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「もふ」のその先へJリーグマスコットのサステイナビリティ

2020.02.14

FUJI XEROX SUPER CUP 2020で販売された、Jリーグマスコットとふれあえる「超!もふチケ」という企画チケット。試合観戦には別途チケット購入が必要で、20分のふれあい権のみが付与される本チケットの価格は3万円と高額であったが、20名枠に60名以上の応募がある高倍率だったという。そうしたマスコット人気の一方で、マスコットの活用・理解が追い付いていない場面も多く見られる。サポーター目線から「かわいい」を超えて長期的目線で考える、マスコットの存在意義とは。

マスコットはクラブ・サポーターそのもの

 今でこそ「ありのままの自分で良いのだ」と思えるようになったが、サッカーを好きになりはじめた頃はサポーターとしてのスタンスをどのように設定するかが第一の関門であった。煽り合いにブーイング……Jリーグのサポーターは世界的に見れば穏やかだが、それまで経験したことのなかった文化に戸惑う。選手だけではなく、サポーターも闘志をむき出しにする世界に魅せられたのも事実だが、どこまで煽っていいのか、逆にどこまで相手を気遣えば過度な慣れ合いになってしまうのかがわからないでいた。

 そんなときに参考になったのがマスコットである。

 横浜F・マリノスのマスコットであるマリノス君は試合前、相手クラブのゴール裏まで挨拶に行く。数万人規模のサポーター全員で「今日はよろしくお願いします」と頭を下げに行くのは物理的に難しいから、私たちを代表してくれているのだ。

 これを見て「マスコットの仕事は外交官や国のトップのようだ」と感じた。注目すべきはその所作や佇まい。挨拶の時に自分たちの強さをひけらかすようなことはしないが、卑下もせず堂々と構える。そしてサポーターの応援を鼓舞することには積極的。客席を煽ってもっと応援したくなるような盛り上げ方をしてくれる。

 マリノス君は洗練されたクラブ像を体現するようなふるまいをするのである。強火系マンチェスター・シティサポーターのノエル・ギャラガーよりも先にマリノス君に出会えて良かったと切に思う。対戦クラブとの「やーい、お前の母ちゃん出べそ」といった煽り合いも大好きだが、クラブの想定するサポーター像を知るにはマスコットを参考にするのが一番だった。

 マスコットのスタンスという視点で興味深いのはチームごとの特色が出やすいところだ。ダンスやアクロバティックが得意なマスコットたちは「見ていて元気を与えられるようなスポーツクラブ」を体現しているし、逆に手足が短くて歩くのがやっとのキュートなマスコットたちは「市民とともに歩んでいく、愛されるクラブ」の象徴だ。フレンドリー、ユーモア、カリスマ……誰が優れているとか、誰が正解だとかではなく、みんな違ってみんな良いのだと思える。

「スポーツマスコットにはストーリーが大事」の意図をさらに噛み砕く

 そんな個性豊かなマスコットたちの活躍の機会が数年前から格段に増えた。日々のSNSにおける発信、アウェイへの帯同で対戦チームのマスコットと触れ合う機会、スタジアム外での地域活動……。もしも、マスコットが直立しているだけの華だとしたら、きっとこれほどの熱狂は生まれていない。

 彼らの背景を知れば知るほど思い入れが深くなる。名古屋グランパスのグランパスくんはJリーグマスコット総選挙で2018年から2年連続1位。そのビジュアルの完成度や活動を見れば納得の結果に見えるが、簡単に獲得した栄誉ではなかった。彼は当初標準語で喋っていたが、成長を経て尾張弁を操るようになる。これはただの個性的なしゃべり方ではなく、地域活動により一層注力する姿勢とホームタウンである名古屋のことを日本全体に知ってもらいたいという気持ちの表れのように見えた。寒い日も暑い日も小学校でのあいさつ活動などを家族ぐるみで頑張った。

 また、成長したのは喋り方だけではない。2017年にはマスコットビジュアルが変化。親しみを持てるような「お腹」に成長し、SNSでのダイエット企画が話題を呼ぶ。その努力と発信に心動かされ、愛着がわいたサポーターたちが投票を呼び掛けた結果、マスコット総選挙1位の栄光を獲得したのだ。

 過去には遠征費の捻出に苦しむツイートも投稿していたが、マスコットスポンサーも複数獲得し、衣装のレパートリーも増えた。これによりグリーティングの満足度も増す。マイペースで一家の大黒柱としては少し頼りなかったお父さんであるグランパスくんだが、投票のお礼回りでサポーターとの信頼関係も増した。

 クラブが変わればマスコット事情も変わる。横浜F・マリノスにはマリノス君の甥っ子であるマリノスケが2000年に登場。多忙なマリノス君に代わってJリーグの企画やホームタウン活動など外回りを中心に活躍している。

 しかし、マリノスケは地域の広報活動に苦労した。グランパスくんとは逆に活動自体は頑張っているものの、安全上の問題でスケジュール告知の機会が限られ、思うように発信できない状態が続いていたのだ。

 その上マリノスのサポーター気質は「かわいいよりかっこいい」を好む風潮。すでにかっこいいマスコットとしてマリノス君が存在しているので、クラブ内外から支持を得るのが厳しい状態が続いた。

 そんな中、2019年の新体制発表会にてマリノスケに背番号が交付される。サポーター有志でカンパを集めマリノスケに1試合限りのユニフォームを着せたり、熱心なサポーターが背番号の要望を出したりしていたが正式に公式が動いたのだ。

 それまで無地の洋服で応援していたマリノスケにも「自分はマリノスの一員なのだ」という自信がついたようでTwitterに変化があった。選手・サポーターと共に戦う存在として敗戦を一緒に悔しがるような発信が増えたのである。

 大雨の中で滑って転んでもマリノスケはスタジアムを盛り上げ続けた。熱中症患者数が増加した夏の日のホームゲームでは待機列のサポーターを激励するために水の入った重いミストを持ってみんなを冷やした。段々とサポーター全体に「マスコットは賑やかしの客寄せパンダではなくサポーター仲間なのだ」「健気な活動を応援したい」という空気が広まっていく。

 2019年シーズンのJ1リーグ優勝から勢いを増したマリノスサポーターはSNSでの連帯を発揮し、見事2020年のJリーグマスコット総選挙でマリノスケを1位に押し上げる。

 マリノスケは「志を共にする仲間」として新しい魅力を身に着けたのだ。そしてサポーターみんなの弟分のような存在になったのである。

 結果発表の瞬間の座席からの歓声が何よりの証拠だろう。

 これらの背景を踏まえながら1本の映像をご紹介したい。

 マスコット総選挙の1位のお祝いをするために、前年度王者のグランパスくんがマリノスケにマスコット王衣装を差し出すのだ。横にいるヴィヴィくんも健気に見守ってくれている。

 苦労して得た栄誉と、そこから繋がりができたスポンサー様の協力の象徴の王冠。もしかしたら、自分が着るつもりで持ってきたのかもしれない。悔しい思いをしているだろうに、明るくふるまいながらマリノスケを尊重する気持ちが他クラブのマスコットから伝わってくる。

 一例としてこの映像に映っていたマスコットのエピソードを紹介したが、J1からJ3までのマスコットそれぞれがストーリーを持っていて、サポーターの並々ならぬ思い入れがある。よく「ディズニーやサンリオ、ゆるキャラではなくスポーツマスコット好きなのはなぜ?」と聞かれるが、造形の可愛さだけでなく、マスコットを通して見られるコミュニケーションに他にはない魅力を感じるのだ。マスコットを知れば、そのクラブに興味が持てる。苦労話やこじつけのストーリーでなくクラブと共に歩んできた歴史がまるごと愛おしい。

「マスコットなら平和で多様な層にアプローチできる」は諸刃の剣

 マスコットにはストーリーを知らなくても楽しめる間口の広さと、ストーリーを知ればなおさら楽しめる魅力が共存しているからこそ幅広い層にアプローチできるが、同時に参加者の視点がフラットになる企画でなければかえってサポーター同士の摩擦になりやすい。

「サポーターならばクラブ同士の対決で燃えるだろう」
「マスコット企画なら平和だろう」

 という考えには少々ズレがある。

 先述の動画は素晴らしい編集と演出だが、それぞれのクラブが経てきた歴史をマスコット越しに追えることや、マスコットの性格が垣間見えるのが魅力で対決自体や結果に感動を覚えているわけではない。グランパスくんが名古屋に帰ってからのことを想像するとプロ野球戦力外通告の番組を見ているような気持ちだ。

 Jリーグサポーターの魅力は対決を煽るよりもそのユーモアや個性が活きる環境でこそ輝くと感じているので、ギスギスした雰囲気はかえって周囲へのネガティブキャンペーンになるだろう。SNS戦略やJリーグのPRはとても大事なことなので否定しないが、そのクラブとマスコットの個性にフィーチャーし、深堀と尊重が出来るような企画だとなおさら魅力が伝えられると確信している。

すべてのマスコットがメッシ級

 婚活における頻出ワードに「パートナーの親や店員さんへの態度を見なさい。それは将来のあなたに向ける態度になるから」という言葉があるが、これをJリーグ流にアレンジすると「Jリーグとクラブのマスコットへの態度を見なさい。それは将来のサポーターに向ける態度になるから」と言えるだろうか。

 マスコットを長時間・長距離移動させるような稼働、事情なしに辞めさせるなどの行動はシート貼りでサポーターが炎天下で並んでいても対策を取ってくれなさそうなど、今いるサポーターを大切にせず、誰かが減っても新規層を増やせば良いという考えと根っこが繋がっているように感じる。

 時代に合わせたアップデートや、ポジティブな変化であれば賛成だが、やみくもに変化させる・競争させるのはクラブのエンブレムや歴史を雑に扱われるような気持ちだ。逆に言えば、マスコットを大切に扱うことでリーグやクラブへの信頼に繋がる。すべてのマスコットがバロンドール級の活躍だからこそ、私たちは今日もマスコットを応援の声をかけるのだ。「マスコットは尊い!」と。


Photo: Getty Images

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Profile

ささゆか

1988年東京生まれ、フェリス女学院大学卒。 外資インフラ広報経験を活かしたマーケティング考察やサッカーマスコット情報を中心に執筆・イベント登壇など活動中。2019年7月より「サポーターに寄り添うサッカー雑誌」をコンセプトにした共同運営マガジンesteem chant編集長を務める。夢は沢山の海外クラブストアを巡り、世界中のマスコットと会うこと。