決定的に足りないのは、個人レベルの守備のディテール。イタリア代表アナリストのJ1戦術総括(中編)
世界から見たJリーグ#2
日本人選手の欧州移籍はすっかり日常となり、Jリーグ側もロンドンに拠点を置いたJ.LEAGUE Europeを設立するなど、Jリーグと欧州サッカーの距離は年々近くなっている。互いの理解が進む中で、世界→Jリーグはどう見えているのだろうか? 戦術、経営、データなど多様な側面から分析してもらおう。
第1~3回は連載『レナート・バルディのJクラブ徹底解析』が好評のイタリア代表現役アナリストのレナート・バルディが、J1リーグの戦術的傾向を語り尽くす。中編では、モダンサッカーのフレームワークに基づいた4局面の総評をお届けする。イタリア人アナリストが気になったのは、戦術の大枠ではなく、個人レベルの守備のディテール。今の日本人選手に最も足りないものとは何なのか?
ローブロック守備は甘いが、ハイプレスの完成度は高い
――ここからは、もう少し具体的なピッチ上のレベルを掘り下げていければと思います。個人的な印象としては、ボール保持局面よりもむしろ非保持局面に課題を抱えているチームが多かったように見えました。最終ラインを同数で守っているにもかかわらず、トランジションやハイプレス時の予防的カバーリングやマーキングが不十分だったり、ゾーンディフェンスの陣形が整っているのに2ライン間で自由に前を向かせたり、総じて人を見る意識が低かったりというような。
「そうした一面があることは確かです。今回分析したチームにほぼ共通して見られる欠落は、ゴールをプロテクトする意識、危険を察知する能力、ゾーンの枠内で人を見る意識といった、戦術の大枠ではなくディテールの部分の甘さです。多くのチームは4バックのゾーンディフェンスで守っており、基本的な原則は共通しています。ただ全体的な傾向として、ブロックの陣形を維持してスペースを管理することに意識を強く向ける一方で、相手とのフィジカルコンタクトを伴うタイトなマークやデュエルを避ける傾向があります。本来は、陣形を維持してスペースを埋めることを基本として、ゾーン内に入ってきた敵はマークして自由にプレーさせないようにするべきなのですが、この人をマークして必要ならばデュエルを挑むという部分が弱い。ゾーン内に入ってきた敵にボールを受けさせない、受けさせても自由にプレーさせないという原則が徹底されているチームはありませんでした。
逆に、縦横両方向でブロックの密度を高めることによって、中央の最も危険なゾーンを封鎖するという守り方をするチームが多かった。ただこの守り方だと、ブロックが左右に揺さぶられた時にどうしても後手に回ってしまい、そこから逆サイドを使われて決定機を許してしまうことになりがちです。ピッチの幅をある程度カバーしながら中央の守りも固めるためには、ゾーンの密度によってだけでなく人を捉まえることによって危険な状況を作らせないという対応も状況に応じて使い分ける必要があります。また、ペナルティエリア内でも、守備側が数的優位であることが多いのに、マークすべき相手との距離感、寄せるタイミングや思い切りの悪さなどから、危険な状況を作られてしまう場面が数多く見られました」
――その原因は何だと思いますか?
「個人戦術のディテールが詰められていないという側面も絡んできますね。距離感だけでなくゴールを意識した上での相手との位置関係、身体の向きといった部分です。SBが両足を揃えて相手に正対している場面もありました」
――もう1つ、GKについても、シュートブロックの技術ではなくペナルティエリアに入ってくるボールへの対応、飛び出しやDFとの連携といった戦術的な側面で困難に陥っている場面が目立つという指摘が複数のチームについてありました。
「シュートを止める技術についてはどのGKも平均かそれ以上のレベルにあると思いますし、ボール保持時のプレー、足下のテクニックやビルドアップへの関与も十分な水準です。それに対して、特にアーリークロスやCKを含めたサイドからのクロス全般、空中戦に関しては、GKのミスが少なくありませんでした。これはDFがマークやデュエルを苦手としていることにも通じるかもしれませんが、全体的な傾向として、ペナルティエリア内で相手にボールを触らせない、シュートを打たせないという意識が足りない部分があると思います。これはゾーンディフェンスで守っているチームの話で、マンツーマンで守っている町田のようなチームには当てはまりません、逆にそうしたチームは相手に押し込まれた後の戦術的秩序、選手相互の連携に問題を抱えています。ただ、町田や京都のように、1対1のデュエル、アグレッシブなプレッシングを原則に据えるチームが増えてくれば、育成年代からそうした原則に取り組む必要性が高まってきます。10代前半の育成年代前期から守備の個人戦術にきちんと取り組むようになれば、10年後にはそうした側面でも優れたDFが輩出されるようになるでしょう。

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Profile
片野 道郎
1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。
