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ターンオーバーなし。文字通り「走り抜いた」フランクフルト

2019.08.02

18-19 Playback For The Coming Season#3

8月に入り、5大リーグ開幕の足音が近づいてきた。プレシーズンマッチを重ねチーム作りを進めている各クラブは、順調に歩みを進められているのか。その進捗を測るうえでは、昨シーズンのチームが抱えていた課題を正確に把握しておくことが欠かせない。

この昨シーズンの振り返り記事で課題を再確認することで、来たる19-20シーズンに向けた準備は的を射ているのか、的外れになってしまってはいないか、判断する手がかりにしてほしい。

FRANKFURT | フランクフルト

 国内外で大健闘した。近年の飛躍を支えたニコ・コバチ前監督がバイエルンに引き抜かれ、その功労者率いる王者にドイツスーパーカップで0-5の大敗。前年覇者として臨んだDFBポカールでは4部のウルムにアップセットを許し、よもやの1回戦敗退を喫した。文字通り最悪のスタートを切りながらELでベスト4進出を果たし、国内リーグでは最終節までCL出場権獲得の可能性を残す躍進を果たしたのだ。

 言わば総力を出し切った。ターンオーバーを敷かず、中心選手はほぼフル稼働。中でも、事実上の代役が不在だった両ウイングバックの働きぶりは凄まじかった。右のダニー・ダ・コスタの総プレータイムは4472分。フィジカルとスタミナを持ち味とするこのタフガイより長くピッチに立ったフィールドプレーヤーは、例えば彼らを下しEL決勝進出を果たしたチェルシーの中ではセサル・アスピリクエタしかいない。

 より驚きだったのは長谷部誠を置いて他にいない。35歳にしてキャリア最高とも言えるハイパフォーマンスを継続的に披露したリベロの総プレータイムは3932分に到達。これは、チェルシーとEL決勝を戦ったアーセナルの誰よりも長い時間だ。フランクフルトの多くの選手は過密日程が叫ばれるプレミア勢に勝るとも劣らない消耗を強いられながら、国内外で好結果を残したわけだ。1年目のアディ・ヒュッター監督が重視していた要素(攻守の切り替えや激しい運動量、セカンドボールの回収など)を考えれば、選手たちの奮闘ぶりにはますます頭が下がる思いだ。ボールを繋ぐこだわりはなく、パス成功率はリーグワーストの76%を記録したが、その攻撃時は「猛牛の群れ」や「魔法の三角形」の異名を取る前線3人(アンテ・レビッチ、ルカ・ヨビッチ、セバスティアン・アレ)のいずれかにボールを預けてから、サイドに展開するメカニズムが十分に機能した。

 国内リーグのラスト6戦で未勝利と急失速したのも、ポストワーカーとして戦術上のキーマンとなっていたアレが負傷離脱した影響によるところが小さくない。もちろん、チーム全体の蓄積疲労による影響(全体的に動きにキレがなく、カバーリングの遅れなども目立った)も否めなかった。それでも、ELで前年ファイナリストのマルセイユに加えラツィオやインテルを破り、選手層から資金力まで比較にならないチェルシーを敗退寸前まで追い込んだ輝きは決して色褪せない。

 最後に、有意義な補強を敢行した強化部門の功績にも触れておきたい。フィリップ・コスティッチはチーム最多のアシストを記録。冬の加入ながら即座にフィットしたセバスティアン・ローデとマルティン・ヒンターエッガーは、後半戦に公式戦15試合無敗を記録する原動力となった。

EL予選2回戦からの登場となったため、 ブンデスの他クラブに先駆けシーズンイン。エストニアのフロラを2戦合計4-2で下し3回戦進出を決めた。ヨビッチとアレの2トップが去り、いかに得点力を確保していくかが新シーズンに向けた最大の課題となる


Photos: Getty Images

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アディ・ヒュッターフランクフルト戦術

Profile

遠藤 孝輔

1984年3月17日、東京都生まれ。2005年より海外サッカー専門誌の編集者を務め、14年ブラジルW杯後からフリーランスとして活動を開始。ドイツを中心に海外サッカー事情に明るく、『footballista』をはじめ『ブンデスリーガ公式サイト』『ワールドサッカーダイジェスト』など各種媒体に寄稿している。過去には『DAZN』や『ニコニコ生放送』のブンデスリーガ配信で解説者も務めた。

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