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女子高生にクラシコのヤバさを解説したら、まあまあドン引きされた(前編)

2019.02.28

無茶だということはわかっている。僕もそう思う。

思うのだが、取材前日にこのオファーを受けたとき、自分の頭に即座に浮かんだのは「いや待てよ。そもそもこの連載、すでに女子高生に戦術的ピリオダイゼーションやらハーフスペースやら5レーン理論やら教えてるぞ。それに比べれば……」という発想であった。

「割れ窓理論」というものがある。窓が壊れている建物は「あ、この状態でも大丈夫なんだ」という予断を生み、放置されると1枚残らず窓が破壊されるというやつだ。だからこそ、最初の窓が割れた時点で補修する必要がある。

が、よかった、この窓もう2枚割れてた!

ので、遠慮なく「3枚目の窓」を割りに行ったのがこの記事であり、その顛末を端的に記したのがタイトルである。この記事は言うたら「それ以上でも以下でもない」ので、興味ある向きのみスクロールしていただきたい。

ダービーマッチとは何か?を解説します


――僕がどういう者か自己紹介しますと、編集とWEBのコンサルをやっています。スペインリーグの専門家というわけではありません。ただ2008年に『ダービー!!』という書籍を翻訳した経緯があり、ダービーマッチがどういうものか多少の知見があります。今回は、クラシコを語る前にまずダービーマッチについてお話させてください。


鈴木美羽(以下、鈴木)「ダービーマッチ?ってなんですか?」


――そもそも、クラシコは大枠でいうと「ダービーマッチ」のくくりに入ります。レアル・マドリードとバルセロナというクラブ同士の戦いなのですが、これがなぜ世界的な対戦カードとして注目を集めているのか? そこを説明するには、そもそもダービーマッチとは何なのかを説明する必要があるんですね。


鈴木「そうなんですね、だから『マドリード・ダービー』とかいうんですね」


――そういうことです。まずはダービーマッチの日、ヨーロッパの街はどうなるか軽くご覧ください。


鈴木「(資料映像を見ながら)……これ、警察ですか? ロケット弾とか飛んでる。え、これいつの映像ですか??」


――ちょっと古い映像も混ざってますが、基本的に現代です。


鈴木「ええ……クラシコもこんな感じなんですか」


――クラシコはある意味もっとヤバいです。そこは、あとでじっくりと。要は、ダービーマッチはこれだけサポーター同士が、リアルに喧嘩するぐらい感情むき出しでぶつかりあうものだとまず覚えてください。


鈴木「怖いですね……あ、でもファン同士はバスで行かないといけない、とは聞きました。じゃないと、てんやわんやになっちゃうとか」


――そうです。僕、2016年に香川真司選手が所属していた頃のドルトムントに取材に行きまして、ドルトムントとシャルケの「ルール・ダービー」がどれだけヤバいかを聞きました。列車はファンごとに時間帯別で分けられ、決して合流しないようにされ、ドルトムントのホームでは絶対に(シャルケのチームカラーである)青色は身に着けちゃダメだと。

Photo: Bongarts/Getty Images


鈴木「身に着けてたら、どうなるんですか? 『お前は(ドルトムントの)ファンじゃないだろ!』 と言われるとか?


――どころか、下手したら殴られます。お前、シャルケファンやろと。


鈴木「じゃあ、黄色と青を両方身に着けてたら『お前スパイだろ!』ってなりますね」


――どっちもにシバかれますね……。


鈴木「この話を笑って話したらシバかれそうです」


――「女子高生にこんなバイオレントな話を聞かせていいのか」と思いながらしゃべってますので、笑い話にしてください!

クラシコはなぜ「世界最大のダービー」なの?


――ダービーマッチというのは、都市や州など地理的な単位で発生するものが一つ。さっき言った「ルール・ダービー」は、ルール地方のチーム同士の対立です。歴史的にいろいろな要素が加わっていき、両都市の間に格差が生まれたりして、敵愾心が芽生え始め、ダービーマッチに発展するんですね。


鈴木「いろいろな特色があるんですね」


――主な要因が社会階級や格差、それから宗派の違い、民族間の対立、さらにクラブ同士での移籍などのトラブル、ダービーマッチそのものでのトラブル、いろいろな要素が重層的に絡まって「不俱戴天の敵」になるんですね。


鈴木「こういうの、サッカーだけなんですか?」


――サッカーによく見られる光景であることは、間違いないです。野球の巨人・阪神でもここまでは対立しないはずなので。そして、そのダービーマッチの中で、クラシコは世界最大のダービーマッチと目されています。


鈴木「世界最大? それはどういう観点からなんですか?」


――勘が良いですね、どういう観点から言われていると思いますか?


鈴木「サポーターの数が、足したら世界で一番多いとか」


――ほぼ正解です! ただ、他にも理由があります。たとえば両クラブとも、ものすごくリッチ。『Forbes』誌が選ぶ「世界で最も価値があるスポーツクラブ2018」において、全世界のスポーツクラブの中でレアル・マドリードは3位、FCバルセロナは4位に入っています。全世界の、全スポーツクラブの中で両クラブがこの位置にいる。


鈴木「すごい。手汗かいてきました。じゃあ、もし仲良しのAちゃんとBちゃんがいるとして、Aちゃんがバルサのファン、Bちゃんが実はレアルのファンだとして。仮にBちゃんが10年後にそのことを告白したら、2人はもう友達では居られなくなるんですか?」


――熱狂的なファン同士なら、そうかもしれませんね。ちなみに、上記の仮定は成り立ちにくくて、というのは年に2回クラシコで対戦するので絶対にバレます(笑)。

「なんで、試合に豚の頭を持ってくるんですか?」


――今日のために、フットボリスタが運営するオンラインサロン「フットボリスタ・ラボ」でもエピソードを募集しました。結果、バルセロナ在住の人たちからいろいろなエピソードが集まりました。まずは、「クラシコだけシーズンパスを観光客に10万円で貸し出す人たちがいる」。


鈴木「1試合で10万円ですか???」


――そうです。バルセロナのシーズンチケットって意外とそこまで高くなくて、最安値だと2万円台のものもあるんですね。それを、クラシコの日だけ10万円で貸し出す。そこで元手を取って、あとは全試合タダで見に行く(笑)。そういう人は、かなりの数いるようです。


鈴木「それだったら、私も年間シート買います(笑)」


――ただ、実際バルセロナのシーズンチケットはなかなか買えないみたいですね。先ほど話に出したドルトムントでも、シーズンチケットは世襲できるようになっていて、祖父から父、父から息子へみたいな形で相続されてるとか。


鈴木「じゃあ、亡くなる前に『このカードはお前に渡す』とかいうんですね」


――そうそう、一種の財産になってるんですね。続いて、「クラシコのときだけペットボトルのキャップを取らない」。今はテロ対策で持ち込み自体がNGですが、以前はペットボトルのキャップだけを取る運用をしていたんですね。キャップを取れば、放り投げても中身が出て飛距離が伸びない。それを取らないってことは、「当たってもいい」って黙認してるわけです。

Photo: Getty Images


鈴木「恐ろしい。上から投げたら絶対ケガしますよね? 選手がケガしたりってことはあるんですか?」


――シーズンを棒に振るほどの大ケガはともかく、選手にモノが当たることは全然ありますね……。


鈴木「黙認するってヤバいですよね。いじめを見て見ぬふりする先生みたいなことですよね」


――実際、豚の頭を投げられた選手もいますからね。


鈴木「豚の頭??? あの豚ですか? なんで試合に豚の頭を持ってくるんですか?」


――あまりに正しい疑問すぎて、「なんででしょうね?」としか返せません(笑)。それを説明するには、両クラブの歴史的経緯を簡単に説明する必要があります。ざっくりいうと、レアル・マドリードとバルセロナというのはサッカークラブ同士の対立を超えて「スペインの政権 vs 虐げられたカタルーニャ州」という構図があるんです。


鈴木「虐げられるというと、抑圧されたってことですか?」


――そうです。1939年にフランコ政権が成立した後、カタルーニャ語が禁止されたんです。


鈴木「えっ、じゃあ何をしゃべればいいんですか?」


――標準語。カステジャーノと言います。


鈴木「方言禁止、みたいな感じですか」


――日本の事例に置き換えるなら、それに近いです。ただ、実際はそれよりもはるかに強い抑圧でしょう。僕は広島出身ですが、広島弁を禁止されると考えたら「不便」以上の屈辱感があります。カタルーニャの人たちは、40年間禁止されたんですね。そして、カタルーニャ語が唯一使える場がバルセロナのホームであるカンプ・ノウだったんです。


鈴木「今も話されていないんですか?」


――今は使われています。が、やはり「母国語を規制した政権」への怒りは残りますよね。そして、そのフランコ政権から支援を受けたのがレアル・マドリードなんです。つまりバルセロナにとってレアル・マドリードは、自分たちを抑圧してきた憎き政権側の存在なんですね。


鈴木「怖いですね……。なんだか『お祭り!』みたいな印象だったんですけど、聞けば聞くほどどういう目で見ていいかわからなくなります」


――えー、クラシコの説明をするだけで「怖い」「恐ろしい」を連発させてしまい、企画が成立するのかという恐ろしさを感じていますが(苦笑)続けます。1943年の話ですが、カップ戦で対戦した両チーム、ホームでバルセロナが3-0で勝ったあと、アウェイで1-11で負けるということがあったようです。


鈴木「90分で、ですよね? 10分に1点以上失点しちゃってるということなんですね」


――そうです。バルセロナは、ボコボコにやられました。これは『ダービー!!』でも触れたんですが、どうやらセカンドレグ前に国防長官がロッカールームにやって来て、「諸君、政権の為に寛容であるべきではないか?」という圧力をかけたというエピソードがあるようです。


鈴木「どういうことですか、つまり『負けろ?』と」


――そういうことです。似たようなエピソードが数限りなくあり、他にもさまざまな理由があって、カタルーニャ独立運動は今でも起こっています。


鈴木「スペイン対バルセロナ、みたいになってるんですね……」


――最初に西部謙司さんに試合分析をしてもらった両チームですが、こういう因縁があったんです。すごくザックリと説明しているので、興味があればぜひいろいろ調べてみてください。

クラシコのヤバさを知り、すでにそこそこドン引きの鈴木さん。果たして、最後までついてきてくれるのか……。ピッチ内外で繰り広げられてきた“激ヤバ事件簿”の数々を解説する後編は『WOWOW 公式サイト』でお楽しみください!

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Photo: Takahiro Fujii
Edition: Yuichiro Kubo

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澤山 大輔