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照明設備が理由でJリーグ除名!?いわてグルージャ盛岡のスタジアム問題

2019.07.05

Jリーグが2013年より実施している「クラブライセンス制度」。その中でもスタジアムに対する基準はたびたびサポーター間でも議論になっている。先日、同ライセンス制度によりJリーグから除名の可能性が報じられた「いわてグルージャ盛岡」を事例にその背景や向き合い方を考察した。

 ひとつの新聞記事が目に止まった。「Jリーグ基準スタジアム整備 グルージャが要望書」というタイトルだ。内容を要約すると、以下のようになる。

・Jリーグの「スタジアム基準の改定」により、2022年6月までに照明設備を設置しないと、いわてグルージャ盛岡はJリーグから除名される。

・現状の施設は4900人収容で、J2基準の1万人収容には満たないため、現状のままではいくら好成績でもJ2には昇格できない。

・よってクラブは盛岡市に対し、基準を満たすスタジアム整備の要望書と、14万人分の署名を提出した。

 記事を読んで、ふたつの思いが交錯する。ひとつにはJリーグに対してであり、もうひとつはグルージャというクラブに対してだ。

 まずJリーグに対して。そもそもJFL経験のないグルージャに対し(地域決勝では昇格の条件をクリアしていた)、14年のJ3創設に向けて半ば数合わせのように引き上げたことを、今はどう考えているのだろうか。しかも当初、スタジアムに関しては「5000人収容で屋根も照明もなくてOK」としておきながら、ここにきて「基準が変わったから3年以内に照明を付けないと除名ね」と言われたら、行政側としては「え?聞いていないんですけど」というリアクションになるのも致し方あるまい。

 次にグルージャに対して。私がこのクラブを初めて取材したのは、東北1部に昇格した05年のこと。その頃からずっと、現在のいわぎんスタジアム(当時は盛岡公園南球技場)を使用しており、Jリーグ基準のスタジアム計画が具体化したことは一度もなかった。クラブが「将来のJリーグ入り」を標榜したのが、東北2部時代の03年で、松本山雅FCやV・ファーレン長崎よりも1年早い。その後、松本や長崎がJ1という高みまで達したのに対し、グルージャが「J3からも除名される」かもしれない立場に追い込まれたのは、ずっとスタジアム問題が置き去りにされてきたからだ。

 もっともクラブ側が、まったくスタジアムのことを念頭に置いていなかったかというと、そうでもない。05年当時、クラブ運営を担っていたNPO法人の責任者は「ワールドカップに期待している」と語っていた。サッカーではなく、11年の日本開催に向けて招致活動を続けていたラグビーのワールドカップだ。ラグビーが盛んな釜石にスタジアムができれば、そこでJリーグ開催も可能になるのではないかという淡い目算である。結局11年大会はニュージーランド開催となったが、もし日本開催になっていたらどうなっていただろうか(言うまでもなくその年、未曾有の震災が東日本を襲っている)。

 Jリーグはスタジアムの収容人数に関して、J1は1万5000人以上、J2は1万人以上と定めている。これらの数字の妥当性については、しばしば議論になるところであるが、盛岡市の人口が約29万人であることを考えれば、J1基準のスタジアムはあってもおかしくはない。問題はクラブがきちんと地域に根付き、地域にとってかけがえのない存在となっているか、ということである。もちろんグルージャが「そうではない」と断じるつもりはないが(でなければ14万人もの署名は集まらなかっただろう)、さりとて昨シーズンのホーム平均入場者数は1216人。多くの市民や県民から愛されているとも言い難い。

 入場者数の伸び悩みにしても、今回の行政への陳情にしても、結局のところ14年の早すぎたJ3昇格のツケが、今になって回ってきたという印象は否めない。スタジアム問題で苦しんだのは長崎も同様であったが、JFLで4シーズン足踏みを強いられたことが結果としてクラブの胆力を育むことになった。また彼らが昇格したのは、J3が創設される直前の13年だったのも大きかったと思う。JFLからJ2へのハードルは、J3よりも高かっただけに、クラブも行政も今では考えられないくらいの覚悟が求められたからだ。

J2は、インターナショナルライセンス

 J3ができたことで、JFLからJリーグへの参入は、それ以前に比べれば容易になった。しかし今度は、J3からJ2への昇格にスタジアム案件の壁が大きく立ちふさがるようになる。実は以前、クラブライセンス事務局の担当者に「なぜJ1・J2とJ3とでは、スタジアムの条件に大きな開きがあるのか」と質問したことがあった。その答えは、意外と知られていない内容だったので、当時のインタビューから引用する。

 「J1とJ2は、インターナショナルライセンスなのです。つまり、AFCのクラブライセンスに準じたルールになっていて、FIBという第三者の弁護士や会計士の方々に判定していただいています。それに対して、J3はナショナルライセンスで、理事会で判定を行っています。ですから施設基準以外でも、J2とJ3の間でけっこう幅があります。J2とJ3との間に差ができてしまうのは当然のことで、J2の基準をJ3に寄せるのもAFCとの関係があるので簡単ではないのです」

 つまりJ3とJ2のライセンスの幅を縮めることは、AFCとの兼ね合いがあるので、Jリーグだけでは決められないということである。とはいえJリーグが、ライセンスを持たないクラブに対して冷淡だったわけではない。昨年はJ2で4位だったFC町田ゼルビアがJ1参入プレーオフに出場できず、さらにその前の年にはJ3で優勝したブラウブリッツ秋田もJ2昇格はならなかった。これらの事例を引きながら、前出の担当者はJリーグ側の葛藤をこう表現している。

 「そもそも競技成績で(プレーオフ出場や昇格が)決まるべきものが、それ以外の案件で決まるというのはインテグリティー上のリスクがあるのではないか?さらに言えば、ライセンスを持たないクラブが半分くらいあるJ3だと、何のために戦っているのかわからなくなってしまうのではないか?そもそも小さな街のクラブでも、結果を残せばトップリーグまで目指すことができるはずなのに、施設基準によってその機会を奪っていいのか?」

 こうした問題意識が出発点となり、「競技性の公平性」という課題をクリアするべく、昨年12月にクラブライセンス事務局が発表したのが「スタジアム基準の改定」であった。この改定の注目点は、将来的に建設や改修の明確な予定がある場合は「すでにある」ものと判断する、としたこと。今回の改定によりグルージャは、スタジアムの照明施設設置を求められているわけだが、一方で今季の町田のように、スタジアム改修が終わっていなくても「J1を目指す」ことを公言できるようになった事例もある。

 つまりJリーグの「スタジアム基準の改定」は、決して無慈悲にライセンスのハードルを上げているというわけではないということだ。グルージャの件も、自治体から「2022年6月までに照明設備を設置する」との確約を得ることができれば、その時点でJリーグ除名という最悪の事態は回避できる。もっとも、この件は解決したとしても「いつまでもJ3のままでいいのか?」という議論は、いずれ必ず起きるだろう。

 そもそも行政への陳情による目先の問題解決だけでは、結局は同じようなことが繰り返されるだけである。グルージャが「Jリーグを目指す」と宣言したのが、今から16年前。Jリーグ側の思惑もあって、その願いは10年ちょっとで実現したものの、地域にとってかけがえのない存在になっているとは言い難い。将来的なスタジアム建設の議論を進めるためにも、今こそクラブは行政や地域に何を提供できるのか、具体的かつ明確に提示すべきである。今回の一件が、その契機となることを願いたい。


Photos: Tetsuichi Utsunomiya

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Profile

宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。

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