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「評論の難しい」ミャンマー戦。「守備のインテンシティ」を考える

2019.09.13

山口遼の日本代表テクニカルレポート

最後まで決勝トーナメント進出の可能性を残しながらあと一歩及ばずGS敗退に終わった悔しさと、次代を担う若手選手たちが南米勢との真剣勝負という、得がたい経験をしたコパ・アメリカから2カ月。2022年W杯カタール大会/2023年アジアカップ中国大会に向けたアジア予選がついにスタートした。

敵地でミャンマーと対戦した日本代表は0-2で勝利。初戦を白星で飾った一戦について、東大ア式蹴球部の山口遼ヘッドコーチが分析する。

 カタールW杯2次予選の初戦としてミャンマー戦が行われ、日本代表は危なげなく0-2で勝利と、初戦としては最高と言っていい結果を残した。

 試合を振り返ると、まずヤンゴンの会場のピッチはまるで田んぼのようなデコボコ具合で、ボールはまともに走らず日本のいつものスタイルを高い再現度で見せるのは難しいコンディションであった。また、ミャンマーははっきり言って攻守において戦術と思しきものはほとんど存在せず、日本との力量差は明確だったものの、選手たちのモチベーションは高くわかりやすい球際などではアグレッシブでややラフな当たりの守備が時間の経過とともに目立ち始めた。これらに加えて、東アジア特有のスコールによるさらなるピッチコンディションの悪化、さらに特有の難しさがある初戦といった複数の要因が重なり、結果的に非常に評論するのが難しい試合となってしまった。

 そこで今回の記事では、試合展開を素直に追っていくよりもむしろ、1つ目の話題としてはミャンマーの守備を題材に、守備のインテンシティとはどのようにして決まるのかについて論じ、さらにもう1つの話題として、このような試合の評価の難しさについて考察していきたい。

ミャンマーの守備の仕方

 この試合を見ていた多くの人が感じたことだと思うが、ミャンマーの守備はお世辞にもソリッドとは言えない完成度であり、日本のボールを動かすスピードによって常に後手に回らされるような展開だった。しかし、彼らが非常に高いモチベーションを持って試合に臨んでいたからか、1人ひとりのインテンシティに関して言えばそれなりに高いものだった。そもそも、いくらサッカーの力量や身体能力などが異なるとはいえ、成年男子が本気で動いた時のスピードにそこまで開きがあるはずがないのだ。

 すなわち、個人の走る速さがほとんど大差ない集団同士が守備をしてチームのインテンシティに差が出てくるということは、「チームのインテンシティ」は「個人の守備の激しさ」の単なる総和には一般的にならないということである。

 まずは、この守備のインテンシティを決める要因を探っていく前に、ミャンマーの守備の方法を振り返ってみよう。ミャンマーの守備時の最も基本的な配置は[4-1-4-1]なのだが、試合を見るにこのチームの守備の約束事はマンツーマンでもゾーンでもなければ、明確な基準を持ったミックスでもない。

 それを踏まえてより具体的な動き方を紐解いていくと、まず、両SHは日本のSBの高い位置を取る動きにほぼすべての場面でついていくので、DFラインはまるで6バックのようにも見える瞬間があった。また、DFラインの選手も自分の近くにいる選手のオフ・ザ・ボールの動きに安易についていってしまう傾向があった。中でもまずかったのが、裏を狙う動きに考えなしについていってしまうこと。これによって、本来ラインで守っていればオフサイドによって消せるはずのスペースが、下がった分だけすべて攻撃側の使えるスペースになってしまっていたのだ。

 このように人についていく傾向はあるものの、先日戦ったパラグアイのように徹底したマンツーマンというわけではなく、中盤の3枚やDFラインなどは基本的にはゾーン寄りで、なんとなくスペースを埋めているようなポジショニングが目立った。しかし、スタートポジションでは均等だったはずの距離感は、ボールを動かされると簡単に均等でなくなり、人が空けたスペースを別の選手が埋めるということもなかったので、簡単に形が崩れてしまい、フォーメーションの推定が困難なほど陣形が崩れることもしばしばであった。

 すなわち、ミャンマーの守備を簡潔にまとめれば、どうやら彼らの守備の基本的な原則はまずゾーンが優位に立っているようだが、ボールを動かされたり、相手に配置を変えられたりすると簡単にチャレンジアンドカバーや守備の距離感は綻びを見せ、それによって生じたスペースやそこでフリーになりそうな選手にはマンツーマン気味に人を当ててなんとか対応する、というようなイメージだろうか。

何が守備のインテンシティを決めるのか

 あらためて述べるが、ミャンマーの選手1人ひとりのインテンシティは決して低かったわけではない。特に中島翔哉大迫勇也などに対しては、かなりタイトなマークを行なっていたなという印象を持っているほどだ。にもかかわらず、チームとしてアウトプットされる守備の強度があれだけ低いという印象になるのには理由があるはずである。

 まず、例のごとくサッカーをスペースと選択肢を資源とするゲームと考えると、守備というのは相手の使えるスペースと選択肢を効果的に奪っていく作業ということになる。「インテンシティ」とはすなわち強度という意味なので、時間軸上で相手のスペースと選択肢をいかに制限できているのかという指標だと捉えらえる。

 先日のパラグアイ戦のマッチレビュー記事でも言及したが、1人の選手が守れるスペースは空間対称ではなく、進行方向や体の向きなどによって特定の方向に偏る。ゆえに1人の選手がいくら頑張って守備をしたとしても、その方向以外のどこかに必ず利用可能なスペースや選択肢が生まれてしまう。そうしたスペースや選択肢を制限しなければ、効果的に守備ができない。ここで非常に重要になってくるのが、2人目、3人目……といった、その他の守備の選手である。1人がボールに対してプレッシャーをかけ、使えるスペースや選択肢を制限し、その結果どうしても生まれてしまう別のスペースや選択肢を別の選手が協力して埋めることで、「相手が利用可能な」スペースや選択肢を奪うことこそが、効果的な守備を行うポイントである。これはゾーンでもマンツーマンでも関係なく重要であり、ボール周辺の利用可能なスペースを隙間を開けずに埋めにいくことをより重視するのがゾーンディフェンス、明らかにフリーな選手を作らないことで利用可能な選択肢を徹底的に排除しにいくのがマンツーマンという違いがあるだけで、優先順位の問題である。

 さて、このように複数人で効率的に守備のインテンシティを上げるために必要なのは、それぞれバラバラに意思決定をする複数の選手が意図を共有し、時間軸上で相手の攻撃よりも早く守備のアクションを実行することである。そのために必要になるのが、

戦術やゲームモデル
予測と、それを可能にするためのプレービジョン

である。

 戦術やゲームモデルは、あらかじめどのような基準で守備を行うのか、すなわちゾーンならばサイドでは誰がファーストDFになるのか、どこに追い込むのか、ハーフスペースのカバーリングは誰が行うのか、マンツーマンやミックスならば初期配置としてどのような配置を取り、どのようにしてマークを受け渡すのかなどを事前に決めておくことで、意思決定を統一しやすくなり、素早く守備のアクションを実行できる。また、相手の攻撃の選手にどのような選択肢が存在するのかというプレービジョンも非常に重要である。相手の攻撃のアクションに対して、いちいちリアクションで対応するのと、想定の範囲内で能動的なアクションとして守備を行うのでは、守備の実行スピードに差が生じるのは明らかだからだ。

 ミャンマーが、1人ひとりは頑張っているのにチームとしてのインテンシティが高まらないのは、まずは戦術的な作り込みが甘く、誰がどこのスペースを管理するのか、どのような相互作用をチームの中に生じさせるのかというのが統一されていなかったためである。さらに、日本の選手のプレーイメージに対してミャンマーの選手はそのイメージの豊富さ、複雑さ、考えるスピードのいずれでもついていくことができず、リアクションで守備を行わねばならないために1アクションごとに守備のズレが拡大していくことになってしまっていた。

アジア予選の評価の難しさ

 この試合を観戦した方の中には、もしかすると3点目を取れなかったことに対して不満を持つ方も多いかもしれない。実際、日本代表は2点目までは割とエネルギーをかけることなく効率的に奪えたのだが、うまくいかない展開に苛立ちを募らせたミャンマーの選手が前半途中、ラフプレーを連発する時間帯が続いた。日本はこの時間帯から明らかに攻撃のテンポを落としており、危険なスペースに無理をして侵入することは避けるようなプレーが増加した。特に後半の初めの時間帯だが、崩し切る前に淡白にシュートを撃つシーンが多かったのはこのためである。これは、勝利を確定させつつケガや疲労といったマイナス要因をできるだけ増やさないように試合を終えようとする意図であり、代表ウィークが終わればすぐにヨーロッパでのリーグ戦が再開されることを考えれば当然の判断だ。

 本来、自分たちよりも力の劣るチームとの対戦は、自分たちの課題を炙り出すのに非常に役立つものだ。強豪チームとの対戦では、相手のチームに比べればあらゆることが課題、ということになってしまい、逆に自分たちは何が通用し、何が通用しないのかがぼやけてしまうことがあるのに対し、力の劣るチームに対して浮かび上がった問題点はまず間違いなく自分たちの課題であると言えるからだ。しかし、今回のようなシーズン中の公式戦となれば、どうしても強化より勝利とコンディション維持が優先されるため、何が課題で何が妥協点なのかをチームの外から見て判断するのは相当困難である。

 今回の試合で言えば、3点目を取ることができなかったというのが最も目につく課題といえば課題だったが、その瞬間のプレーに「ここは無理すれば行けるけど今日は無理するところじゃないよな」という判断があるのか、それともただ単に崩しのテンポが上がり切らないという課題が表出した瞬間なのかを判別するのは、少なくともチームに直接関わっている人間でなければほぼ不可能であろう。

 したがって、今回の試合からあれが課題だ、いやあれが良かった、と言ってもあまり参考にはなりそうにない。まずは、これだけの難しい条件がそろった中で大切な2次予選の初戦に勝利できたことを喜びつつ、各クラブに戻った選手たちのパフォーマンスに期待を込めてサッカーのある日々を楽しむことが先決だろう。本当に評価が分かれるような厳しい戦いは、まだまだ先に待っているはずだ。


Photo: AFLO

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戦術文化

Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。twitter: @ryo14afd