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リバプールからコンテのサッカーへ。「ピストン運動愛好の会」って何?

2020.08.06

『戦術リストランテVI』発売記念!西部謙司のTACTICAL LIBRARY特別掲載#3

フットボリスタ初期から続く人気シリーズの書籍化最新作『戦術リストランテⅥ ストーミングvsポジショナルプレー 発売を記念して、書籍に収録できなかった西部謙司さんの戦術コラムを特別掲載。「サッカー戦術を物語にする」西部ワールドの一端を味わってほしい。

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 カフェやバーで見かけるサッカーゲームは人形(選手)が串刺しになった棒を回してプレーする。だから選手は横移動しかしない。現実のサッカーは縦にも横にも斜めにも動く。ところが、現実のサッカーにも選手が画一的に動いているように見えるものがある。

リバプールとイングランド代表の違い

 1970年代後半にヨーロッパを席巻したリバプールはMFをフラットにした[4-4-2]だった。このフォーメーションはリバプールに限らず、イングランドのクラブチームの多くが採用していた。そして、イングランド式[4-4-2]は、まるで選手の前にレールが敷かれているように上下動を繰り返していた。実際にはもちろん横移動もしているのだが、行って帰ってくるピストン運動が印象的だった。

 MFは横一列。プレーメイカー、攻撃的、守備的という役割分担ではない。リバプールの中央でプレーしていたMFイアン・キャラハンやグレアム・スーネスは組み立ての名手だったが、だからといって彼らの守備負担を誰かが軽減してくれるわけではない。サイドMFはワーキングウインガー、こちらはピストン運動の権化である。

リバプールの黄金期を支えた名手グレアム・スーネス。監督としてもリバプールやニューカッスル、ブラックバーンなどで指揮を執った

 リバプールは当時としては突出したインテンシティを持っていた。ハードワークはイングランドの特徴であり、能力や個性と関係なく割り当てられた区域で攻撃も守備もやるというのは、おそらく炭鉱出身者が多かったことの名残だろう。フィールド内でも特権階級を作らず全員労働者だった。

 リバプールの全盛時は、ノッティンガム・フォレストとアストンビラもヨーロッパチャンピオンになっている。しかし、クラブレベルでは圧倒的だったにもかかわらず、イングランド代表は振るわなかった。戦術的な画一性がネックになっていたのだ。

 攻撃はダイレクトプレーを信奉していたので、可能な限り縦へパスする。可能な限りFWへ送る。なるべく早く、手数をかけずに相手ゴール前へボールを運びたいのだからそうなるわけだ。ボールが後方にあればロングボールになる。そこで、FWには必ず長身頑健なタイプが1人いて、その選手が後方からのロングボールを競り落とし、もう1人の俊足のFWが拾って裏へ抜けるというのが典型的な攻め手としてあった。こぼれ球をMFが拾った時はサイドへ展開し、サイドのスペースへ走り込んだサイドMFが間髪入れずハイクロスをゴール前へ。ロングボールとハイクロスは当時のイングランドの代名詞となっていた。

 縦に速い攻撃を繰り返すと、必ず戦列は延びてしまう。イングランド代表と対戦するチームは、その弱点を知っていた。ボールをキープしてペースダウンすると同時に、イングランドの選手にボールを追わせてスタミナを奪うのは常套手段だった。そうでなくても、60分を過ぎればイングランドはバランスを失う。サイドMFがピストン運動に疲れてしまい、中盤が中央の2人だけになるのがそれぐらいの時間帯だった。フィールドの横幅を2人で守らなければならないので中央の2人もすぐに疲弊する。つまり、勢いに呑み込まれずに適当にいなしておけば、イングランドは勝手に負けてくれた。

 では、代表チームと同じ弱点を抱えているはずのクラブチームはなぜ無傷だったのか。

 リバプールはイングランド代表ほどラフなロングボールを使っていなかった。やろうとしていることは同じだが方法が違っていて、例えばキャラハンからトップのケビン・キーガンへの縦パスはグラウンダーなのだ。現在よりはるかに飛びが悪く重く感じるボールを使っていた当時、30メートルのパスはロングパスだった。しかし、キャラハンはその距離を定規で線を引くようなインサイドキックで芝生を滑らせる速いパスを蹴っていた。DFからの浮き球も精度が高かった。ケニー・ダルグリッシュなど、受け側の技術も高く、ライナーのロングパスを胸や足でピタリとコントロールする力があった。

 要は精度が高かったのでミスが少ない。スタミナも無駄にロスし過ぎない。やろうとしていることは同じでも、プレーの質が違えば結果はまったく違ったものになるわけだ。そしてリバプールで核になっていたのは主にスコットランド人なのだ。

ミスを許容する勇敢なサッカー

 現在もピストン運動を愛好するチームはけっこう存在する。インテンシティ、スピード、ダイレクトプレー、ハードワークのプレースタイルだと、だいたいそうなる。リバプール、インテル、RBライプツィヒがそうだ。精度を高めても、ダイレクトプレー志向はどうしてもミスが多くなる。ただ、彼らはミスをそれほど気にしない。2回の攻撃で1回のミスなら問題だが、30回攻撃して15回のミスは全然構わないのだ。どんどんテンポを上げ、ミスもするだろうが、攻撃回数を4倍にしてシュートを3倍打ち、得点も2倍取ってしまえばオーケーである。豪快に攻め、ダメなら戻る、それを繰り返す。神経質にミスを恐れてプレーしたりせず、「男らしく」力の限り攻めて守るのはサッカーの母国イングランドのDNAを受け継ぐスタイルとも言える。

Photos: Getty Images

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アントニオ・コンテリバプール戦術リストランテⅥ

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。