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“日本擁護”で話題。エクアドル代表監督は南米が誇る熟練の名将

2019.06.24

“ここはひとつ礼儀正しく、優勝を目指すと言わせてもらおう”

INTERVIEW with
HERNÁN DARÍO GÓMEZ
エルナン・ダリオ・ゴメス(エクアドル代表監督)

コパ・アメリカ参戦中のメンバーが“ベスト”でないことに対し、日本代表への批判の声が巻き起こった。しかしそんな空気の中、「日本とカタールの参加は良いこと」と言及した指揮官がいる。日本時間25日(火)朝に決勝トーナメント進出を懸けて日本と対戦するエクアドルのエルナン・ダリオ・ゴメス監督だ。

“ボリージョ”の愛称で知られる63歳は、これまで中南米4カ国の代表を指揮しW杯出場3回。 その中には、エクアドルとパナマを史上初の夢舞台へ導くという快挙も含まれている。そして、コパ・アメリカは今回が6回目。国際大会の経験値においては世界でも有数の指導者だ。ただ実は、今回のコパの前に「(大会は)学ぶための機会」と発言し国内で物議をかもしていたという。今回の日本へのコメントの裏には、一種のシンパシーのようなものもあったのかもしれない。

日本でも話題となったゴメス監督がどんな人物なのかを知る手がかりとして、コパに向けて展望を語った月刊フットボリスタ第69号『コパ・アメリカ特集』掲載(収録は4月上旬)インタビューを公開。大一番を前に、熟練の名将の人となりに触れてほしい。

ロシアW杯の出場権を逃したエクアドルは、その屈辱を晴らすべくゴメス監督に救いを求めた。しかし就任から6試合を戦った2018年時点で、4勝1分1敗という戦績にもかかわらず、国内のメディアやファンからはプレー内容の乏しさが指摘され、早くもシビアな評価を下されている。しかも、今回のコパ・アメリカの位置づけを「学ぶための機会」と語ったことが“大会を過小評価している”と見なされ、同国サッカー連盟の中でも不満の声が上がったと報じられた。針のむしろとまではいかなくとも、厳しい目を向けられる状況下で指揮官は今大会に挑む。


── あなたはかつて、エクアドルの黄金世代と呼ばれた選手たちを率いて同国初のW杯出場(2002年)を実現させました。今回は世代交代が伴うこともあり、チーム作りの上で前回よりも困難を感じていますか?

 「当時は私だけでなく、エクアドル全土が代表チームのW杯出場を喜び、誇りに感じた。あれから月日は流れたものの、エクアドルにはいま一度W杯に挑戦できるだけの素材がそろっている。限られた時間内でチームを再建することは、どの国の代表にとっても簡単な仕事ではない。優れた個の力をチーム全体のメカニズムに適応させ、連動させることができて初めて良いプレーと結果を期待できる。今はそのプロセスの途中にある」

ゴメス監督が率いた2002年日韓W杯でのエクアドル代表。イタリア(0-2)、メキシコ(1-2)に連敗しGS敗退となったものの、最終節でクロアチアを下し悲願の大会初勝利を手にしてみせた


── 2度目の指揮となる今回、プレースタイルを見出すのにこれほど苦労しているのはなぜでしょう。

  「プレーのアイディアはあって、選手たちもそれを徐々に吸収してきている。ただ現代のサッカー界のカレンダーでは、代表監督たちが十分な時間を使ってチームを作り上げていくことはますます困難になっている。特にA代表に関してだ。試合の前に選手を集めて練習できるのは4~5日間しかない。FIFAが設ける国際親善試合期間は1週間あるものの、移動や試合後のリカバリーに必要な時間を割くと練習できるのはごくわずか。アイディアの半分をプレーに反映させて向上できればマシな方だと言っていい。私が代表監督に就任してからおよそ8カ月経つが、いまだに問題点が目立つのはそのためだ」


── 3月の親善試合、アメリカ戦(●1-0)とパナマ戦(0-0)からは何を得られましたか?

 「どちらも非常にハードな対戦相手だったことから、結果はともかく、多くの成果を得ることができた。それに我われのチームは何人かが負傷で欠場していて、不完全な状態だったことも確かだ。コパ・アメリカに出場するのはあのチームではない。一部の選手は今大会のために招集されることになるが、他の選手たちは今後のプロセスの中で起用されることになる。私とスタッフの仕事はブラジルの地で終わるのではなく、来年から始まる2022年W杯の南米予選に向けられているからだ」


── では、コパ・アメリカの結果は去就に影響しないということですか?

 「まったく影響しない。エクアドルサッカー連盟とはカタールW杯予選が終わるまで契約を結んでいる。今大会の結果次第で私が解雇されるのではないかと余計な心配をしている人もいるようだが、私はまったく気にしていない。心配はいらないさ。もちろんコパ・アメリカは由緒ある重要な大会だ。たとえ私の今後に影響しなくても、これまでの長いキャリアの中で示してきたプロ意識と責任を持って挑むし、より良い結果を残すため全力を尽くすつもりだ」


── 今大会の目標は?

 「ここはひとつ礼儀正しく、優勝を目指すと言わせてもらおう。タイトル獲得が目標だ、とね」


── それはメディアやファンが強要しているからでしょうか? それとも、あなた自身が実際に感じていることでしょうか?

 「私のことをよく知っている人ならば、私がいかなる試合にも勝つための準備を整えて挑むとわかっている。どんな大会でも可能な限り上位を目指すべきだ。今のエクアドル代表は一定のトレーニング期間を経て、いくつかのポジションで世代交代が行われている。いずれも素質のある選手ばかりで、良いチームになってきている。外部の人たちにはわからないかもしれないが、選手も私もスタッフも、チームがどのような形で何をやりたいかを十分理解している。これは非常に大切で、心強い要素だ。私が選手を招集する時、その選手が代表にふさわしい人材であるという評価はもちろん、何を期待しているか、そしてチーム内のプラス要素となって勝つために呼ばれたのだ、ということをしっかり伝えている。それが私のスタイルだし、チームもその意気込みでコパ・アメリカに挑むのは確かだ」


── 過去にエクアドル代表を率いて2度コパ・アメリカに出場していますが、結果は思わしくありませんでした(2001年大会は1勝2敗、2004年大会は3敗でともにグループステージ敗退)。今回この戦績をどのように変えたいと思いますか?

「過去の結果が良くなかったことは誰もが知る事実だし、(監督に就任してから)何度も言ってきたように、我われは優勝候補でもない。それでもブラジルでは対戦するすべての相手と同様に、我われも簡単には勝たせないチームとなるだろう。そしてやはり、今回のプロセスで最も優先されるのは次のW杯予選だ。今のエクアドル代表にはW杯出場という大きな目標があり、私が監督に呼ばれたのもそれを実現するためなのだから」


── 今回も厳しい大会になるでしょうね。

 「コパ・アメリカは互いの性質を知り尽くした非常にレベルの高いチーム同士で争う難しい大会で、そこに近年は南米勢と互角に戦える手強い招待国が参戦している。今回もとてもハードな戦いになるだろう」

難しい、楽しみ、グループC

インテンシティ、両サイドのスピード、ハイプレスはもはや日本代表の遺伝子

── ウルグアイ、チリ、日本と同組になったグループCをどう分析しますか?

 「難しいグループだ。初戦の相手ウルグアイに関してW杯とコパ・アメリカの初代チャンピオンだという肩書きはここで説明するまでもないが、彼らは知将オスカル・“マエストロ”・タバレスによる長年の強化プロセスを経てチームの基盤を築いている。最初の試合でいきなり守備力と得点力において群を抜くウルグアイと当たるのは厳しいが、我われは当然、対等に戦う姿勢で挑むつもりだ。2戦目のチリはディフェンディングチャンピオンで、ロシアW杯出場を逃した後、代表経験の豊富なレイナルド・ルエダ監督を新たに迎えてチーム作りに取り組んでいる。全体的にバランスの取れたチームで、各ポジションに名手を擁している面ではウルグアイと同等だ。さらに彼らは南米王者としてのプライドを持って今大会に挑むだろうから、これまたハードな試合になるはずだ。そしてグループ最後の相手は日本。ダイナミックでインテンシティの高いプレーを展開するだけでなく、近年はとてもコンペティティブなチームに進化を遂げている。困難な戦いになるだろう」


── 日本はグループCのサプライズになり得るでしょうか?

 「W杯の常連国でアジアの強豪である日本の躍進をもはやサプライズとは呼べないことは、ロシアW杯での彼らの戦いぶりを見てもわかる通りだ。近年は技術の著しい進歩のおかげで、地球の反対側に位置する国のサッカーを分析することも容易になった。我われは日本のプレーに驚かされることのないよう入念に調べ、十分な準備をして臨む」


── 日本は3月にコロンビア、ボリビアと親善試合を行いましたが、分析の役に立ちましたか?

 「もちろん。いかなる試合も鑑定と分析の対象になる。今のところ(インタビューが行われた4月上旬時点で)コロンビア戦を分析したが、この試合での日本はどのラインも堅固で、守備から攻撃への切り替えが早く、非常にダイナミックなプレーを見せた。あと、今まであまり見たことのなかった何人かの選手が印象に残ったよ」


── それは誰でしょう?

 「アタッキングゾーンでの破壊力が印象的だった堂安(律)と、シンプルだが明確なプレーを見せた南野(拓実)だ。その他にも優れたコンディションを持つ選手がたくさんいると感じた」


── ロシアW杯時の日本と比較するとずいぶん違いますか?

 「そうだね。しかも、森保監督になって以降もアジアカップからこの2試合で何人かメンバーが変わっているし、リノベーションの時にあるのは明らかだ。長友、本田、長谷部といった馴染みの選手が不在となったチームで、乾や山口などロシアW杯のメンバーに新しい顔ぶれを融合させていた。だがここで大事なのは、たとえ選手が変わろうとも、プレーのインテンシティ、両サイドのスピード、高い位置でのプレッシングはもはや日本代表の遺伝子になっていることだ。同じように新しいスタートを切った我われとしても、彼らと対戦するのが楽しみだよ」

ウルグアイ、チリとの2戦は連敗となってしまったエクアドル。だが他グループの結果から、日本に勝利すれば準々決勝に進出できる。全力で挑んでくる相手に日本がどう挑むか、注目だ


Hernán Darío GÓMEZ Jaramillo
エルナン・ダリオ・ゴメス・ハラミージョ

(エクアドル代表監督)
1956.2.3(63歳) COLOMBIA

COACHING CAREER
1991-93 Atlético Nacional
1995-98 Colombia National Team
1999-04 Ecuador National Team
2006-08 Guatemala National Team
2008-09 Independiente Santa Fe
2010-11 Colombia National Team
2012-13 Independiente Medellín
2014-18 Panama National Team
2018- Ecuador National Team

コロンビア西部メデジン出身。同国の名将マトゥラナの下、アトレティコ・ナシオナルとコロンビア代表のアシスタントコーチとして指導者キャリアを始める。91年にマトゥラナの後を継いでアトレティコ・ナシオナルの監督に就任。93年からは再びマトゥラナのアシスタントとして94年W杯までコロンビア代表に帯同し、翌年から98年W杯まで同監督を務めた。99年からはエクアドル代表を指揮し、日韓W杯で同国の大会初出場を実現。その後グアテマラ、コロンビアの両代表と母国の2クラブを歴任、14年2月からはパナマ代表を率い、18年W杯で大会初出場に導いた。同年8月、エクアドル代表監督に2度目の就任。

Translation: Fabian Rosso
Photos: Getty Images

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エクアドル代表エルナン・ダリオ・ゴメス戦術育成

Profile

Fabián Rozo

18歳の時にコロンビアのスポーツ紙『Diario Deportivo』で記者活動を開始。その後『El Espectador』と『El Tiempo』両紙のスポーツ欄を担当し、コロンビア版『MARCA』紙の編集長も務めた。現在はコロンビア政府スポーツ省「Coldeportes」のプレス担当。W杯は2002年大会から継続的に取材している。