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「課せられたタスクに対する興味の有無」と「瞬間的に同じ絵を描けること」がチームにもたらす大きな影響:柏レイソル・小泉佳穂インタビュー中編

2025.05.23

「対応力」とは何か#7

サッカー戦術の高度化に伴い、攻守の可変システム、ビルドアップvsハイプレスの攻防など駆け引きの複雑性が増しており、ピッチ上の選手の「対応力」がより問われる状況になってきている。そもそも「対応力」とは何なのか? ピッチ上でチームの意思を統一するには何が必要なのか? そして「対応力」のある選手を育てるにはどうすれば良いのか? 様々な角度から考えてみたい。

第6~8回は、Jリーグ屈指の理論派として知られ、今季から加入した柏レイソルでもリカルド・ロドリゲス監督のイメージするサッカーを過不足なく体現し、躍動が続いている小泉佳穂にお話を伺った、「対応力」がテーマのインタビューをご紹介する。中編では課せられたタスクに対しての「興味」の有無が与える影響や、今季のレイソルのスタイルについて、多角的な視点から話してもらった。

(取材日:4月18日)

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そのタスクに対して“興味”があるか、ないか

――これも大枠の話ですが、試合が始まった時に最初に確認することは何ですか?

 「相手の配置は確認します。同じ[4-4-2]でも、選手の特徴によって微妙に配置が変わってくることは多々あるので、それは相当気にしていますね。今の僕はシャドーというか、インサイドハーフをやっているので、自分を掴みに来るのが相手のセンターバックなのか、ボランチなのか、はたまたサイドバックなのかは気にしますし、全体で考えても、相手のプレッシングの時に、どこにどの選手が出てきているのかは、まずできるだけ把握するようにしています。

 サッカーのプレッシングに万能なものはないので、どこまでリスクを負っているかというところを見ると、そのリスクの分だけ空いている場所が出てくるわけで、まず構造的にそこを探すようにしています。本当はそれでチーム全体が『あ、ここが狙えるね』となったらいいんですけど、それは相当難しいんだろうなあ」

――それってだいたい試合が始まって、どのくらいで把握できるものですか?

 「すぐわかる時もありますし、最初はカオス過ぎてわからない時もあります。あとは運動量でリスクの部分を軽減してくるチームも一定数あって、それは構造的な穴が開きにくいので結構厄介です。でも、さすがに45分は持たないので、前半の30分からは『運動量でカバーしていた部分が空いてくるよね』と。『じゃあ、その30分までは我慢比べだな』と思うこともありますね。運動量でカバーしてくるチームを崩すのは大変なんですよ」

――チームとして相手に対応する上で、ゲームが始まってすぐに把握すべきこと、みんなで確認すべきことはどういうことでしょうか?

 「それもさっき言ったことをチーム全員で把握して、共有できればいいんですけど、チーム全員がそういうことに『興味』があるかと言うと、そうではないんです(笑)」

――ああ、「興味」は大事でしょうね(笑)。

 「『興味』って結構大きなところです。特にモチベーションの部分で。チームの構造やサッカーの戦術だけにかかわらず、守備へのモチベーションが高いか低いか、ハードワークへのモチベーションが高いか低いか、そこは大事な要素だと思っています。

 だからこそ、さっきも言いましたけど、プレッシングの時にこの選手にはどれぐらいまでしんどいタスクを与えていいのかどうかの見極めは、サッカーにおいて大事な要素で、そういう興味やモチベーションのない人にやらせたところで、絶対にうまく行かないので、本当は練習でそういうタスクができるような成長を促したりとか、それはメンタル的な部分も含めてですけど、そういうことができるようになると隙がなくなりますよね。

 でも、人って長所と短所が必ずあるので、それこそ『チューニング』ですよね。人の特徴に合わせて、戦術とは言えないような、本当に細かいタスクの割り振りとか、そういうのをちょっとずつ調節していくことは大事だと思います。今後僕が監督や指導者をやることになったら、そこは大事にしたいですし、興味がない人や苦手な人を平均ぐらいまで持っていくアプローチは相当大事だなって。そこは個人戦術の話になってきますが、それでもチーム戦術と、個人のちょっとしたスキルやテクニックは切っても切り離せないですからね。

 人には凹凸があるのが普通で、僕だってそういうところには興味がありますけど、じゃあ1人で何人も抜けるか、ロングシュートを決められるかと言ったら、それができないのと同じですよね。だから、一概にあるプレーに対してモチベーションが低い、興味がないという人を、切り捨てることは考えていないというか、個々に合わせて細かいところを変えていけると『楽だよね』という話かなと。チームとしても、お互いの選手にとって、体力的にも精神的にもストレスが少ない状態で試合が進められるので、特に精神的なストレスがない状態を作り出すことは非常に重要です。

 そこも含めて『チューニング』が大事なんです。認知的だったり、精神的に負荷が掛かっている状態って、人間の思考や判断を鈍らせるところがあるので、いわゆる『リズム』みたいなものが出てこないんですよ、そのストレスが掛からないような構造、配置、ディテールを調整していくことは、いわゆる『対応力』で大事になってくるポイントなんじゃないかなと思います」

わからないことがわかった時が楽しい

――それは相当興味深いお話ですね。

……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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