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結局はアイディア、詰まるところは納得させること

2020.04.13

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #7

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#7は、意外な形で訪れたプレミア初制覇の瞬間。その時のペップ含めたチームの様子と、彼があらためて示した自らの哲学について。

 マンチェスター・シティのリーグ優勝はサプライズではなかったが、決定のタイミングはサプライズだった。マンチェスター・ユナイテッドが最下位のウェストブロミッチ相手にホームで敗れるとは想定外。優勝の瞬間、エデルソンはポルトに、メンディはフランスに、アグエロはバルセロナにいたように、休養中のチームはバラバラだった。助監督のドメネク・トレントは、いつもの日曜の午後のように散歩に出ていた。雨宿りをしていた時に携帯電話でウェストブロミッチの勝利を知り、「信じられなかった。思わず笑ってペップに電話をした」。

 グアルディオラは息子のマリウス、プロゴルファーのトミー・フリートウッド夫妻とともにゴルフに出かけていた。いわく「最高の味がする」プレー後のビールを飲んで帰宅中に携帯が鳴った。ウェストブロミッチのゴール。「優勝の報を受けたのは豪雨の中、高速で渋滞に巻き込まれていた時」だったという。

 トレントはグアルディオラに「楽しめ」と言った。

 彼の父は、ペップとともにバイエルンへ行く前に他界した。「今季はすべてのタイトルを獲る」と言っていたサッカー好きの母も昨年亡くなった。2人の息子のうち長女は独立し、長男はカナダ留学の準備中。

 「私と妻には、恋人の時以来の2人だけの生活が待っている。だからペップには、幸せな瞬間を大切にせよ、という意味を込めて『楽しめ』と言った。昨季、苦しみながら努力をしたペップには、栄光を楽しむ権利がある」

 だが、ペップは別の決意をしていた。

新記録を目指しラストスパート

 成功のカギはクライフを見て学び、ビエルサに教えを乞うて身につけたやり方だった、とクラブ公式インタビューで語っている。

 「私が知っている唯一の方法は、自分たちが休んでいる間にライバルは我われを負かそうとしていることを自覚し、さらに努力すること。より良く練習しより良くプレーすることが、レベルを維持する唯一の方法だ」

 「パスを出しパスを出しパスを出すこと。パスをより多く出すことでチームはコンパクトになり、選手たちは近くにいられる」

 「走るために走るのではない。プレスするためにプレスするのでもない。ボールを前で奪い返せば得点のチャンスは大きくなる」

 前に向かって守備をする、と言ったのはビエルサの言葉を思い出させる。

 「ボールを持っていない時は全員が走る。ボールを持っている時はそれを動かして相手チームを走らせ、チャンスが来たら攻撃し得点する。私が要求するのはボールを失わないこと。ボールをプレーすること。シンプルなプレーをすること。残りは自然にやってくる。なぜなら、我われは良いチームだから」

 良いチーム、その通りだ。

 プレミアリーグのベスト11に5人が選出されたチームは前人未到の記録に挑んでいる。

 本稿執筆時点で勝ち点90、得点98。残り4試合で9ポイントを上積みすればプレミアリーグ以前も含むイングランド近代サッカーの金字塔を樹立することになる。

 プレミア記録としては2004-05シーズン、チェルシーの勝ち点95、103得点の更新を狙う。得点ランキング上位5人に2人(アグエロとスターリング)を送り込み、アシストランキングのトップ3を独占(デ・ブルイネ、サネ、シルバ)。アウェイの勝利数と獲得ポイントのいずれでもプレミア記録更新の可能性があり、パス数(942 /スワンジー戦)、パストライ数(1015 /スワンジー戦)では記録を作った。

 「サッカーは決して止まらない。常に成長を続けなければいけない。記録を狙うことは選手を集中させ続ける。プレミアは勝てた。次は記録を狙う」

バルサの過信とシティの自信喪失

 主力の11人のうち新戦力は2人だけ。長期負傷中だったデルフを加えたとしても2.5人である。

 昨季と何が変わったのか?

 おそらくペップが自分の考えをチームに完全に浸透させ得た、ということではないか。

 歴史あるバルセロナとバイエルンではその作業はより簡単だった。むしろ両チームでは選手が過信せぬよう力を注ぐ必要があった。例えば、バルセロナはカンプノウで4–1で勝利した後バルベルデ監督が口を酸っぱくして「0–0の気持ちでやれ」と言い続けたにもかかわらず、ローマに逆転され敗退した。

 一方、シティの敗退の仕方は真逆だった。欧州王者に5度輝いたリバプールのホーム、アンフィールドに恐れをなし致命的なミスを犯した。第2レグ、2点目のゴールを誤審で取り消されると、もう反撃の気力は失われていた。

 「昨季、すべてが始まった」とペップは言う。シーズン当初は首位に立ちながら後半戦に自信を失った。彼が自信の大切さを語る時にいつも挙げるのが、ベルギー代表だ。世界レベルの才能を擁しながら実績のないチーム……。

 今季のシティの快進撃はスタンフォードブリッジで始まったと、関係者の多くは見ている。「昨季王者で手痛い目に遭わされた相手を圧倒できた。あの試合で何でも可能だとチームは気がついた」とトレントは言う。

 今季、グアルディオラのアイディアの下シティは成長した。文句なく最強チームだった。

 「金のおかげだと周りは言うだろう。だが、彼らのやったことの意義は大きい」

Photos: Getty Images

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ジョセップ・グアルディオラマンチェスター・シティ

Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。