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2018-19 WOWOWリーガール鈴木美羽の先生、わかりません!

2018.10.19

今回の講義:女子高生でもわかる10.28クラシコの戦術的見どころ_前編


2018–19 WOWOWリーガールに選ばれた現役女子高生の鈴木美羽さん。現在、日々リーガについて勉強中で「チームの戦い方や特徴がわかったら、もっと試合を楽しめると思う」と意気込む彼女に、『footballista』執筆陣が奥深いリーガの魅力を“本気で”レクチャー。

今回は、現地10月28日(日)に開催されWOWOWで生中継される伝統の一戦クラシコの戦術的見どころを、戦術分析と言えばこの人、西部謙司先生に講義してもらった前編。

今回の講師
西部謙司先生
(サッカージャーナリスト)


西部
「では、さっそく講義を始めます。両チームの試合を見た印象はどうでしたか?」


鈴木
「バルセロナは(ボールを)取られてもあまり焦らなくて安定していて、レアル・マドリードは遠くへパスしても外れない、パスが巧いっていうのが私のイメージなんですけど……何点ですか?」


西部
「何点!? 点をつける必要はないですよ(笑)。バルサを見て『安定している』っていうのはそうだと思います。あまり試合が動かない、静かな展開になりがちです。レアル・マドリードはもう少し“オラオラ感”が強いというか(笑)」


鈴木
「バルセロナってもっと攻撃的なのかと思っていたんですけど、意外とそうじゃないんだなってビックリ、少しヤキモキしちゃいました」


西部
「ただこの両チーム、実はすごく似ています」


鈴木
「え、そうなんですか!?」


西部
「はい。今の選手の並べ方は[4-3-3]だし、スター軍団なところも同じです。両者ともに世界のトップで“見た目”に差がありません。強さもどっこいどっこいですしプレースタイルも、巧い選手が多くて攻める時間が長くなるのも一緒です」


鈴木
「じゃあ、その攻めるチーム同士が戦ったらどうなっちゃうんですか?」


西部
「それが、クラシコの面白いところです。ただ、似ている中にも違いはあります。バルセロナの方が、チームとしてどう戦うかが全体的に決まっています。レアル・マドリードにも決まりはありますが若干緩くて、選手それぞれが力を出しやすいようにプレーして、それがチームのためになる、という考えです。音楽でたとえると、しっかりとした譜面があるのがバルセロナで、楽譜はあるけど無視してもいいのがレアル・マドリードという感じです」


鈴木
「レアルはバンドみたいなカンジなんですね」


西部
「そうです、いきなりソロパートが入ったり。大まかな特徴をつかんでもらったところで、次に、両チームの今の状態、戦い方の説明に入ります」


鈴木
「お願いします!」


西部
「バルセロナからいきましょう。メッシ、いますよね。注目してほしいのは彼のポジションです。以前はCFや2トップの時もありましたが、今は右ウイングです。チームとしてはメッシにここ、相手ゴール前のCBとSBの間で“ハーフスペース”と呼ばれるんですけど、ここでボールを持たせたいんです」


鈴木
「へぇー、それはどうしてですか?」


西部
「彼は左利きなので、ここでボールを持ったらドリブルしてシュートに持ち込んだり、あるいはラストパスを送ったり好きなプレーが選択できるからです。サイドに近過ぎるとゴールから遠くなっちゃうし、真ん中過ぎると敵がたくさんいるので、このハーフスペースがちょうどいいんです」

イニエスタが去り、今季から主将を務めるメッシ


鈴木
「去年のここ(2トップの一角)よりも今の方がいいんですか?」


西部
「去年は2トップだったので、ハーフスペースに最初からいました。今年は、スタートはウイングなので流れの中でここに移動してきます。その時、タイミング良くパスを出せればいいプレーをしてくれるっていうのはわかっているんです。ただバルセロナの場合、ハーフスペースに入ったメッシにどうやってボールを出すか、そのやり方をシーズンごとに変えています」

[4-3-3]の右ウイングの場合、メッシはチームがボールをポゼッションする間に中央に入りハーフスペースへと移動する。[4-4-2]の場合は最初から相手ゴール前のハーフスペースに位置することができる


鈴木
「どうして変える必要があるんですか?」


西部
「メッシはすごいので、みんなが頼っちゃうんです。そうなると相手のマークは厳しくなります。あとは、後ほど詳しく説明しますが、メッシにハーフスペースでボールを持たせるためには、周りの選手がかなり頑張らないといけないんです」


鈴木
「持たせるために頑張る……」


西部
「演技でたとえると、主演女優がいて、周りの人は主演を食っちゃいけませんよね。主役がうまくやれるように、助演の人がいるわけです」


鈴木
「立たせないといけない、ってことですね」


西部
「そうです。ただそうすると、助演の人は主演にはなれないわけですけど、先ほどお話ししたようにバルサには主演級のスター選手たちがそろっているわけです。なので、ずーっと(助演を)続けていると疲れちゃうんですね」


鈴木
「なるほど、そうなんですね」


西部
「じゃあここからは、メッシにハーフスペースでボールを持たせるための具体的な動き方、メカニズムを説明します」

バルセロナが“楽な”2トップをやめたワケ


西部
「先ほどもお話ししたように、メッシは右ウイングからスタート。チームが攻めている間に中央寄りのハーフスペースに移動して、そのタイミングでボールを渡したい。その時、バルセロナの場合は両サイドの高い位置に選手を置きたいんです。幅を使って攻めるためです。なぜか。あんまり狭くしてしまうと……」


鈴木
「(DFが)集まってきちゃうからですか?」


西部
「その通りです。両サイドに選手がいれば、相手はDFを置かないといけませんからDFとDFの間隔は広くなってそれだけメッシは楽にプレーできます。じゃあ、メッシが中央に入った時、誰がサイドの高い位置に入るのかというと、SBの選手が上がります」


鈴木
「あれ、でもそれだとここ(もともとSBがいたところ)は選手がいなくなっちゃいませんか?」


西部
「そうです。そこで、ここの選手(近いサイドのインサイドMF)が少し下がり気味になって空いたスペースをケアします。この時に何が起こるかというと、SBの選手はメッシが中に入るたびに上がって、ボールを取られたら戻らないといけません。けっこう疲れます。さらに、近いサイドのインサイドMFはあまり攻め上がることができません」

単純にウイングが中央に絞るだけだと、相手のSBが中に絞って対応できる。SBが上がり相手SBとマッチアップする形を作ることで、絞ったウイングがプレーするスペースを確保することができる。同時に、近いサイドのインサイドMFはSBが攻め上がったスペースをケアする


鈴木
「前にメッシ選手がいるからですか?」


西部
「それもありますし、もう一つは先ほどお話したSBの攻め上がった後のスペースをケアしないといけないから。なので、本来は攻撃力のある選手でもあまり攻撃に絡むことができないんです」


鈴木
「もったいない……」


西部
「そうなんです。実際にバルセロナがボールを取られた時に何が起こるかというと、SBの選手は頑張って戻ります。その間、ここの選手(同サイドのインサイドMFはパスを繋がれないように頑張りますし、他の選手も戻ります。じゃあメッシはっていうと、彼は下がりません」


鈴木
「そんなぁ……『あーあ、ボール取られちゃった』ってカンジなんですか? それでいいんですか?」


西部
「わりとそういった感じなんですが(笑)、バルセロナの場合はチームとしてそれを認めています。なぜかというと、もう一度ボールを取り返した時に、(メッシに)前にいてもらった方が良いからです。逆にあんまりメッシを下がらせてしまって、いざボールを奪った時に後ろの方にいたら……」


鈴木
「攻められなくなっちゃうんですね」


西部
「そういうことです。あとは、ルイス・スアレスもCFなのであまり戻りません。そうすると、人数が足りなくなってしまうことがあります」


鈴木
「守る人数っていうことですか?」


西部
「そうです。少し脱線しますが、4バックのメリットについて少しお話します。別にルールで決まっているわけではないので、5人にしても6人でもいいんですが、フィールドの横幅をカバーするのにちょうどいいのが4人なんです。だから4バックが多くなっています」


鈴木
「そうなんですね」


西部
「同じように、真ん中のラインも4人いた方が楽です。ただ、今のバルセロナは2トップで、メッシとL.スアレスの2人は残すことが決まっています。そうなると、この左ウイングの選手が戻らないといけないことになりますよね?」


鈴木
「そうですね」


西部
「一昨シーズンまで、ここのポジションはネイマールでした。彼は前に残りたい、特別扱いしてほしい選手なんです。けど、メッシとL.スアレスが残るので全速力で戻らないといけませんでした」


鈴木
「大変だぁ」


西部
「それが嫌で移籍した……というわけではないと思いますが、ただ得点に絡むとなった時、前に残ることができないので難しい部分があったと思います。まとめると、メッシにいいプレーをさせようと思うと、まずSBが疲れます。近い側のインサイドMF、例えばラキティッチは攻撃であまり良さが出せません。左ウイングも疲れちゃう。それでだんだん、チーム全体が疲れてきちゃうんです。これがあるので、バルセロナは毎年、チームとしての戦い方をちょっとずつ変えているんです。メッシにここ、右ハーフスペースでプレーさせるのは一緒なんですけどね」


鈴木
「ポジションとかフォーメーションを変えるってことですか?」


西部
「そうです。昨シーズンで言えば、メッシとL.スアレスを最初から前に残してしまって、DFラインとMFのラインに最初から4人ずつを並べていました」


鈴木
「へぇー! (前の2人は)ここにいてもいいよ、後ろの選手が頑張るよってことですね」


西部
「そういうことです。ボールを取ったら、メッシは自然と一番いいポジションに入れるし、先ほどお話したピッチの幅はここの両サイドMFの選手が取ればいい。この考え方が一番、普通なんです。昨シーズンはこれでやりました。一番楽で、どこかに負担がかかるということもありません」

西部先生の説明に、熱心に聞き入る鈴木さん


鈴木
「一番ラクで、みんなが疲れないんですよね。それなのになんで(3トップに)戻しちゃったんですか?」


西部
「バルセロナには自分たちのやり方、スタイルがあるってお話を先ほどしました。その中に、この2トップというのはないんです。なので基本的に、このやり方はしません。ユース、中学生や高校生年代のチームでも2トップというのはまず使っていないんです。だから、(2トップの場合)どの選手も無理なくプレーできるんですけど、本来のバルセロナのサッカーに合わないので3トップに戻すんです」


鈴木
「何が合わないんですか?」


西部
「そう思うよね(笑)」


鈴木
「だって、体力的には一番いいんですよね?」


西部
「これを話し出すとさらに詳しくなっちゃうんだけど大丈夫かな(苦笑)。バルセロナが3トップにこだわる理由の一つを説明しますね」


鈴木
「お願いします!」


西部
「両サイドの高い位置に選手がいると、相手のSBはそのサイドの選手をマークする必要があるのでポジションが決まります。この時、中央ではL.スアレスを相手のCB2人が見ていますけど、このCBたちがもしラインを上げてしまったら、L.スアレスはフリーになってしまいます」


鈴木
「攻め放題ですね(笑)」


西部
「もし両サイドに選手がいなければ、CBの2人が上がればL.スアレスをオフサイドにできます。でも、サイドに人がいるとそれができないんです。バルセロナの場合で言うと、SBが上がる代わりに中に入ったメッシが少し下がります。すると、相手DFラインの選手はメッシをマークすることができず、メッシが自由にプレーできるようになります。両サイドの選手は、相手DFラインを足止めする“ピン留め隊”なんです。そのためにいると言ってもいいくらいです」

バルセロナの両ウイングが中央に入り少し下がった時、そのままだと相手DFはラインを上げてL.スアレスをオフサイドにできる。SBが上がることで相手の最終ラインの位置を固定させ、中に絞ったウイングを自由にプレーさせることが可能となる


鈴木
「ピン留め隊(笑)。ここに選手がいることがとっても大事なんですね」


西部
「そういうことです。2トップの場合、最初はサイドの高い位置に人がいないので、DF側はラインを上げれば2トップをオフサイドにできます。サイドMFを上げることになりますけど、時間がかかります。その間にラインを上げられてコンパクトに守られたら、(中央エリアが)狭くなってしまってパスを繋ぐのが難しくなってしまいます」


鈴木
「ここ(両サイド)に人がいると、メッシたちが中で動きやすくなるんですね!」


西部
「なので、バルセロナの試合では相手のDFラインはだいたいペナルティエリアの前あたりになっています。その手前にスペースがあるので、そこを使ってじっくり攻めていくんです。あとは、単純にいいFWが多いので、1人でも多く使いたいというのもあります。他にもいくつかあるんですが、これがバルセロナが基本的に3トップにする理由です。そして、今シーズンのバルセロナはこの“バルセロナらしい”やり方に戻したわけなんですけど、ではこの時にどんな問題が起こるでしょうか?」


● ● ●

後編へ続く

2018-19 WOWOWリーガール鈴木美羽の先生、わかりません!

■番組情報

現地より生中継!伝統の一戦クラシコ バルセロナvsレアル・マドリード

10/28(日)深夜0:00[WOWOWライブ]

<イニエスタ緊急参戦>リーガダイジェスト!クラシコ拡大版

10/22(月)夜8:00 [WOWOWライブ]無料放送

鈴木美羽さんも出演! 生放送!バルサvsレアル直前スペシャル ~今夜決定 ベスト・オブ・クラシコ~

10/26(金)夜7:00[WOWOWライブ] 無料放送 ※詳しくはWOWOWリーガ・エスパニョーラ番組オフィシャルサイトでご確認ください。

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WOWOWバルセロナリーガエスパニョーラレアル・マドリー鈴木美羽

Profile

久保 佑一郎

1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。