地方市民クラブの収入多角化路線が原則NGである理由。「そもそもそんな余裕がない」現状の唯一の勝ち筋とは?木村正明・東京大学特任教授インタビュー(後編)
護送船団から弱肉強食へ――。現在のJリーグは親企業が付いて資金力で成り上がるクラブも増えるなどクラブ間の競争が激化。その中で、親企業を持たない地方市民クラブの一つであるファジアーノ岡山は2025年、J1の舞台を戦っている。
かつてファジアーノ岡山社長、その後Jリーグで専務理事を務め、現在は東京大学特任教授およびファジアーノ岡山オーナーである木村さんに、現在の戦国Jリーグで「地方市民クラブはいかに生き残るのか?」をテーマに話を聞いた。
後編では、Jクラブの収入多角化路線、昇格・降格制度の是非などについて語ってもらっている。
多角化はせず、どぶ板営業を徹底する
――地方市民クラブが生き残る策として、クラブの収入源の多角化を模索するクラブも出てきています。クラブの収入面ではスポンサー収入が一番大きいと思いますが、収入の柱を多数作っていくことについて、木村さんの考えを教えてください。
「この質問は本当によくいただきます。答えは原則ノーだと思います。この業態にとって、収入の柱はスポンサー収入と入場料収入と放映権収入、この3つでしかないんです。それは世界中でそうですし、他の収入の柱を作ってしまうと、必ず地域には同業他社がいるので、新たに競合の立場になるかが難しい判断になると思います。もちろん、卓球のブンデスリーガでは一部のクラブがホテル経営をしているように、世界には多少の事例があるものの、本業で稼ぐのが王道でしょう。変な例えですが、豆腐屋さんが儲からないのでチョコレートを販売し始め、そちらの方が儲かり出し、豆腐作りが疎かになったら、お客さんはガッカリすると思います。欧米は本業でしっかり結果を出しているわけですから、ファン・サポーターと協賛企業をきちんと増やしていくことに向かい合うことがまず先だと思います。また、スポンサー収入は営業スタッフの人件費以外はほぼ強化費に使える、いわゆる営業利益率が極めて高いので、その意味でも本業を徹底的に磨くしかないのではないでしょうか。多角化を図る前に、まずお客さんを増やすことかと思っています」
――多角化はNGだと。
「どぶ板営業に徹することだと思います。サンフレッチェ広島さんはコロナの時に当時の仙田信吾社長が徹底したどぶ板営業を進めたことでスポンサー収入の業績が伸びています。どのクラブにもまだまだ当たれていない企業が山ほどあるのだから、そこに徹したほうが賢明だと思います」
仙田信吾社長、森﨑浩司アンバサダーが、広島県知事、広島市長を訪問。広島県民・市民の皆さまのご尽力により、公式戦を再開できることへの感謝の意を伝え、Save HIROSHIMA Tシャツを贈呈しました。#sanfrecce pic.twitter.com/I9pDZUIxgR
— サンフレッチェ広島【公式】 (@sanfrecce_SFC) July 3, 2020
――多角化することは地域内に敵ができることがNGにする大きな理由ですか?
「そもそも多角化できないんです。サッカークラブは2週間に1回の公式戦を開催し続けるので、多角化できる能力のある人間を雇うお金もなければ、その時間を確保するのも難しい。ファジアーノ岡山は岡山県内41の社会体育施設の指定管理を受託していますが、我々がスポーツの施設運営に慣れているから担えるものの、ギリギリで黒字という状況です。サッカークラブは勝ち負けの磁力が強烈に働くので、常にファン・サポーターやスポンサーと向き合う必要があり、その人数は常に足りておらず、多角化に向かうのは難しいと思います」
――多角化するくらいならば、粗利の大きいスポンサー収入を増やすことに全力投球したほうがいいと。
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Profile
鈴木 康浩
1978年、栃木県生まれ。ライター・編集者。サッカー書籍の構成・編集は30作以上。松田浩氏との共著に『サッカー守備戦術の教科書 超ゾーンディフェンス論』がある。普段は『EL GOLAZO』やWEBマガジン『栃木フットボールマガジン』で栃木SCの日々の記録に明け暮れる。YouTubeのJ論ライブ『J2バスターズ』にも出演中。
