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戦術的ピリオダイゼーション実践編。ゲームモデルは歴史や文化も含む

2018.07.27

エミリオ・デ・レオ インタビュー 前編

戦術のバリエーションにかけては他リーグの追随を許さないセリエA。さらに若い世代の指導者はインターネットを通じてボーダーレスに他国のトレンドを学び、カルチョの現場に新風を吹き込んでいる。ポルトガル発祥の戦術的ピリオダイゼーションの研究を独学で進め、ミハイロビッチの副官にまで登り詰めたエミリオ・デ・レオはその代表格だ。『モダンサッカーの教科書』の著者レナート・バルディの相棒でもある彼にイタリアサッカーの未来を先取りする噂の最先端理論を、トリノを例に解説してもらった。


 イタリアでは若い指導者を中心にポルトガル発祥のコーチングメソッドである戦術的ピリオダイゼーションが取り入れられ始めている。その基礎知識を今我われが仕事をしているトリノというクラブを例に解説しよう。


大本にあるのはリーグやクラブ、監督の哲学を反映した「ゲームモデル」

 出発点になるのは、クラブがどのような目標を設定しているか、そして監督がどのようなフィロソフィを持ち、どのようなサッカーを通してその目標を実現しようと考えているかということだ。その枠組みの中で、シーズンを通しての仕事を規定する最も重要なベースは「ゲームモデル」だ。その中には、チームが持つべきアイデンティティ、それを具体化するためのプレー原則、そしてそれを実現するためのコーチングメソッドが凝縮されている。

 トリノのゲームモデルには、様々な要素が反映されている。監督のメンタリティ、クラブの歴史とカルチャー、セリエAというリーグの戦術的な特徴などなど。もう少し具体的に言うと、我われの監督は受動的な姿勢を何よりも嫌っており、常にアグレッシブかつアクティブにプレーすることを要求する。トリノというクラブは伝統的に、どんな状況に置かれても常に闘争心をむき出しにして最後の最後まで力を振り絞って闘う姿勢をアイデンティティとしており、サポーターもそれをチームに強く求めている。そしてセリエAでは、何よりもボールを奪ってからできるだけ速く、相手が守備陣形を整える前に敵ゴールに迫ることが決定的な重要性を持っている。

 とすると、チームとして基本となるゲームモデルは、あえて単純化して言えば「ボールをできるだけ高い位置で回収し、すぐに前方にプレーを展開する」というものになる。そのためには、相手を待つことなく常に前に出てボールを奪いに行く、セカンドボールに強い、美しいサッカーよりも勝てるサッカーを重視する、といった特徴を備えていなければならないだろう。受動的なチームではあり得ないし、低い位置にバランスの取れた布陣を敷いて理詰めで守るような戦い方もしない。それよりもむしろ、多少のリスクを取ってでも積極的に前に出てボールを奪いに行くような、いわば「肉を切らせて骨を断つ」戦い方をするチームになるだろう。

ポルトガル人のモウリーニョはいち早く戦術的ピリオダイゼーションを導入した先駆者だ


次のプロセスは「プレー原則」→「システム」

 このゲームモデルは、チームのアイデンティティを規定するレベルの重要性を持っている。どのシステムを選ぶかよりも、むしろこちらの方が上位にくる。このゲームモデルを実現するために、私は戦術的ピリオダイゼーションを通して、ゲームモデルに基づくプレー原則を繰り返しチームに浸透させていくことを考える。どのシステムを選ぶかは、この2つを前提として、さらに選手の能力や個性を勘案した上で初めて出てくる議論だ。このゲームモデルを、この戦力によって実現するために最も適したシステムは何か、という話の順序になるわけだ。決して逆ではない。結果的に私たちが選んだのは[4-3-3]だった。

 できるだけ高い位置でボールを回収するためには、前線から敵最終ラインにプレッシャーをかけていく「超攻撃的プレッシング」が有効だ。超攻撃的プレッシングを行えば、特定のゾーンでボールを奪取する頻度が高くなるだろう。そして、奪ったボールをすぐに前方に展開するためには、誰かが裏のスペースをアタックする必要がある。しかし、それを実現するための手段として、例えばリャイッチがイアゴ・ファルケにパスし、イアゴがベロッティにラストパスを送る、といった固定的なスキームは準備しない。もちろん実際のトレーニングの中には、そういうスキームも選択肢の一つとして含まれているが、それがすべてではまったくない。

 敵陣の深いゾーンでボールを奪った時、最初のパスは前方に出さなければならない。そのためには受け手が必要だ。したがって、例えばリャイッチがボールを奪った時、その時点でボールのラインよりも前にいるプレーヤーはすぐに裏のスペースをアタックしなければならない。さらにボールのラインよりも後ろにいるプレーヤーも、少なくとも1人が後方から走り込むことで意外性を高めなければならない。通常、リャイッチがボールを奪った時ボールのラインよりも前にいる可能性が高いのはCFのベロッティと逆サイドのウイングのイアゴだが、私にとってはそれが誰であろうと問題ではない。問題なのは、ボールを奪った瞬間、それより前にいる選手が間髪をいれず裏のスペースをアタックすることだ。後方から走り込む選手も、通常ならインサイドMFのベナッシかバゼッリだろうが、それがアンカーのバルディフィオーリであっても、逆サイドのSBザッパコスタであっても構わない。重要なのは、チームがプレー原則を実現することだ。

「ゲームモデル」

… 監督のメンタリティ、クラブの歴史とカルチャー、リーグの戦術的な特徴などを反映した、ベースとなるコンセプト

・ミハイロビッチの哲学は常にアグレッシブかつアクティブにプレーすること
・トリノの伝統は常に闘争心と最後の最後まで力を振り絞って闘うこと
・セリエAは相手が守備陣形を整える前に敵ゴールに迫ることが重要
→ボールをできるだけ高い位置で回収し、すぐに前方にプレーを展開する

「プレー原則」

… プレーを通してピッチ上に実現すべき特定の状況

攻撃
・ボールを奪ったらすぐ前方にパスを送る
・裏のスペースをアタックする
・ボールサイドに数的優位を作る

守備
・全員が守備に能動的に参加するためチームの利益を第一に考える献身性を持つ
・敵陣でボールを奪いショートカウンターに転じるため前に向かってアグレッシブに守備をする
・自陣に引いて陣形を固める場合は秩序とコンパクトネスを保ちボールを奪ったらロングカウンターを第一の選択肢とする

攻守の切り替え
・ハイプレスからのショートカウンター、自陣での組織的守備からのロングカウンターというセットが基本
・敵陣でボールを奪った時、最初のパスは前方に出さなければならない
・ボールを奪った瞬間、ボールのラインより前にいる選手が間髪をいれず裏のスペースをアタックする

「システム」

… 上記の2つを前提として、選手の能力や個性を勘案した上で選択

・[4-3-3]


対ユベントスを想定した1週間のトレーニングメニュー

 となると次は、このプレー原則をチームに浸透させるために、1週間のトレーニングをどのように組み立てるか、という議論になる。火曜日からスタートして土曜日に仕上げるという5日間の中に、どんなトレーニングメニューを織り込んでいくのか。

 火曜日のトレーニングにおいてフォーカスされるのは、次の試合のテーマとなる基本的なプレー原則だ。次の対戦相手とどういうシステムのかみ合わせになるからどのゾーンをどうやって突くべきかといった戦術的なディテールには、一切関心を払わない。それは木曜日に行うべきことだからだ。次の対戦相手がユベントスで、戦術分析担当のレナートとダビデの分析の結果、システムが[4-3-1-2]になる可能性が高いとしよう。彼らは中央のゾーンに8人固まっている。[4-3-3]で戦うこちらは6人だ。そのため中央から攻撃しても相手の守備を崩すのは難しい。だとすればこちらが2対1の関係を作れるサイドから崩すというのが、攻撃の基本コンセプトになってくる。

 火曜日のトレーニングでは、ボールポゼッションなど心身の負荷の少ないメニューの中で、特に強調することもなく、むしろほとんど無意識にピッチの幅を使って攻撃するような方向にチームを仕向けていくようメニューを組み立てる。その時にはシステムやポジションすらも特定しない。チームには今23人のフィールドプレーヤーがいるから、10対10でさらにジョーカーを3人入れる。中央に1人、サイドに2人。そして、この3人すべてがボールに触ったら1点、というルールでミニゲームを行う。これは、チーム全体にピッチの幅を使って攻撃するというプレー原則を意識づけることが狙いだ。

 そこから始まって、水曜、木曜と段階的に試合のディテールにトレーニング内容を近づけると同時に、集中力の維持、状況判断とプレー選択といった戦術的な負荷のレベルも上げていく。ピークは木曜日だ。前の試合からも次の試合からも最も遠い日なので、心身の負荷が最も大きなメニューが組める。

 木曜日には、同じ10対10でも本番と同じように敵味方のシステムをかみ合わせ、試合の状況をシミュレートするようなミニゲームを行う。攻撃時にはピッチの幅を使いサイドで数的優位を作り出して攻めること、守備時には中央から攻めてくる[4-3-1-2]の相手に対して中央に絞って厚みをつけた布陣で守ることが基本のプレー原則なので、ゴールを中央に1つ、サイドに1つずつ置いて、攻撃時にはサイドのゴールを攻め、守備時には中央のゴールを守るようにルールを設定する。そして、どうやってサイドで数的優位を作り出すかという具体的な選択肢もそこに入れ込んでいく。例えばオーバーラップならオーバーラップという、ディテールに関わるより下位のプレー原則も入ってくるわけだ。

 試合に近づく金曜、土曜は、集中力や認知能力が高まっているが、そこであまり負荷をかけて消耗させたくないという状況があるので、新たなプレー原則やそのディテールを付け加えるのではなく、考えたり判断したりという要素は最小限にとどめて、むしろ木曜までに学習したディテールを遂行することにフォーカスしたメニューを組む。認知や学習というメンタル的な負荷に関わる戦術的インテンシティという観点から言うと、火曜、水曜は木曜日のピークに向けて負荷を上げていき、金曜、土曜はまた落としていくというプロセスを踏んで、日曜の試合に臨むという流れになるわけだ。


トリノダービー分析:プレー原則の実戦適用

 では、チームはその日曜の試合で1週間のトレーニングを通じて学習してきたプレー原則をどのように表現するのか。

 我われは中央の厚いチームを攻略するために、ピッチの幅を使ってプレーすることを繰り返してきた。私はイアゴ・ファルケに対してずっと、外に開いた位置で仕掛けられるようにしておけ、と言い続けてきた。走力のある右SBのザッパコスタの攻め上がりとオーバーラップによって、2対1の数的優位が作れるからだ。

 ところが実際の試合になってみると、ユベントスが採用してきたシステムはピャニッチをトップ下に置いた[4-3-1-2]ではなく、前線に右からクアドラード、イグアイン、マンジュキッチを並べた[4-3-3]だった。そして守備の局面では、マンジュキッチが前線に残る代わりに、左インサイドMFのストゥラーロが外に開き、クアドラードが中盤のラインまで下がる[4-4-2]の陣形を取ってきた。サイドで2対1の数的優位を作り出せるはずが、実際には2対2の数的均衡になっていたわけだ。こうなると、イアゴが外に開いて張っていても有利な形は作れない。逆に相手の中央はストゥラーロが外に開いて4+4の2ラインになったことで、2ライン間のハーフスペースが使いやすくなっている。それならばイアゴは外に張るよりもむしろ、2ライン間に入ってきて敵のSBとCBのゾーンの切れ目でパスを受け前を向いた方が、よりいい攻撃の形を作れる。

 つまりこの時点で、チームが攻撃の局面で実現すべきプレー原則は、サイドで2対1を作って崩すことではなく、2ライン間に起点を作ってそこから裏のスペースにボールを送り込むことに切り替わっているのだ。そうなると問題もまた、チームがその状況の変化を読み取り、事前に用意してきたのとは別のプレー原則を適用しようと判断し実行できるかどうかに変わってくる。

 もちろん、ピッチの上で起こっているのはそんなに単純なことではない。我われの右サイドでは、イアゴ・ファルケとザッパコスタに対してストゥラーロとアレックス・サンドロが2対2の関係になっていたので、イアゴが内に入り込んで2ライン間にパスを引き出すというプレー原則が有効になった。しかし逆サイドでは、クアドラードの戻りが遅れがちになっているため、左SBのバレーカが攻め上がることで敵の右SBリヒトシュタイナーに対して、リャイッチと合わせて2対1を作れる状況が生まれていた。したがってこちらのサイドでは、当初からの狙い通りピッチの幅を使い2対1の数的優位を作り出すというプレー原則が引き続き有効だった。

 また、この試合のために準備したわけではなく、我われが一般的な攻撃のプレー原則としているものの一つに、ボールサイドに数的優位を作り出すというのがある。そのための選択肢としてよく使われるのが、イアゴ・ファルケとリャイッチのどちらかが逆サイドに流れることで、2人が近い距離を保ってプレーするというもの。イアゴとリャイッチはともに高いテクニックと突破力を持っており、狭いスペースでもコンビネーションで局面を打開することができる。例えばリャイッチが右サイドに流れてきてイアゴのプレーに絡むことで、局地的な数的優位を作り出すだけでなく質的優位も生み出し、1対1やコンビネーションでゴール前にフリーの味方を送り込むことが可能になる。実際、この形から挙げた得点は少なくない。

 ウイングではなく逆サイドのインサイドMFがボールサイドに流れてくることで局地的な数的優位を作り出すという選択肢もある。ユベントス戦での先制ゴールも、左インサイドMFのバゼッリが右サイドに流れて数的優位を作り、裏に抜け出してクロスを上げるという流れから生まれた。

このインタビューの直前に行われたトリノダービーではトリノのベロッティのゴールで先制したものの、1-3の逆転負け。それでもデ・レオは「コーチ陣にとっては納得のいく内容だった」と目先の結果ではなくピッチ上のディテールに目を光らせる


最終目的はチーム全員が同じように状況をとらえ、解釈し、判断する

 このように実際のピッチ上では、1週間のトレーニングの中で準備してきたシチュエーションだけでなく、それとは異なる様々な状況に対応しなければならない。そこで重要なのは、それぞれの状況に合わせて最も有効なプレー原則をチームが選び実行に移すことだ。もし私が、ユベントスの[4-3-1-2]を想定してそれを崩すために、バルディフィオーリからベロッティへの縦パスをサポートに寄ってきたベナッシに落とし、ベナッシから右サイドのイアゴに展開、そこにザッパコスタがオーバーラップして2対1を作りクロス、あるいはイアゴがゴールに向かってドリブルで仕掛ける――というスキーム(もちろんこれは一例に過ぎない)ばかりをトレーニングしていたら、前述したようなピッチ上での状況の変化にチームが的確に対応することは難しいはずだ。

 オーバーラップをはじめとするスキームは、あくまでプレー原則を実現する手段、選択肢であって、それを遂行することがプレーの目的になるのは本末転倒だ。もちろん、プレー原則を実現するための手段として有効であることに変わりはないし、その手段、選択肢としてトレーニングの中に組み込まれている。しかしチームにとって重要なのは、あくまでもプレー原則だ。

 攻撃の局面における大きなプレー原則としてはここまで見てきた通り、ボールを奪ったらすぐ前方にパスを送る、裏のスペースをアタックする、ボールサイドに数的優位を作るといったものが挙げられる。一方、守備の局面においてトリノが基本としているのは、全員が守備に能動的に参加するためチームの利益を第一に考える献身性を持つ、敵陣でボールを奪いショートカウンターに転じるため前に向かってアグレッシブに守備をする、自陣に引いて陣形を固める場合は秩序とコンパクトネスを保ちボールを奪ったらロングカウンターを第一の選択肢とする――といったプレー原則だ。守→攻の切り替えに関しては、ハイプレスからのショートカウンター、自陣での組織的守備からのロングカウンターというセットが基本になる。そしてこれらすべては、最初に取り上げたこのチームのアイデンティティを規定するゲームモデルに戻っていくというわけだ。

 重要なのは、全員が統一されたプレー原則に従って振る舞い、同じように状況をとらえ、解釈し、判断すること。それが戦術的ピリオダイゼーションの最大の目的だ。


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Emilio DE LEO
エミリオ・デ・レオ

1978.1.18(40歳)ITALY

南イタリア・ナポリ近郊のカーバ・ディ・ティレーニ生まれ。地元のアマチュアクラブや当時3部のカベーゼで育成コーチとして指導にあたる傍ら、独学で戦術研究を進める。その成果をまとめたレポートをセリエA、Bのプロ監督たちに履歴書とともに送り、YouTubeにCLやセリエAの分析ビデオをアップロードするなど、様々な方法でセルフプロモーションを行った。それがマンチーニのスタッフを務めていた同郷のサルサノの目に留まり、09年からマンチェスター・シティの外部スタッフとして戦術分析を担当。「マンチーニ一派」のミハイロビッチがイタリアでは珍しい戦術的ピリオダイゼーションを取り入れたコーチングメソッドを高く評価し、12年のセルビア代表監督就任と同時に助監督に抜擢した。以来サンプドリア、ミラン、トリノとミハイロビッチの頭脳として行動をともにした。




■『モダンサッカーの教科書』から学ぶ最新戦術トレンド

・第1回:欧州の戦術パラダイムシフトは、サッカー版ヌーヴェルヴァーグ(五百蔵容)
・第2回:ゲームモデルから逆算されたトレーニングは日本に定着するか?(らいかーると)
・第3回:欧州で起きている「指導者革命」グアルディオラ以降の新たな世界(結城康平)
・第4回:マリノスのモダンサッカー革命、CFGの実験の行き着く先を占う(河治良幸)


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Photos: Michio Katano, Getty Images

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エミリオ・デ・レオ戦術戦術的ピリオダイゼーション

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。