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「選手を殺す気か」-20℃での 試合強行に「春秋制」議論再燃

2019.02.18

 真冬には過去に気温-52℃を記録したこともあるシベリア南部の都市クラスノヤルスク。昨年12月1日にこの街で行われた国内リーグ第16節エニセイ対アフマトの「極寒の一戦」が物議を醸した。

 リーグの規定では気温が-15℃を下回った際に試合の中止を要請できるが、試合前に計測器が示した数字は-14.6℃。運営側は開催を決定したものの、その後ピッチ上は-20℃まで下がり、選手たちは頭をバンドやキャップで覆いながら、氷霧の中で「木のように硬くなった」ボールを蹴り合う過酷な環境となった。

 シベリアよりはまだ温暖なカフカス地方からやって来たアフマトのラシド・ラヒモフ監督は計測にも立ち会い、「選手を殺す気か」と猛抗議すると、記者会見でも「このような寒さの中で激しく呼吸をすれば肺にダメージを与えてしまう。プレーさせるべきではなかった」と怒り心頭。暖房の入ったロッカールームとの温度差は40℃以上になり、選手たちは気絶しないようにアンモニアの臭いを嗅がされた。アフマトのDFアンドレイ・セミョノフは「人生初の経験。同僚の外国人選手が心配だった。こんな試合はロシアサッカーの醜態だ」と訴えた。

 地元エニセイのドミトリ・アレニチェフ監督は「“涼しかった”ようには思う。私は慣れているからね」と反論したが、「ベンチで毛布に包まっていたくせに」と総突っ込みを受けた。

現状、回帰の可能性は…

 この試合によって議論が再燃しているのが、2010年に移行を決めた秋春制シーズンの是非だ。当時は国内各地に全天候型のスタジアムを増やす予定だったが、W杯開催を経てもそれを実現しているのはサンクトペテルブルクのみ。それどころか、特に地方は1部リーグの基準を満たしていないスタジアムが多い。今季クラブ史上初の1部昇格を果たしたエニセイに関しても、本拠セントラル・スタジアムの改修を命じられたため当初はホーム戦を1600kmほど離れたチュメニで開催していた。また、彼らは2部時代には3000人収容の屋内競技場エニセイ・アレナも使用していたのだが、こちらも運営側からの許可が下りず、今回の強行開催へと繋がってしまった。厳しい気候と慢性的な財政難問題を抱えるシベリアや極東の多くのクラブはスタジアムの新調が難しく、トップリーグ参戦のハードルが他の地域よりもさらに高くなっている。

 ヨーロッパのカレンダーに合わせたことによるメリットは多く、春と秋の気候問題は結局完全には回避できないため、以前の春秋制へと戻る可能性は低い。リーグの倫理委員を務める解説者のアンドレイ・ソジンは「12月のシベリアの寒さは簡単に想像できる。この日程を決めた者には地理の教科書を贈ってやろう」と皮肉り、現状の制度のままでも寒冷期は「比較的暖かい南西部のクラブのホーム開催を増やせば解決できる」と提案している。

Photo: Getty Images

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クラスノヤルスクロシア

Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。