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試合の中での対応力で大事なのは「0.3枚分」くらいの繊細なチューニング:柏レイソル・小泉佳穂インタビュー前編

2025.05.22

「対応力」とは何か#6

サッカー戦術の高度化に伴い、攻守の可変システム、ビルドアップvsハイプレスの攻防など駆け引きの複雑性が増しており、ピッチ上の選手の「対応力」がより問われる状況になってきている。そもそも「対応力」とは何なのか? ピッチ上でチームの意思を統一するには何が必要なのか? そして「対応力」のある選手を育てるにはどうすれば良いのか? 様々な角度から考えてみたい。

第6~8回は、Jリーグ屈指の理論派として知られ、今季から加入した柏レイソルでもリカルド・ロドリゲス監督のイメージするサッカーを過不足なく体現し、躍動が続いている小泉佳穂にお話を伺った、「対応力」がテーマのインタビューをご紹介する。前編では本人が考える「対応力」の定義や、ピッチ上で細部に渡るまで巡らせている思考について、たっぷりと語ってもらった。

(取材日:4月18日)

小泉佳穂が考える「対応力」とは?

――最初は大枠でお聞きしたいのですが、小泉選手が考える「対応力」とはどういうものでしょうか?

 「僕が今までサッカーをやってきて感じているのは、基本的にはスカウティングというものがあるじゃないですか。相手のチームのやり方を分析して、たとえばプレッシングだったら、スコルジャ監督の時の浦和レッズは[4-4-2]のゾーンプレスが基本でしたが、その基本がありながら、相手のビルドアップが3枚回しであれば、その3枚に対してどうプレッシングを掛けていこうかというのは、事前のスカウティングによって、ある程度チームで統一する監督が多いと思うんですよね。完全なマンツーマンだとそういうことをやる必要はないですけど、それをやっているチームは多くないので、1試合ごとに微妙にディテールを変えて、調整していくんです。

 ただ、いざ試合に入ってみると、まったく違う事象が起こることがサッカーでは多々あります。そうなった時に、相手のやり方を見て、それに対してどういうやり方で守備をするとハマるのかというところが、いわゆる対応力なのかなと思いますね。それは攻撃にも同じことが言えて、試合中に相手が対応してくる場合もありますし、フォーメーションを変えてくることもあって、あとは同じ[4-4-2]でも微妙にディテールを変えてくる場合もあるので、プレッシングのスイッチがフォワードなのか、サイドハーフなのか、あるいはサイドハーフやフォワードが中切りのプレッシングをして来るのか、外切りなのかとかも含めて、サッカーって無限にシチュエーションがある中でも、傾向が見えてくるんです。

 その傾向に対して、より効率良く対応する必要があって、その対応はピッチの中でやらないといけないわけで、監督の指示をいちいち待つことはできないですよね。いかにそういった対応をしていくことができるかは、僕個人も結構意識してやっているところではありますし、現代サッカーにおいては組織としてまとまっているチームが勝つので、かなり大事だなと思っています」

――小泉選手のインタビューを拝見すると、「チューニング」という言葉がよく出てきますが、これは意識的に使っているイメージですか?

 「そうですね。『チューニング』という言葉が、自分のやっていることとイメージ的に合うので使っています。たとえば『対応する』だと結構広くて、よりディテールのところの調節までやって、初めて『対応』だと思っているので、その細かいところまで対応しているということを言いたくて、『チューニング』という言葉を使っているんですよね」

――ちなみに「チューニング」という言葉の意味を調べると、1つは「楽器の音の高さを合わせる」。これは音楽の調節ですね。もう1つは「ラジオや無線機で電波の周波数を合わせる」。こっちはラジオや無線機といった通信機器の調節です。小泉選手のイメージはどちらに近いですか?

 「後者の方でしょうね。細かい言葉の意味は知らなかったですけど(笑)、『アジャストする』みたいな言い方もするので、言葉の文脈としては後者の方で使っていますし、そっちの方がしっくり来ます。形が同じでも、距離、スピード、強度、角度が違うと、ボール1個分で状況が変わるじゃないですか。そこまで含めて対応するのが大事だと思っていますし、それを共有した上でチームとしてやることが大事です。

 たとえば2枚でプレッシングに行くのか、3枚でプレッシングに行くのかの選択肢があったとして、2枚を3枚にするのはわかりやすい変化ですけど、僕が実際にイメージしている『対応』や『チューニング』は、2枚を2.3枚ぐらいにして、そのズレた0.3枚分の部分で、後ろの選手も0.3枚分ぐらいズレて、みたいな作業なんですね。それはポジショニングも一緒なんですけど、そういう微妙な変化でプレッシングがハマるか、ハマらないかは、結構変わってくるんですよ。今は距離や立ち位置の部分で『0.3』という数字を使いましたけど、それは角度でも同じですし、サッカーにはそういう微妙な調整がたくさんあると思います」

Photo: Takahiro Fujii

プレッシングの成功の可否は、個人戦術の集合にある

――正直、「0.3」って相当繊細な数字だと思いますけど、そこをチームメイトと共有できるものですか?

……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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