現実的な選択肢はアメリカか、日本なんです。国外でのプレー経験がないから年俸が安くて移籍金も高くない割に、プレーのクオリティはヨーロッパのトップレベルに近い選手もいます」

――なるほど。欧州のクラブが望むのはこれから価値が上がりそうな10代後半、20代前半の選手なので、そこを過ぎると魅力が半減するというか、そもそも獲りませんよね。つまり、穴場になっていたと。

 「はい。しかも、彼らは日本に対するリスペクトがすごくあって、文化的なギャップに苦しむことも少なかった。結果的にいいマーケットだったんです。たまたま自分たちのネットワークの中で北欧に強いエージェント以外の頼れる人がいて、新たなルートを開拓することができました。売り込みや問い合わせは山のように来ますが、クラブとして、あるいは個人として信頼できるコミュニティ、ネットワークをどれだけ持っているかは重要です」

――最近はデンマークが移籍ビジネスに本腰を入れたことでデンマーク人選手の値段が上がっていると聞きますが、日々移り変わる情報を常にキャッチアップしていくことで穴場になりそうなルートも見つかるということですよね。いろんなルートの可能性という意味で、データスカウティングはどう捉えていますか?

……

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Profile

浅野 賀一

1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。

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