SPECIAL

初体験の「本当の負け=無冠」に対する建前と本音

2020.04.09

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #5

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#5は、初めて突きつけられたシーズン無冠という現実。その時、ペップは……名将の心情に迫る。

 グアルディオラがキャリアで初めて無冠に終わることが決まったその日、ロッカールームに入って選手に「ありがとう」と言った。

 2017年4月23日、ウェンブリーで行われたFAカップ準決勝で、マンチェスター・シティはアーセナルに敗れたばかりだった。しかし、ペップにはチームの努力に感謝する理由に事欠かなかった。試合のデータによれば120分間でシティはより多くのシュートを放ちよりボールを支配し優勢だったにもかかわらず敗れた。決勝に進んだのはアーセナルだった。

 グアルディオラの辞書において、「負けることを知る」というのは友人の映画監督ダビド・トゥルエバの著書のタイトルに過ぎなかった。勝つことが当たり前で癖になっており、中毒気味でもあった。

 ペップにとってもクリスティーナ夫人にとっても子供たちのマリア、マリウス、バレンティーナにとっても、敗戦や無冠というのは新しい経験だった。ペップがCL準決勝で敗れるのは見たことがあるが、負け方が違ったし、いずれもリーグ優勝後のことだった。今季起こったことは違う。負けに負けを重ねた末に、最後敗れたのだ。

 娘たちと息子は父がこれまで以上に働いていたのを誰よりも間近で見ていた。彼らがスクールバスに乗る前に家を出て、宿題を終えてしばらくした頃、ギリギリの時間に夕食の食卓に滑り込んでいた。

負け続けた末にまた負けて…

 だが、その努力は何の役にも立たなかった。今季はキャリアで初めてグアルディオラが敗れたシーズンだと言えるだろう。彼の到着によって湧き起こった期待からすると、無冠というのは挫折だろう。当然ながらすべての視線は、最初の決断でハートを放出しリーグカップを軽視し早期敗退した男に集中している。

 そのリーグカップを手にしたのは同じ街のライバルで、4回戦でシティを退けたマンチェスター・ユナイテッドだったことも、多くのファンを失望させた。

 しかし、チーム編成に失敗し選手が足りず、相手ゴール前でのミスとミスジャッジと不幸がたび重なった、と考えるクラブ関係者もたくさんいる。昨季マヌエル・ペジェグリーニが運を使い果たしたせいか今季は運がなかった、内容からすればもっと結果が出ても良かったという嘆きの声もあった。

 あるクラブ職員は、ビール片手に私に言った。

 「試合を見なかった友人から電話がかかってきた。好機を逃し、得点が取り消しになり、シルバが負傷して、延長戦でCKからサンチェスに決勝ゴールを決められた、と告げた。すると彼は『なんだそりゃ! いつもと同じじゃないか! 同じ試合を1000回くらい見たぞ!』と叫んだ」という。

 友人の言うことは正しい。

 アーセナル戦で起こったことはチェルシー戦、リバプール戦、エバートン戦でも起こった。違ったのは、今回はファイナルに進んでタイトルを獲得する最後のチャンスだったという点だけ。枠に2本のシュートが嫌われ、得点が取り消され、互いに20のファウルを犯したのにシティには5枚のカードが出てアーセナルは2枚だけに終わり、1人の負傷者が出た。

 「ゴールを取り消したアクションを審判は見ることができなかったはずだ。不可能だ。ライン上にいなくてはならないのにサネの方が速いのだから」

 審判でなくて良かったかと聞かれると、「審判にはならない方が良い」と受け流し続けた。「文句を言うのは私のスタイルではない。我われは我われにふさわしいものを手にした」。そして最後にプライドをもって締め括った。

「敗戦から学ぶ」という美辞の裏

 「我われは自分たちがしたいようにプレーした。もちろん悲しいことだが、明日はシーズンを終えるために立ち上がらなくてはいけない。チームを責めるべき言葉はない。こういう試合ですべき戦い方をした。試合に集中し相手を走らせずコントロールした。後半は少しコントロールを失ったが、いつもの我われの戦い方だった」

 「私は敗因を運には求めない。そうしていれば向上はない。我われは前を向き、自分たちを見てより良い未来のために何をすべきかを考えなくてはならない。シュートがポストに嫌われた? 確かに今までも何度もあった。しかしそれがサッカーだ。ディテールが非常に重要なんだ」

 この試合後会見には「先見性を持って提案していく」「敗戦が我われを強くする」という前向きな言葉、優等生的な発言も出た。

 とはいえ、グアルディオラはこの日まで本当の敗戦の味を知らなかったのだ。家に帰って友人たちの慰めの電話では本音が出た。

 「うまくやるだけではダメなんだ。私は勝ちたい。なのに勝てなかった!」

 このフレーズは、多大なる努力に対してねぎらいの言葉をかけられるたびに繰り返された。マンチェスター空港に降り立った時、サンティアゴ・ベルナベウ全体に屈辱を与えるメッシの姿を目にした。その光景は昔の栄光を思い出させた。

 ペップは栄光の日々の奴隷であることを自覚している。過去は勝利、現在は敗戦を味わった。そして未来は……。「来季は、我われはもっと強くなる」とつぶやいた。

Photo: Getty Images

TAG

ジョセップ・グアルディオラマンチェスター・シティ

Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。