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トレーニングの革命になり得る?「制約主導型のアプローチ」とは

2019.04.15

TACTICAL FRONTIER


サッカー戦術の最前線は近年急激なスピードで進化している。インターネットの発達で国境を越えた情報にアクセスできるようになり、指導者のキャリア形成や目指すサッカースタイルに明らかな変化が生まれた。国籍・プロアマ問わず最先端の理論が共有されるボーダーレス化の先に待つのは、どんな未来なのか? すでに世界各国で起こり始めている“戦術革命”にフォーカスし、複雑化した現代サッカーの新しい楽しみ方を提案したい。


 戦術的ピリオダイゼーションを筆頭に、トレーニングの方法論は「アカデミックな視点」を融合することで飛躍的な進化を遂げた。ピッチ上の事象を再現することを目指し、トレーニングはゲームに近づいていく。結果として、スカウティングへの影響も見逃せない。ユルゲン・クロップが、試合前にマンチェスター・シティのトレーニングを熱心に観察していたように、試合前のトレーニングからは様々なチームの特徴をつかむことが可能である。マルセロ・ビエルサは「同じカテゴリーに所属する、全チームのトレーニングを把握しようと試みている」と述べ、その重要性を再認識させた。今回は、多くの先進的な指導者を惹きつけている新たなアプローチに迫ってみよう。

ビエルサ監督は今年1月、敵チームのトレーニングの「スパイ疑惑」(と反論・釈明ではなく「分析プレゼン」の会見)で話題になった。逆に言えば、現代の高度化したトレーニングは監督がやりたいサッカーをかなりの部分で表現していると言える

ゲーム中心主義からの脱却

 1986年に、制約主導型のアプローチ(Constraints-Led Approach)を発案したのは、イリノイ大学のカール・M・ニューウェルだと考えられている。生理学・生体力学・運動機構学を含むキネシオロジーの研究者として知られる彼は、知覚・運動学習において「スキルの習得」における「制約の重要性」を主張した。

 ニューウェルは個人・環境・タスクにおける制約が知覚運動学習における変化に繋がり、個々の意思決定を導くという論理を展開した。フットボールというスポーツだけでなく、この研究は広範囲で活用されており、例えばバスケットボール・ヨット・ボクシング・ラグビーなどのスポーツにおいても、多くの学術研究が存在している。日本でも多くの指導者が「様々なルール」という制約を定めることで「選手のプレー基準に変化を与える」アプローチを練習に活用しており、例えば「タッチ数の制限」も基本的な「制約主導型のアプローチ」だ。イビチャ・オシムは思考のスピードを鍛えることを目的に、多色のビブスを使ったトレーニングを好んだ。一見すれば「基本」とされるようなトレーニングに注目が集まっているのはなぜなのだろうか?

 フットボールというスポーツ特有の理論として発展した戦術的ピリオダイゼーションの根底には、「反復トレーニングの否定」が存在する。彼らはゲームにおける有機性と複雑性を重要な要素だと捉え、「サッカーは、サッカーをすることで上達する」という命題を掲げている。

 一方で、この戦術的ピリオダイゼーションを基礎とした近代の理論を信奉することは「紅白戦」のような試合形式のトレーニングに過度に集中してしまうリスクを内包している。それは時に「ゲーム中心主義(Game-Centered Approach)と呼ばれるが、UEFA-Aライセンスを所有する「制約主導型のアプローチ」の提唱者マーク・オサリバンは「ゲーム中心主義は、過度に受動的なアプローチである」と否定的な見解を示す。多くの指導者が理論的な枠組みを学ぶことなく、ゲーム中心主義へと傾倒するリスクは深刻だ。

 ゲーム形式のトレーニングは様々な要素を内包し、エコロジカル(生体力学的)な関係性を発展させることに繋がる。この「エコロジカル・ダイナミックス」というのも現代トレーニング論における1つのキーワードだが、「個人と環境の相互作用によって生じる、知覚・認識・意思決定のプロセスと行動」と定義されている。言い換えれば、選手はゲームという環境に放り込まれることで知覚・認識・意思決定を求められていく。彼らは複数のプレーヤーが共存し、競い合う環境に置かれることで「自然発生的な関係性」を発展させることになる。自然発生的なチームメイトとの連係、ゲームという環境に合わせた自主的な工夫などは、大人に指導されることによって生じるわけではない。柔軟なアイディアを武器にする選手が、指導者が存在しないストリートフットボールから輩出されることは「ゲーム自体が持つ価値」を象徴している。一方、ストリートフットボールの本質的な価値は「自然発生的にプレーヤーが作り上げるルールである」という言論も存在する。限られたスペースでのプレーや簡易的なゴールは「制約」となり、チームメイトも次々と入れ替わる。さらに、自分たちが制約的なルールを作ることもある。

イングランド3部ブラッドフォードのホームスタジアム近くで試合前、ストリートサッカーに興じるファン

 こういった目線から解釈すると、制約的なアプローチは「環境の最適化」に繋がる。環境を最適化することで、個人へのフィードバックを最適化させるのだ。デイビスを中心とした研究グループの論文を引用すれば、「必要なスキルだけをトレーニングすることは、認知と行動を切り離してしまうリスクに繋がる。だからこそ、試合の複雑性を『単純化』することで選手の認知を助けながら、トレーニングのターゲットを明確にする」ことが求められる。ゲームにおける有機的な要素を残しつつ、選手に足りていないスキルを磨いていくことが、指導者の理想だろう。

環境のコントロールで状況判断を鍛える

 選手の育成において、環境は重要極まりない。環境の言語化は1つの重要な鍵だが、制約主導型のアプローチの重要性を読み解くためには「アフォーダンス」という単語が使われる。アメリカの知覚心理学者ジェームズ・J・ギブソンによる造語だが、環境が生物に対して与える「意味」のことである。

 シンガポールの教育学者J.Y.チョウは「12歳の少年にとって、小さなサイズのバスケットボールは3ポイントシュートの機会を与える。大人用のボールでは、その機会を与えることは不可能だ」と「アフォーダンス」を表現しているが、特に育成年代において「制約を定める」ことで環境をコントロールし、選手が特定の情報を「制限された環境」から得ることは重要だ。制限された環境において、選手は指示されるのではなく「自主的に状況判断をする」必要に迫られる。状況判断は「環境を認知する能力」に依存するが、育成年代の選手に自主的な判断をさせたいと考えた時、通常のゲームでは複雑過ぎる場合が多い。だからこそ、「選手に意味を与えられる環境を整えること」が求められてくるのである。

相互作用を可視化する目的で、三角形の図示が使われることが多い。タスクが環境を決定し、選手は環境との相互作用を通して向上し、同時にタスクに応じたプレーを求められる

 例えばフルアムでの指導経験があるデイビッド・ライト氏が作成したユース年代向けの練習メニューでは、「ボールを保有するチームの自陣で両チームがプレーする=守備側は敵陣でのプレッシングが義務づけられる」ので、背後にスペースが生じやすくなる。ボールを奪っても、必ず自陣からのビルドアップがルールとなっているので、選手は相手の守備が整った状態からパスを繋がなければならない。さらにハーフウェイラインをドリブルで越えることは許されていないので、コンビネーションで相手のプレッシングを突破する必要がある。

 このような制約を課すことで、選手たちはフリーランやワンツーを使う技術を習得していく。アイルランドサッカー協会は育成年代のサッカーで「相手が自陣からビルドアップする際に、必ず特定のラインまで選手が戻らなければならない」という「リトリート・ライン」と呼ばれるルールを定めることで、前からのプレッシングを制限。これは逆にプレッシャーを弱める「守備側の制約」によって、丁寧に数的優位を生かすビルドアップを奨励している。2017年にトーマス・マクガッキアンが発表した研究によれば、狭いピッチでのプレーは「スペースの制限」によって「首を振って、スペースを探す動作」の回数を増加させることがわかった。つまり、ピッチを狭くすることで「ボールタッチの技術だけでなく、状況把握の能力を向上させる」ことが可能となる。

 「制約主導型のアプローチ」を指導の現場に持ち込む時、重要視されているのが「教育学・認知科学への理解に基づいたスキル習得の理解」だ。指導者は、的確な制約を課すことによって選手を成長させることになるが、効果の最大化は非常に難しい。例えば同じようにピッチを狭くするトレーニングでも、「特定のスキルを向上させる」という目的に合わせた様々なバリエーションを使い分けなければならない。指導者はチームの特性や状態に応じ、選手が「どのようなスキルを向上させなければならないか」を理解する必要もある。

 育成において着目を浴びるフットサルも、人数やピッチ・時間やルールの制限が存在する「制約主導型のアプローチの一種」という興味深い主張も存在する。オーストラリアのように協会主導での導入を進める国も存在するように、制約主導型のアプローチは今後さらに注目のトレーニング哲学である。

Photos: Getty Images

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。