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分析データで示す柴山昌也の可能性。ビデオトラッキングの革新者、SkillCornerが測るJリーグと世界の距離

2026.02.12

世界から見たJリーグ#8

日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。

第8回では、『J STATS REPORT』や『WEリーグ スタッツレポート』のデータ提供元として知られ、ビデオトラッキングで各国におよぶ120以上の大会を網羅しているSkillCornerの担当者2人に、Jリーグと世界の距離を測ってもらった。

AIで試合映像から画面外の選手の動きまで予測

――まずは読者のみなさんへ自己紹介をお願いします。

モーガン「モーガンと申します。現在はSkillCornerのビジネス開発ディレクターを務めていて、入社から数えると8年目になります。エンジニアとしての経歴があり、まだSkillCornerが小さかった頃からともに成長してきたので、弊社の歴史や展開についてお話させていただきますが、サッカーそのものについてはただのいちファンなので、データスカウトのトリムにお任せします(笑)」

トリム「マーケティング部門のコンテンツプロデューサー、そしてデータスカウトとして多方面に働いているトリムと申します。SkillCorner公式サイトでスカウティング記事の連載『Contextual Scouting』を執筆しており、ゲームインテリジェンスを用いて選手のプロフィールを作成しながら、クラブの強化現場におけるデータ活用術を実践的に紹介しています。入社前は数年間サッカー指導者として働いていたので、その経験も生かしてデータを扱うようにしていますね。様々なサッカー文化に興味を持つ中で、特に日本サッカーに強い関心を抱いていて、W杯に合わせて日本代表も熱心に追いかけているくらいです。技術と献身性が高い日本人選手のプレーを見るのをいつも楽しみにしています」

SkillCornerのトリム氏とモーガン氏

――まずモーガンさんにうかがいたいのですが、SkillCornerはどのようにビジネスを展開してきたのでしょうか?

モーガン「まずSkillCornerは、2016年にウーゴ・ボルディゴーニとシャルル・モンマネックスが共同で創業したAIデータソリューション企業です。当時彼らはMBA(経営学修士)取得の履修課程でどんな起業ができるかを考えていたところ、コンピューターエンジニアリングの経歴を持つウーゴが、当時はテレビで試合を見ながら手作業でコーディングしていたサッカーのデータを、コンピュータービジョンと機械学習で自動収集していく構想を思いつきました。それをきっかけにAIで試合映像からトラッキングデータを取得したり、その分析データを提供してきましたが、当初からロシアW杯まではそれらをSNSに投稿するようなスポーツベッティング向けのサービスを展開していたんです。それを目にしたリバプールがSkillCornerのトラッキング技術の革新性に気づき、世界各国のリーグやクラブの全選手を一度に比較しなければならないスカウティングでも役に立つのではないかと興味を示してくれたんです。そこから方針を転換してスカウティング、選手契約、パフォーマンス分析、戦術理解度向上などに生かせるデータをチーム向けに販売するようになって事業を拡大してきました。ここ数年はバスケットボールやアメリカンフットボールにも展開しています」

――当時のリバプールの研究部門では物理学者のイアン・グラハムがディレクターを務めていて、彼を中心にイベントデータやトラッキングデータから一つひとつのプレーを評価していく「Expected Possession Value」(EPV)と呼ばれる指標を開発し、世界中の選手をスカウティングしていたという記憶があります。彼らはSkillCornerに、どのような革新性を見出したのでしょう?

モーガン「当時から現在に至るまでトラッキングと言えば、まず思い浮かぶのはGPSトラッキングか、光学トラッキングが一般的です。まず前者は選手に加速度計、磁力計、心拍計が内蔵されているGPSデバイスを選手に装着してもらわなければなりません。その分、走行距離、加速回数、減速回数、方向転換回数に加えて、心拍数やトレーニング負荷などの細かなフィジカルデータも取得できますが、もともと公式戦のルール上では着用が禁止されていたという背景もあり、今でこそ導入が各大会の運営者や主催者に委ねられているものの、まだまだ認められていない大会も多いのが現状です。つまり用途が練習中に限られてしまうので、どちらかといえばコンディション管理に使われがちなほか、チーム単位での管理が多く自チームのデータは取得できても他チームのデータが取得できないため、比較しにくいという難点があります。

 一方、後発の光学トラッキングはリアルタイムで計測したピッチ全体の22選手やボールの位置をコンピュータービジョンで再現して1試合で数百万に上るデータポイントを取得できるため、世界各国の20~30のリーグでスタジアム常設型の光学トラッキングの導入が進められています。ただ、その計測機器であるスタジアムに1秒間に数百コマを撮影できる最先端のカメラを複数台設置する必要がある分、費用がかさむのはもちろんのこと、スタジアムをクラブが保有していない場合は、そもそもカメラが設置できないので全リーグ・全クラブが導入できるわけではありません。さらに同じGPSトラッキングや光学トラッキングでも、機器や機材によって計測方法が異なるため、一概に比較できないという難点もあります。

 そこでSkillCornerが開発してきたのがビデオトラッキングで、中継用であれ分析用であれ、試合映像さえ手に入ればそれを基にピッチ上の22選手とボールの動きを自動で追跡して、それぞれがX軸、Y軸の座標でどのように変化したのかを数値化したトラッキングデータを抽出・作成できるトラッキング技術を研究しています。他のトラッキング技術で発生する物理的・予算的な制約を無視してコストパフォーマンスよくトラッキングデータを取得できるため、同じデータセットの中でチームやリーグの垣根を越えて選手を比較できるのが強みです」

共同創業者のシャルル・モンマネックス氏が公開しているビデオトラッキングのデモ動画

――ただ、試合映像では選手がカメラの外に移動することもありますよね。

モーガン「もちろん、試合中継ではカメラそのものも角度を変えるので選手が画面に映らないこともありますが、その動きは過去の光学トラッキングのデータやポジション別のパラメーターを機械学習しているAIが補ってくれます。選手が画面から外れた地点と画面へと戻ってきた地点を基に、その間の動きを予測できるということですね。精度は100%ではなく、その誤差を数字で表すのは難しいですが、SkillCornerのトラッキングデータと大会公式のトラッキングデータを比較する検証研究を行う中で、スカウティングや戦術分析に用いる上で十分な精度があることが証明されており、FIFA ベーシックというFIFAの認証も得ています。プロからアマチュアまで、尺度を変えながらビデオトラッキングを行うのは非常に難しく、映像の品質やカメラの角度、視認性、天候・ピッチコンディションなど様々な障壁がありますが、数百の大会、数千のスタジアム、数十万試合に及ぶ経験と、長年にわたるエンジニアリングの改善によって、SkillCornerはこの分野を牽引する立場となることができました」

ベルギーリーグが世界一スカウティングされている理由

――分析データはどのような内容なのでしょう?

モーガン「トラッキングデータを分析したデータは2種類あります。1つはトラッキングデータから算出した選手の走行距離、ハイスピードラン(時速20km以上時速25km未満)距離、スプリント(時速25km以上)距離、最高速度、ハイアクセラレーション(ハイスピードラン到達)回数、方向転換回数などのフィジカルデータですね。もう1つはゲームインテリジェンスという、トラッキングとイベントデータを組み合わせたオン・ザ・ボール、オフ・ザ・ボール問わず、選手の意思決定を評価したデータを提供しています。例えば従来のようにパス本数やパス成功率を出すだけではなく、その一本一本の選択肢や難易度、そのラインブレイク数、その受け手となる選手のポジショニング、その相手となる選手のプレッシャーなどを数値化しています」

ゲームインテリジェンスの紹介動画

――フィジカルデータについては、よくスポーツ研究国際センター『CIES Football Observatory』の投稿で引用されていますよね。そこで目にするパーセンタイルとはどのような単位なのでしょうか?

モーガン「パーセンタイルとは、計測値を小さい数字から大きい数字の順番に並び変えて百分率で表すと、全体のうちどこに分布するのかを示した単位です。よく全体の傾向を求める代表値として聞く平均値は外れ値や異常値に左右されやすいですが、中央値はその影響を受けにくいという話を聞いたことがあると思います。あれは50パーセンタイルを指していて、全体のうち50%がその値よりも小さく、残りの50%がその値以上になっているという具合です。だから、例えばパス成功率が90パーセンタイルの選手がいたとすれば、それはパス成功率が90%という意味ではなく、パス成功率で全体の選手の90%を上回っている、すなわち上位10%に位置しているという意味になります。つまり、パーセンタイルは様々な種類の指標を正規化してくれるため、最高速度やプレッシャー回数などの統計を同じ尺度で測るのに向いているというわけです。だから『CIES』が公開しているようなランキングで使われているわけですが、あくまでも一つの単位に過ぎません。重要なのは目的や用途に応じて正しく使い分けることで、SkillCornerではそのためにパーセント表示も含めて様々な種類の出力方法を提供しているほか、90分単位、60分単位、30分単位、アクチュアルプレーイングタイム、ボール保持、ボール非保持などの時間や状況に合わせて算出できるようにしています」

――その『CIES』も含めて、サッカー界ではどれくらいの数の顧客を抱えているのでしょう?

モーガン「サッカー界では各国協会・連盟や各国リーグ・クラブも含めて、250以上の顧客がいます。国数では38カ国にわたっていてプロクラブが主です。例えば現時点でプレミアリーグでは全20クラブ、ブンデスリーガでは18クラブ中16クラブ、MLSでは30クラブ中26クラブにご使用いただいているように、世界中にユーザーベースを抱えていますね」

――用途としてはお話にあったようにスカウティングが中心なのでしょうか?

モーガン「中心となっているのはスカウティングです。SkillCornerを使えば120以上の大会の出場選手を一目で比較できるので、例えばJリーグの選手が海外リーグで通用するフィジカルレベルにあるのかどうかを確認できます。世界中から埋もれている有望株や原石を発掘することもできるので移籍に役立った例も数多くありますが、残念ながら機密事項のため詳細を口外することはできません。ただ公開可能な目安として、各リーグのデータがどれくらいの数のクラブに閲覧されているのかを算出しているのですが、現在SkillCornerの顧客のうち179クラブによって分析されているのが、日本人選手が19人参戦しているベルギーリーグです。

……

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Profile

足立 真俊

岐阜県出身。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集の経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。X:@fantaglandista

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