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デニス・ベルカンプ。異次元の “止める、蹴る”が生む質的優位の権化

2019.06.05

最新戦術用語で読み解くレジェンドの凄み#2

過去から現在に至るまで、サッカーの歴史を作り上げてきたレジェンドたち。観る者の想像を凌駕するプレーで記憶に刻まれる名手の凄みを、日々アップデートされる最新戦術用語であらためて読み解く。

第2回は、ゲームメイカーからウインガーまで多彩なタレントを世に送り出してきたオランダからデニス・ベルカンプ。今なお語り草となっている美しいゴールの数々を生み出したボールスキルの傑出性に、ジョセップ・グアルディオラを筆頭に現代サッカー戦術の一大トレンドとなっている「ポジショナルプレー」の視点でフォーカスする。

アヤックス産

 ヨハン・クライフ、マルコ・ファン・バステン、そしてデニス・ベルカンプ。この3人はかなりよく似ている。すらりとした体型、エレガントな動き、柔らかいボールコントロールは共通していて、クローン人間的な類似性すら感じる。ファン・バステンとベルカンプは、ともにクライフが目をかけた後継者でもある。類は友を呼ぶということだろうか。

 3人の中で最も得点力があったのはファン・バステンだ。一番サイズも大きく、あらゆる形からゴールを決めた。フィールドの支配者として最も力があったのはクライフだ。トータルフットボールの核として統率力を発揮し、卓越したゲームメイクを披露した。

 ベルカンプのプレースタイルは、ちょうどファン・バステンとクライフの中間になる。ファン・バステンに匹敵する得点力があり、アタッキングサード限定だがクライフをしのぐほどのラストパスの名手である。

 ただ、違いよりも3人には共通点の方が多い。フィジカル能力に頼らず、技術で勝負していたのは3人の、あるいはアヤックスの哲学と言っていい。3人はその中でも図抜けて高い技術レベルにあった。止める、蹴る、運ぶの能力が傑出していた。

 アヤックス発祥のトータルフットボールは、現在のポジショナルプレーの源流にあたる。ポジショナルプレーのメリットとしてよく挙げられているのが「数的優位」「位置的優位」「質的優位」。そのうち最後の質的優位を生かす例として、ウイングがDFと1対1で仕掛けられる状況を作ることがよく挙げられる。しかし、その状況を作ったからといってウイングの能力が突然3倍になるわけではない。DFの守備力の方が上回っているなら、それは質的不利にしかならないわけだ。つまり質的優位とは、もともと相手を上回っているクオリティを最大化するための方法に過ぎない。逆に言うと、数的優位と位置的優位もそれを生かせるだけの技術がなければ何の意味もないわけだ。ボールの置きどころに失敗した瞬間には、数的優位も位置的優位もたちまち消えている。

 良いポジションを取ることは重要だが、技術はそれ以上に重要で、ポジショナルプレーの前提と言える。だからアヤックスは伝統的に技術を重視してきた。

信じがたい浮き球のコントロール

 ベルカンプのゴールシーンを見ると、足下に入ったボールを右方向へかき出すようにシュートして右側のファーポストに決めている場面がよく出てくる。ほとんどノーステップに近いキックだ。これはキックの技術が高いことの1つの証明だと思う。

 蹴るという動作は、実は人によってかなり違う。足の長さ、シューズのサイズ、足のつき方、要は骨格がそれぞれなので、上体の使い方から足の振り方が人によって異なり、従ってボールをどこへ置くべきかも違ってくる。教科書通りのキックをしている人は、ほとんどいない。キックは十人十色で、それぞれが自分の形を追求するほかない種類の技術である。

 ただ、キックの要諦は1つしかない。どんなフォームにせよ、ボールの中心を捉えること。ボールの中心を体で知っている人だけが、正確なキックができる。例えば、右利きなら軸足の左足を動かさずに固定したままでボールを蹴ってみる。右足のスイングだけで蹴らなければならないので、中心を捉えない限りまともにボールは飛んでくれない。上体を使ってパワーを得るのはもちろんだが、中心に当たらないと20m飛ばすのも難しいだろう。もし、ベルカンプがこれをやったとしたら、ペナルティエリアの外から蹴ってもポストやバーに命中させるのはたやすいと思う。ボールの中心を捉えるキックが体に入っているからだ。中心がわかれば、中心を外すこともできる。ベルカンプはボールに適度な回転をかけるのも巧ければ、下を蹴ってチップさせるのも自在だ。キックに多様性があるのも、中心を捉える能力が高いからだ。

 蹴る技術の高さはクライフ、ファン・バステン、ベルカンプの共通点だが、パワーがないという弱点も共通している。3人とも弾丸のようなシュートがない。ファン・バステンに至っては、あんなに体が大きいのにシュートはたいがいボテボテのゴロ。ただし、ファン・バステンは一番点を取っているし、3人とも正確なシュートで得点を重ねていた。3人にとってシュートとは力任せにねじ込むものではなく、コースを狙って入れるものだったのだろう。

 ボールを止める技術に関して、異次元だったのがベルカンプだ。特に浮き球のコントロールは信じがたいほど。1998年フランスW杯のベストゴールだった準々決勝アルゼンチン戦の得点が有名だが、あの手のコントロールからの得点はよく決めていた。

 走りながら、40~50mの距離を飛んできたボールを思ったところに止められる。地面にも、空中でも。相手がすぐ近くにいても、空中で止めたボールがベルカンプの体から離れないので対処のしようがない。ボールが止まるだけでなく、相手も止めてしまう。相手を止めているので次のタッチで先手が取れた。対峙する相手は、「だいたいこのへんに止めるだろう」と予測する。ところが、ベルカンプは予想もしない場所へ止める、浮かす。相手が予想できる技術レベルを超えているから反応ができない。サッカーは意外性のスポーツとよく言われるが、意外過ぎて相手が驚いて何もできないこともあるわけだ。

アーセナル公式チャンネルが公開したプレミアリーグでのベルカンプのトップ5ゴール

ポジショナルプレーの“枠”に収まらない圧倒的質的優位

 ベルカンプとほぼ同じ時代には、ボールタッチの天才が何人かいた。ロベルト・バッジョとミカエル・ラウドルップがそうだった。

 彼らはポジショニングも巧かったけれども、それよりも圧倒的な技術力で質的に優位に立ち、それゆえに数的優位も位置的優位もさして必要としていない。彼らにスペースは2mあれば十分、場合によっては胸の前の数cm四方でも「そこがフリー」な状態と言える。彼らのような選手こそ、ポジショナルプレーを最大限に活用することができ、さらにその概念を進化させられる。現役選手なら、リオネル・メッシのフリーの定義は他の選手とは違っている。他の選手ならパスできない、パスしてはいけない状況でも、メッシにはボールを渡すべき状況が確実にある。

 ベルカンプ、バッジョ、ラウドルップは彼らの時代で図抜けた技術の持ち主だったが、それに見合った成功を得られていない気もする。それぞれ素晴らしい活躍をしていて、バッジョはバロンドールも受賞しているし、3人とも大きなタイトルも獲っている。レジェンドであるのは間違いない。しかし、あれほどの技術があるのなら、もっと大きな業績を残せたようにも思えるのだ。クライフがバルセロナの監督だった時、ラウドルップの能力を絶賛しながら歯がゆさも隠さなかった。

 3人の天才が突き抜けられなかった理由はよくわからない。運なのか、めぐり合わせか、メンタルの問題なのか。ただ、最高峰に立つ資格と能力はあったと思う。

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 まるで時を止めたのかと錯覚するほど静かに、ピタリとボールを足下に収めることもあれば、チェックに来たDFが触れられない位置へとボールを誘い、マタドールのようにヒラリとかわし去ってみせることも。極上のファーストタッチから後世に語り継がれる名シーンを“創造”してきたデニス・ベルカンプが、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場する。

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Photos: Getty Images

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デニス・ベルカンプ戦術

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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