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サインで愉しむフットボール集める魅力。味わう視点 

2019.07.02

サッカーコレクションの定番「サイン」。そのサインを、一風変わった形で“分析”している人物がいることをご存じだろうか。 memorabiriaz(メモラビリアズ) 氏は国内外の有名選手のサインを幾何学的、類型学的な視点で分類する「オートグラフ・タイポロジー」に取り組んでいる。今回はそんなmemorabiriaz 氏にサインの入手方法や歴史的価値、そしてマイコレクションを紹介してもらった。

 雑誌の懸賞に一人で何通も応募してみたり。テレビでスター選手からサインをもらうタレントさんを羨ましく思ったり。コアでないサッカーファンでなくとも「憧れの選手のサインが欲しい!」と思った経験が一度はあるのではないでしょうか。

 私は長年、古今東西のサッカー選手のサインを蒐集してまいりました。今回はそのコレクションとともに“フットボール・オートグラフ”、つまりサインの世界を紹介したいと思います。一人でも多くの方にその魅力に触れていただければ幸いです。

オートグラフとの出会い

 私がこの世界に足を踏み入れたのは今から16年前。きっかけは『カカーとの遭遇』でした。トヨタカップ(現FIFAクラブワールドカップ)出場のためACミランの一員として来日していた2003年。仕事で横浜を訪れていた私の目の前を、当時売り出し中だったカカーが歩いているじゃありませんか。私はすぐそばにあったワールドスポーツプラザに駆け込み、マーキングユニフォームを購入。サッカー選手にサインなんてお願いした経験はありません。緊張状態で声をかけてみたところ、あの眩しい笑顔でサインに応じてくれました。カカーだけではありません。マルディーニが、シェフチェンコが、ガットゥーゾが目の前にいる理解不能な光景。今でも、みなとみらいに流れていたSolo conteを耳にするたび、コレクターデビューした奇跡の1日を鮮明に思い出します。

オートグラフの魅力

 オートグラフが持つ魅力の1つに「デザイン性」が挙げられます。生まれ育った国の言語や文化的な影響が色濃く反映されるため、多様な構図を愉しむことができます。また、時代背景や社会的状況もデザインに影響を与えます。1950年代のオートグラフにサミュエル・エトーやリリアン・テュラムのようなハートマークは確認できませんし、リーガデビュー前のリオネル・メッシの筆致にはサッカー史に確固たる地位を確立した現在のものから漂う風格は感じられません。

 魅力を語る上で「差異性」も外せません。一人の人間が同じタイミングで書いたとしても、まったく同じ形状を複製することは困難です。一つとしてこの世に同じものが存在しないという特徴はオートグラフに希少価値を生み出すとともに、可読性が高いものやインスクリプションという添え書き(個人宛のメッセージ、背番号、記録等)が加えられたものはオーナーに心理的優位性をもたらします。

 オートグラフの収集は16世紀のイギリスで始まり、18世紀には貴族の趣味として文化的な定着を果たしました。同時期の日本でも故実家・伊勢貞丈が「花押(かおう)」で形状分類を試みるなど、直筆署名は古今東西高い関心を集めてきました。

入手方法は主に3つ

 「カカーとの遭遇」のような偶然は、人生の中でそう起きるものではありません。「憧れの選手のサインは欲しい。でも、どうやって手に入れるの?」まずはそんな方のために、代表的な入手方法を3パターンご紹介します。

①IP

  IPとは「In Person」の略で、選手と対面して直接サインをもらうこと。最も一般的な入手方法と言えます。IP最大の魅力は憧れの選手から直接サインをもらえるところにあります。サインだけでなく、選手と交流した時間を含めて一生の宝物になります。練習場でのファンサービスや書店・カード会社(「MINT 」など)が主催するサイン会が主な入手場所です。後者ではグレーディング会社(「PSA」など)による証明書が発行されるケースもあります。

②TTM

 TTMとは「Through The Mail」の略。ひとことで言えば「ファンレター」です。TTMもIP同様、ファンから直接働きかけることでサインを入手する方法です。宛先を調べたり、母国語以外で思いを綴ったり大変な労力を要します。スター選手には世界各国からファンレターが届くので、返信が届く確証はありません。ただ、時間と労力を注いだ分だけ、憧れの選手から返信が届いた時の喜びは格別です。

③購入

 購入は文字通りメーカーのサイトやショップ、オークション経由での間接入手となります。トレーディングカード(以下トレカ)やユニフォームが人気ですが、特に収納性に優れたトレカは住宅事情もあいまって、日本にも愛好者が多いようです。購入最大の強みは信頼性にあります。メーカー(「ICONS.com」や「PANINI」など)の証明が付属するため、ファンは安心して購入することができます。投機目的での入手もこのカテゴリーの特徴です。選手が実際に使用したユニフォームや世界で1枚だけのカード「1 of 1」に記されたサインには、数十万円から数百万円の値がつくなど一大マーケットが存在します。

人に歴史あり。「変遷」を愉しむ

 オートグラフにはいくつもの楽しみ方がありますが、その中の一つに「サインの変遷」があります。キャリアを積み重ねる過程で、サインの形態が変わる選手がいます。

 例えばアントワーヌ・グリーズマン。彼を語る時、プレーやヘアスタイルだけでなく、多彩なサインにもぜひご注目してもらえればと思います。写真左は「2015-16 TOPPS UEFA CHAMPIONS LEAGUE SHOWCASE」に収録されたサインです。グリーズマンの「G」とアントワーヌの「A」を組み合わせた、彼のサインの中で最もシンプルなデザインです。

 写真中央は「2016-2017 PANINI NOIR」に収録された一枚。写真左の形態をベースに、彼のこだわりの背番号「7」とスマイルマークを組み合わせています。2017-18シーズン以前はフランス代表で背番号「11」を背負うケースがあり、単純なスマイルマークと読むか、背番号「11」を兼ねていると読むか見方が分かれるところです。

 写真右は2019年現在確認されている最も新しいデサインです。愛称である「Grizi」の「Z」が背番号「7」を想起させるシャープな筆致です。

 紹介した3点は、いずれも左右に広がり重心の低いデザインでしたが、レアル・ソシエダ時代の2009-10シーズンには、横幅よりも天地幅がある背番号「27」のモデルも存在します。一時の過熱感こそ消えましたが、2019年に入ってもレアなトレカが5万円台後半で取引されるなど、依然オートグラフ市場で価値の高い選手です。

マイコレクション

 ここからは、激戦が続く「コパ・アメリカ」にフォーカスを当て、私のコレクションを数点、紹介します。

フィリペ・コウチーニョ

 まずは、フィリペ・コウチーニョ。コパ・アメリカ開幕戦ではPKを含む2ゴールを挙げ、母国での優勝を目指すブラジル代表を牽引しています。サインは「2018 PANINI PRIZM FIFA WORLD CUP」に収録された一枚。「Philippe(フィリペ)」をベースにしたデザインです。

アルトゥーロ・ビダル

 大会3連覇を目指すチリ代表の主軸、アルトゥーロ・ビダルのオートグラフです。「Vidal」の文字に「8」を組み合わせたサインですが、プレー同様見る者に力強さを感じさせます。洗練されたデザインで人気の「PANINI IMMACULATE COLLECTION」シリーズらしく、ロッホにゴールドを組み合わせた高級感漂う一枚です。カード面中央の「HELPS CHILE CLAIM / COPA AMERICA CENTENARIO」が前回大会の偉業を称えます。

ハメス・ロドリゲス

 コロンビアからは、ハメス・ロドリゲスをご紹介します。ワールドカップ得点王に輝いた2014年大会時に販売された「PANINI 2014 PRIZM FIFA WORLD CUP SOCCER」(写真 左)と「2016-2017 PANINI SELECT SOCCER」(写真 右)に収録されたトレカです。「JAMES」と「R」の組み合わせを基本形とし、2本のアンダーラインと背番号「10」が加わる発展形をご覧いただけると思います。近年多用している流線的なサインとは異なり、モナコ時代からこの時期までは一文字一文字に荒々しさを感じます。

エディンソン・カバーニ

  ウルグアイからはエディンソン・カバーニ 選手を紹介します。躍動感あふれるこのパフォーマンスを見ただけで、彼が決めたゴールの記憶が蘇った方も多いのではないでしょうか。試合中の迫力ある写真を使用した「2018 PANINI INSTANT WORLD CUP SOCCER」収録のサインです。「21」を挟んで左が「Edi」右が「Cavani」。背番号を挟んでネームが分割される個性的な自署がポルトガル戦の名シーンに彩りを添えるカバーニファン垂涎の一枚です。

リオネル・メッシ

 次は今大会でも主役のリオネル・メッシ。写真左は28歳の時、写真右はリーガデビュー前、17歳の時のサインです。原型こそ大きく変わりませんが、キャリアを積んだ彼のサインからは風格が感じられます。史上最高の選手の一人だけに、オートグラフ市場価値においても最高ランクに位置します。《写真+サイン》の3万円台を最低ラインとし、《実使用ユニフォーム+サイン》は60万円を超えるディールが行われています。1998年のワールドカップ決勝戦でジダンが着用したユニフォームが過去に1000万円台前半で落札されたケースがありますが、今後メッシについても同等あるいはそれ以上の価格がついても不思議ではありません。

ディエゴ・マラドーナ

 南米が生んだサッカー界のレジェンド2人にも登場してもらいましょう。まずは、1987年大会に出場したディエゴ・マラドーナ。「Maradona」に「Diego」と「10」が添えられたフルシグニチャーです。全盛期には日本企業の広告に数多く登場していたこともあり、サッカーファンにはよく知られたサインです。諸般の事情から訪日が難しいため、日本のコレクターの中には購入を検討される方も多いと思います。現在トレカ市場では1万円台から購入可能です。ただし、近年は「Diego」そして「10」を省略するケースが目立ち、往年のファンからはさみしいとの声も聞かれます。

ペレ

 最後は1959年大会で得点王を獲得した「キング・ペレ」。来日時に直接いただいた貴重なコレクションです。世界で最も有名なサインである「Pele」に、「Do Amigo」のインスクリプションを添えてくれました。同タイプのサインは日本サッカーミュージアムなどでも確認できますが、本名を加えた「Edson=Pele」や「Edson Arantes do Nascimento」も存在します。

 彼のサインの特徴は「1(エル)」の左辺上部に現れます。頂点から中腹に至る傾斜が一瞬直線的になる点は鑑定ポイントの一つとしています。余談ですが、ペレが私に歩み寄り、肩を抱いてかけてくれた「アミーゴ! アミーゴ!」の低音ボイスはいまだに耳から離れません。私がIPを愛する理由は、そんなプライスレスな価値をもたらしてくれる点にあります。

オートグラフファンを広げるために

 駆け足で紹介してきましたがいかがでしたか。憧れのプレーヤーを普段とは違う角度から楽しんでもらえたのであればうれしいです。今後はtwitterやサロンでの活動を通して、みなさまのコレクションもぜひ拝見できればと思います。


Photos: memorabiriaz

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