ピュアな若手選手の奮闘。若月大和、大竹優心、笠井佳祐がアルビレックス新潟の未来を照らす!
大白鳥のロンド 第30回
今季のJ1では最下位に終わり、来季はJ2からの巻き返しを図ることになったアルビレックス新潟。だが、チームには確かな希望の光が射し込んでいる。若月大和、大竹優心、笠井佳祐。2025年は苦しみながら、もがきながら、懸命に成長を続けた彼らこそが、これからのオレンジの未来を担い得る存在。そんな3人のピュアな奮闘を野本桂子がすくい上げる。
無音のゴール裏。サポーターの意思表明
それでも、光はある。
アルビレックス新潟は、5月以降、18位以下に低迷し続けた末に、J2降格が決まった。夏場の監督交代と、選手7人の入れ替わり。星雄次、ダニーロ・ゴメスという主力選手2名のケガによる長期離脱。変化するチームの再構築に時間を要し、最後まで1つにまとまりきれなかった。5年かけて這い上がったJ1の舞台から、わずか3年で降りることになった。
今季の戦績は、4勝12分22敗で20位。6月15日を最後に、勝利を味わうことはなかった。チームで最もプレーもメンタルも安定した藤原奏哉ですら、「勝てない試合が多かったので、試合中も練習中も、気持ちが切れたり、崩れかけてしまうことが多かった」と明かすほどに苦しんでいた。SNSを通じては誹謗中傷の言葉が浴びせられ、メンタル的にも追い込まれた選手たちは、自信を失っていった。
どこか淡々した、毎日の練習風景。でも、だからこそ、若手選手のピュアな頑張りが、輝いて見えた。それは新潟の未来を照らす、希望の光だ。
他チームの結果を受けてJ2降格が決まった翌日の、J1第35節・ヴィッセル神戸戦。ウォーミングアップ中、『神戸讃歌』がホームのデンカビッグスワンスタジアムに響く中、新潟のゴール裏は無音だった。横断幕もない。ゲートフラッグもない。歌もない。真ん中に、新潟のエンブレムを描いたフラッグだけが掲げられていたのが、無言のメッセージだった。
歓喜のJ1初ゴール。明るくポジティブな若月大和の魅力
それを見て傷ついた選手も、もちろんいた。しかし「見返してやりたい」と奮起した選手もいた。今季、レノファ山口FCから加入した若月大和だ。
「アップのとき、応援していなかったじゃないですか。(降格したので)そりゃそうだろうな、とは思いつつも、ちょっとイライラしたし、いつもめっちゃ応援してくれているサポーターが応援しないのが新鮮すぎて、逆に『応援しておけばよかったな』と思わせたいなって」。とにかく明るくポジティブな性格が、彼の魅力だ。
この日、ベンチスタートだった若月の出番がやってきたのは、1-2で迎えた75分。谷口海斗と交代で、左サイドハーフとしてピッチに送り出された。すると90分、長谷川元希のスルーパスに、ジャストなタイミングでDFの背後をとった若月が、ニアサイドを強襲。「背後へ抜けるのがすごく得意」という若月の名刺代わりの一発は、自身のJ1初ゴールとなり、チームに勝点1をもたらした。試合が始まれば応援をしてくれたゴール裏で、喜びを爆発させた。
「降格が決まってからの1点であっても、来年に繋がる1点だと思いますし、このクラブの未来のためにも、大きかった1点じゃないかなと思います」。サポーターも、待ちかねた新戦力の初ゴールに沸き返った。昨季、山口では7得点を決めていた若月にとって、久々にピッチで味わう興奮だった。
初先発間近で無念の欠場。新シーズンに懸かる大きな期待
続くJ1第36節は、若月の古巣・湘南ベルマーレとの対戦。「今、チームで一番勢いがあるのは自分だと思う。その勢いで、みんなに火をつけて『湘南倒すぞー!』って、引っ張りたいです」と、元気いっぱいのコメントで意気込みを語り、試合に臨んだ。
この試合も、0-5だった57分から、途中出場。奥村仁と交代で入り、長谷川と2トップを形成すると、流れを引き寄せる。84分、ボールを奪いに行ってPKを獲得。キッカー長谷川がこれを決めて1点を返す。球際であきらめない姿勢を見せ、2試合連続で得点に絡んだ。

これはいよいよ、今季初先発か。そう思われた、J1第37節・柏レイソル戦の数日前、若月はピッチから姿を消した。公式発表はされなかったが、どうやら負傷したらしい。リハビリのため、外に出てきた若月に声をかけると、明かしてくれた理由も、純粋すぎる若月らしかった。
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Profile
野本 桂子
新潟生まれ新潟育ち。新潟の魅力を発信する仕事を志し、広告代理店の企画営業、地元情報誌の編集長などを経て、2011年からフリーランス編集者・ライターに。同年からアルビレックス新潟の取材を開始。16年から「エル・ゴラッソ」新潟担当記者を務める。新潟を舞台にしたサッカー小説『サムシングオレンジ』(藤田雅史著/新潟日報社刊/サッカー本大賞2022読者賞受賞)編集担当。現在はアルビレックス新潟のオフィシャルライターとして、クラブ公式有料サイト「モバイルアルビレックスZ」にて、週イチコラム「アイノモト」連載中。
