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ユナイテッドサポには「公式化」が必要だった。会長・内藤秀明氏が語る背景

2019.02.01

▼目次
・はじめに
・いつから公式化を考えていたのか
・そもそも公式化はどうやったら可能なのか
・公式化にあたって難しかったこと
・公式の承認はどうやって連絡が来るのか
・来た時の感情
・周囲の反応
・これからの計画とプレミアパブ

 フットボリスタの読者のみなさまはじめまして、マンチェスター・ユナイテッド・サポーターズクラブジャパン会長の内藤秀明と申します。この名前に聞き覚えがある方、ありがとうございます。実は、過去に何度かフットボリスタでも記事を執筆させていただいております。

 直近で大きなものでいうと、スパーズ・ジャパンさんのインタビューでしょうか。こう言ってなんですが、スパーズ・ジャパンさんが面白い方なので、この記事はプレミア界隈では話題になったことを覚えています(笑)。

はじめに

 少し自己紹介をさせていただきます。僕は高校1年生の時、2006年のドイツワールドカップがきっかけでクリスティアーノ・ロナウドが好きになり、ユナイテッドを応援するようになりました。

 その後はプレミアの魅力にズブズブとはまり、大学を休学してイングランドに1年間留学。現地で92試合をスタジアム観戦をしたほか、コーチングライセンスを取得するなど、サッカーの勉強をしていました。留学中はご縁に恵まれ、大学生ながらいくつかのメディアでコラムを執筆させていただくようになりました。

 その後、大学を卒業した後はリクルートホールディングスに就職し、副業でサッカーの仕事を続けていました。ただ、やっぱりサッカーの仕事が好きでしょうがなく、2018年6月に会社を「卒業」して独立した次第です。

 今は「プレミアパブ」という、プレミアリーグ好きに向けたファンサイトを立ち上げて運営しています。コラムの配信だけでなく、解説者やタレントをお呼びしてのトークイベントや、プレミアのチーム対抗フットサル大会などの企画を行ないつつ、フリーのライターとして複数のメディアで記事を書いています。

そもそも、サポーターズクラブとは?

 日本在住のプレミアリーグサポーターは、日常でファン同士が遭遇する機会が非常に少ないです。多くて職場や学校に2、3人、下手すればゼロなんてことも。だからこそ観戦会を開くことで、日常では話せないコアな話題で盛り上がれるのです。

 サポーター同士の交流を補助する役割を担っているのが、サポーターズクラブです。観戦会を中心とした交流の場を作ることがメインに見えがちですが、他にもいくつかの役割があります。

 例えば、サポーターズクラブの中には「チケットの優先購入権」を持っている団体もあります。サポーターズクラブ経由で、ビッグマッチのチケットの購入が可能になることも。クラブや選手が来日する際には、集客面などでサポートすることもあります。クラブ公式サイトの日本語版がないからこそ、SNSでの情報発信を充実させているサポーターズクラブもあります。

 何をどこまでやるかはクラブのルール、サポーターズクラブ代表の方針、人員の充実度などにもよりますが、原則これらはボランティアで行なわれています。ユナイテッドはできたてなので、これから整備していくところです。

「パク・チソン事件」きっかけに、公式化を考える

 次に、日本におけるユナイテッドサポーターが置かれた、ここ数年の状況を説明します。

 2013年、アレックス・ファーガソン監督の退任とともに暗黒期を迎えました。それとは別に運営上の理由もあり、以前まで公式サポーターズクラブとして活動していた「MUFC TOKYO」が開店休業状態になっていきました。

 お互いに出会うことが少ないプレミアファンたちは、サポーターズクラブがワークしなくなると、出会う機会を失います。僕は大学が滋賀だったのですが、地方ゆえ周りにプレミアファンが少なく、好きなことをめいっぱい話せないモヤモヤを感じていました。

 社会人になって東京に来て、たくさんのプレミアサポに出会い、ファン同士で語る喜びを知ることになります。が、満たされたからこそ、過去に自分が孤独感を抱いていたことに気づかされました。だからこそファンの孤独感を少しでも解消できたらと思い、2017年1月にプレミアサポーター向け観戦会をするようになりました。これが「プレミアパブ」の始まりです。

 この後にユナイテッドのサポーターズクラブの状況を知り、2017年6月には非公式のサポーターズクラブを作りました。すでに東京にあった小さなコミュニティと合流しながら、定期的に観戦会を開くようになりました。

 正直、最初は「非公式でいいかな」と思っていました。最初こそ人数集めに苦しみましたが、徐々に集まるようになってきましたし、情報発信も観戦会も非公式でもそれなりにやれました。

 公式化を意識したのは、ユナイテッドのレジェンドであるパク・チソン氏の来日がきっかけです。

 2018年5月、ユナイテッドのグローバルパートナーを務める関西ペイントさまのイベントで、スペシャルゲストとしてパク・チソン氏が登場しました。しかし、僕がそのニュースを知ったのは、イベントが終わった後だったのです。

 非公式とはいえサポーターズクラブの会長をしているわけですし、ライターの仕事もしています。プレミア界隈、特にユナイテッドに関してはアンテナをそれなりに張っていました。完璧ではないものの、情報が入ってくる側の人間のはずなのに、その情報を一切知らなかったのです。

 「サポーターズクラブは、サポーターを盛り上げる使命がある」と思っていたので、けっこう絶望しました。絶望した僕は血迷って、関西ペイントさまの一般お問い合わせフォームから「担当者さんに会わせてください。次回から、こういうイベントがあれば協力させてください」なんてダメ元で連絡してみました。いちおう、大企業に勤めていたので、効果的ではないことはわかっています。それでも、そうせずにはいられなかったのです。

 このタイミングで、初めて公式化を意識しました。

ユナイテッド時代のパク・チソン。通算7シーズン所属し公式戦200試合以上に出場、07-08のCLや4土のプレミア制覇など計13のタイトルを手にした(Photo: Getty Images)

公式化に必要なこと

 サポーターズクラブが公式化・公認化される条件は、クラブによってまちまち。ある程度情報発信をしていればクラブ側からオファーがくるスウォンジーのような例もあれば、一般問い合わせフォームから連絡して公認化したクリスタルパレスのようなケースもあります。

 ただビッグクラブの場合だと制約条件が多く、活動実績があることに加え、クラブが発行している有料メンバーシップに加入している会員を、既定の人数集める必要があります。

 この会員集めが、意外と難しい。プレミアの有料メンバーシップは、クラブによってまちまちですが年間40ポンド(約5,600円)程度します。加入すればボールペンやマフラーなどのグッズが届きますが、メンバーシップ料金に見合う価値はありません。

 料金の半額程度は、「スタジアム観戦チケットの優先販売権」にあてられているような気がします。実際、クラブによっては優先販売権だけを約半額で販売しているクラブもあります。ですが、日本に住んでいる我われからすると、その権利はほぼ使えないものです。

 そういう意味で、メンバーシップ加入は「遠い日本からでもクラブに貢献したい」というお布施的な側面があります。メンバーシップにまで入るファンは非常に少なく、リターンが少ないので強く推すことはできない、というのが実情です。

 今回は、地道に活動していたこと、ユナイテッドサポーターのみなさんが応援してくれたこともあり、なんとか既定の人数が集まりました。ご縁にも恵まれ、クラブ側とも比較的スムーズに繋がることができました。

 結果、2018年12月12日にクラブから公認化申請が通ったという連絡が来ました。

公認化が決まった時は、どんな気持ちだったか?

 実感が湧いていないというか、クラブの調子が悪過ぎてそれどころじゃなかったというか(笑)。その後監督がオーレ・グンナ・スールシャールに代わり、全勝街道を突き進み始めたタイミングで、クラブ側から公式化を証明する「監督直筆サイン入りのレター」が届きました。

 公認化されたタイミングでの監督はジョゼ・モウリーニョだったので、「サインはモウリーニョ? スールシャール?」だなんて思っていたら、スールシャール監督のものでした。

 「12月12日の段階で、モウリーニョ解任は決まっていた?」とうがった見方もできますが、単純にドタバタしていただけな気もします。イングランドはホラ、スケジュールに対しておおらかですから(笑)。

 個人的には、そのおおらかさに初めて感謝した瞬間でした。モウリーニョ監督へのリスペクトはありつつも、勢いのある監督の方が応援したくなりますし、そもそもクラブのレジェンドですからね……。

 そうこうしているうちに、クラブの公式Twitterでも発表され、ようやく公式になった実感が湧きました。

 僕個人の話になるんですが、2012年、そう香川真司がユナイテッドに加入したタイミングでライターを始めたので、香川の記事ばかり書いていた時期がありました(超余談ですけど、この記事の担当編集・澤山さんは当時、香川記事の担当編集でもありました。ご縁って不思議ですよね)。

 その香川記事を書くこと自体は楽しくさせていただいたんですけど、そのせいで一部のユナイテッドサポーターに嫌われてしまって…。「ユナイテッドは香川だけじゃないんだぞ」「内藤とかいうやつはクソだ」なんて。

 ユナイテッドが好きという気持ちと、メディアだからこそ公平性を保つ必要性があるという使命感のバランスが当時は難しく、悩んでいました。その上、味方と思っていて背中を預けていた仲間に刺されてしまい、当時はけっこう落ち込みました。

 そういう背景もあり、どこかユナイテッドサポ―ターの一員になれている自信がなく。コンプレックスを抱えているところがありました。クラブに認めてもらえたのは、素直にうれしかったです。周りのユナイテッドサポーターが喜んでくれたのも、そういう背景もあってすごくうれしかったですね。

これからの計画とプレミアパブ

 これからも、変わらず東京で観戦会を続けつつ、全国に観戦会を定着させていくのが使命かなと思っています。

 根源にあるのは、滋賀時代の孤独感ですから。東京でやれるのは、人口が多いので当然。難しいのは全国津々浦々、持続性のある形で定着させることだと思っています。

 とりあえず大阪、宮城では近いうちにきちんと行います。また選手やOB、あるいはチームの来日情報をいち早くキャッチし、クラブと協働していきながら日本のユナイテッドコミュニティを盛り上げていけたらと思っています。

 できたてのコミュニティなので、足りない部分や失敗もあると思います。ユナイテッドサポーターのみなさんが少しでも楽しいプレミアライフを送れるよう、尽力していければと思っています。引き続き、温かい目で見守っていただけますと幸いです。

 最後に誤解を避けたいので申し上げますと、僕はマンチェスター・ユナイテッド・サポーターズクラブジャパンの会長であるのと同時に、プレミアパブの代表でもあります。「プレミアライフをより楽しんでほしい」という思いは、プレミアサポーター全体に向かっています。

 応援しているチームを明かすことで、リバプールやシティのサポーターに嫌われてしまうかもしれません。それでも、プレミアパブの文脈ではできるだけフラットになるよう努めます。引き続きよろしくお願いいたします。


Edition: Daisuke Sawayama

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プレミアリーグマンチェスター・ユナイテッド

Profile

内藤 秀明

1990年生まれ。大阪府箕面市出身。大学時代に1年間イギリスに留学し、FAコーチングライセンスを取得。現在はプレミアリーグを語るコミュニティ「プレミアパブ」代表としてイベントの企画運営や司会をしつつ、マンチェスターユナイテッド・サポーターズクラブジャパン会長としても活動。2019年1月に初の著書『ようこそ!プレミアパブ』上梓。Twitterアカウント:@nikutohide ウェブサイト:https://premierleaguepub.jp/