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未曽有のリーグ中断…その時ペップは

2020.06.22

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #10

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#10は、世界を襲ったコロナ危機をペップをどう受け止めたのか。中断から母国へ渡るまでの動向と、行動の背景にある人間ペップの本質を追った。

 3月11日の朝、プレミアリーグが午後に予定されていたマンチェスター・シティ対アーセナルの延期を発表した。

 その朝はグアルディオラの試合前ミーティングの予定だったが、代わりにしゃべったのは医師長のマックス・サラだった。彼がコロナウイルスの脅威を前に生活・行動上の注意事項を告げた後、グアルディオラは選手とアシスタント、クラブ職員を前にお別れの挨拶をし、「各自気を付けてくれ」と締めた。

 ペップはパソコンと必要なものだけを箱に詰めてマンチェスター中心街にある2人の娘マリアと息子マリウスが待つ自宅に戻り、その夜CLのリバプール対アトレティコ・マドリーを見た。選手もテクニカルスタッフも医師団も職員たちも自宅に待機した。待機期間の14日間、誰もが対コロナウイルス用の注意事項を厳密に守るつもりだった。その日シティはシーズンと別れを告げたのかもしれない。もちろん苦痛とともに。

 1週間後にはCLで第1レグのリード(1-2)をレアル・マドリー相手に守ることになっていた。勝ち上がればクラブの歴史に残る日となる予定だった。だが、2日後の13日、やはり延期が発表された。

 ペップ・グアルディオラがイングランド監督協会の栄誉殿堂入りした今季をまとめると、以下のようになる。

 プレミアリーグ3連覇はならず。中断時点でリバプールは勝ち点82でシティは57(消化試合は1試合少ない)。最近の記者会見では「我われは2位を争う。リバプールの優勝を祝いたい」と言っていた。リーグカップ3連覇、8月にリバプール相手にPK戦を制してコミュニティシールドでも優勝した。が、19-20がそれによって記憶されることはない。コロナウイルスが世界とスポーツを止めたシーズン、として歴史に残るはずだ。22日以降、グアルディオラはバルセロナで家族と一緒にいる。いつものようにプライベートジェットでアシスタントのカルレス・プランチャートの家族、スポーツディレクター、チキ・ベギリスタインの家族とともに海を渡った。あれはイギリスを去ることができる最後の日。23日からスペインが国境を封鎖することが決まっていた。

 同じように多くのスペイン人移住者――大半はウェイターやウェイトレス――が、ボリス・ジョンソン首相がバーやパブを閉めたことでマンチェスターを去った。その中には、グアルディオラのお気に入りの2つのレストラン『タペオ&ワイン」(マンチェスターUのファン・マタがオーナー)と『テイスト』(イギリスの投資グループとグアルディオラと彼の兄、チキとフェラン・ソリアーノ、シティCEOが投資)で働いていた者たちもいた。

 慈悲深いペップは、バルセロナ郊外の高台にある自宅からコロナウイルスと闘うために何かをすべきだと考えた。

 スペインはウイルスによる致死率が高い高齢者が多い国であり、グアルディオラは個人的に医療関係者に多くの知り合いがいた。24日、彼は慈善事業団体を通じて100万ユーロ(約1億2000万円)の寄付を行った。カタルーニャの病院の医療器具購入のために使われる。

寄付と、慈善事業への協力

 「ペップは歩くNPO(非営利団体)だ」と彼をよく知る者は言う。

 地中海を渡って来るアフリカ移民を救出するNPO『オープン・アームズ』への協力はよく知られており、その創始者オスカル・カンプスはシティの選手だけでなく全クラブ職員を対象に行われた講演の壇上に立ったこともあるし、『オープン・アームズ』の赤のユニフォーム姿でペップの記者会見に招待されたこともある。11-12のバルセロナにいた当時のエピソードを語るのにちょうど良いタイミングだ。

 ある銀行のCMで有名人と対談することになったペップは1つの条件を付けた。それは対談相手が映画監督で親友のフェルナンド・トゥルエバ(1993年アカデミー賞外国映画賞受賞)であること。彼とならリラックスして話ができるし、映画監督は常に資金不足に泣かされているものだからだ。

映画監督フェルナンド・トゥルエバ

 そのCMが放送されてからグアルディオラは銀行に協力しギャラを受け取ったことで激しく批判された。彼は批判に耐えていたが、シーズン終了後そのギャラの行方がアシスタントへのインタビューによって明らかにされた。ペップの懐に入ったわけではなかった。彼は受け取った現金を、チームをサポートする掃除や洗濯、警備のメンバーなど全従業員に公平に分け、封筒で一人ひとりに手渡したのだった。1人頭1500ユーロ(約18万円)以上あったという。これがペップだ。

 今この原稿を書いている時点でいつサッカーが再開されるのかというニュースは入っていない。当初プレミアリーグは4月4日の週末としていたが、すぐにそれは無理で4月末までの再開はないとされた(編注:その後、6月17から再開となった)。現在、イングランドサッカー界のトップたちは、EURO2020が延期されたとしてもプレミアリーグを終了するのは不可能である、と理解しようとしている。英国の最も重要で著名なジャーナリスト、ヘンリー・ウィンターは、イギリスの保健・社会介護省の情報を引用して、10月までプレミアリーグでボールが蹴られることはない、と言っている。その頃には、この呪われたウイルスによって世界は変わっているに違いない。

Photos: Getty Images

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Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。