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戦術的フレキシビリティを見極めレーブとドイツはまだまだ革新する

2018.04.02

EURO後の変移、ビルドアップとゲーゲンプレッシングの新機軸


死角は、ないのか。EURO2016以降、10人以上の新顔をデビューさせ、戦術的トライを繰り返しながらも、予選を全勝、若手中心でコンフェデレーションズカップ優勝を果たしてきた前回王者。クラブチームかのごとく振る舞う現代表の「攻⇄守」メカニズムを、ドイツ発の分析サイト『Spielverlagerung(シュピールフェアラーゲルング)』が解説する。


 ドイツ代表の大きな変化は2014年に始まった。英雄たちがW杯を勝ち獲り、4度目のタイトルを手にブラジルの地を後にした年。ミロスラフ・クローゼ、フィリップ・ラームという誰もが認めるチームの支柱が代表キャリアを終えた。その一方でヨアヒム・レーブは、新しい世代がチームを導く役割を担えるまでに成長していることを実感していた。

 このW杯優勝で、監督自身もようやく重い肩の荷を下ろすことができた。それまでは、まだまだ彼の能力に疑問を持つ人々が大勢いたのである。例えば2012年のEUROでは、準決勝イタリア戦における戦術選択ミスで批判の嵐が起きたこともあったのだ。こうして母国に栄冠をもたらし、自信を得たレーブは、喜び勇んで“実験”を試みられるようになった。ブラジル大会では、守備を安定させようとシステムを[4-3-3]に固定していた指揮官。そこで本職はCBのベネディクト・ヘベデス(ユベントス)を左SBに据えるといった選手起用を行ったように、様々なシステムに次々とトライしていった。

 迎えた2016年のEURO大会中、その傾向は顕著に現れた。例えば準々決勝でイタリアを相手に敷いてみせた3バック。これは2年前のW杯では考えられなかったことだ。レーブは選手たちの戦術的なフレキシビリティを見極めていた。ブンデスリーガでは各クラブの監督たちが年々“創造的”になり、多種多様なフォーメーションが試されている。そのおかげで、各システムの長所や短所をレーブは知ることができた。同様に選手たちも、数年前に比べてずっと早く新しいシステムに順応し、ピッチ上の新しい役割を修得できるようになったのだ。

昨年11月に行われたテストマッチ2試合、イングランド戦(0-0/A)とフランス戦(2-2/H)の基本フォーメーション


守備
Die Verteidigung

 このようなレーブの“実験”は、特に守備陣に関して確認できる。先に挙げたEURO2016中の3バック導入は始まりに過ぎない。今ではその3バックもドイツ代表のシステムレパートリーのスタンダードの一つになった。イェロメ・ボアテンクやニクラス・ジューレ(ともにバイエルン)、アントニオ・リュディガー(チェルシー)、マティアス・ギンター(ボルシアMG)といったDFたちは、所属クラブでの経験からその動き方を熟知している。彼らは中央に絞ってプレーすることもできれば、ハーフスペースまで開いてプレーすることもできる。リスクを負って前に出ろと言えば、後方で安全にコントロールしろと言えば、それぞれに見合ったプレーを実践できる。こういったフレキシビリティが、今のレーブのコンセプトには重要なのだ。

 現代表には後方からのビルドアップを高度にこなし、同時に、相手にプレッシャーを与えるべくアタッキングの際には自らボールを持ち上がれるCBが必要とされる。ドイツと対戦する時、多くのチームは自陣深くに立てこもるようにして守備ブロックを形成する。極力多くの選手を守備に割き、自陣ゴール前へのルートを封鎖しようと試みてくるのだ。そうした状況下では、DF陣が空いたスペースに個人でボールを運び込み、一気にその空間を突くことができれば、引いた敵守備網を決壊させることに近づく。最近ではマッツ・フンメルス(バイエルン)が頻繁にこういうプレーを行い、チームを成功に導いている。


ビルドアップとゲーゲンプレッシング
Der Spielaufbau und das Gegenpressing

 現在の代表において、ほぼすべての攻撃はトニ・クロースを経由している。この28歳のMFは、競争の厳しいチームの中では数少ないポジションが確約された選手だ。レアル・マドリーでもそうであるように、チームのビルドアップの中心となるゲームメイカーで、ほぼすべてのパスワークに少なくとも一度はクロースが絡んでいる。彼は頻繁にDFラインと並ぶくらいの高さ、あるいは数mほど前の左ハーフスペースに下がってボールを引き出す。そして、そこから前線へと効果的なパスを散らすのだ。

 最近ではアタッキングの際、クロースが左ハーフスペースに下りて来る傾向をベースとした非対称な構造をチームが取るようにもなっている。右サイドのヨシュア・キミッヒ(バイエルン)が比較的早いタイミングでタッチライン沿いを駆け上がり、一気にサイドを変えるダイアゴナルなパスを受ける準備をする。その前方のMFには、指揮官は近頃ウインガータイプではなく、レオン・ゴレツカ(シャルケ)やイルカイ・ギュンドアン(マンチェスターC)のような右ハーフスペースで生きるプレーヤーの起用も試行中だ。このポジションの選手は自由に動くことが許されており、中央のゾーンで存在感を示したかと思えば、右サイドのショートパス・コンビネーションに絡むためにサイドのゾーンまで開いて周囲と連動する。

クロースが最終ラインの左ハーフスペースに引いて来る動きによってできる、特徴的なビルドアップの構造

 バスティアン・シュバインシュタイガーがクロースの隣でプレーしていたEURO2016頃のドイツは、それほどクロース中心にチームが作られていなかった。今ではそれが完全に変わった。これにより、他のチームメイトの負担は大きく軽減。10番(トップ下)の位置でプレーすることが多いメスト・エジル(アーセナル)や積極的に攻撃的なアクションを起こせるユリアン・ドラクスラー(パリSG)らは、以前のようにビルドアップの早い段階で低い位置に顔を出しボールに絡む必要がなくなった。その代わり、より高い位置にポジションを取り、ドリブル突破やスルーパスといった自身の強みを効果的に生かせるようになっている。

今や“クロースのチーム”と言われるほど、EURO後さらに存在感を増した背番号8

 この前線のゾーンで各選手が存在感を発揮するようになったことで、必然的により強力なゲーゲンプレッシングが実行可能になった。ボールロスト時、その周辺により多くの選手を配置できるため、より効率的にすぐさまボールに対してアタックできるようになったのだ。そして、まさにこれこそが現在レーブが追い求めているものなのだ。過去のドイツ代表には、素早く撤退し守備のためのフォーメーションを組んでブロックを作ろうとするシーンが頻繁に見受けられた。だが、これらの変更で確実性を増したポゼッションプレーによって、このオーガナイズも変更。今のドイツ代表は自覚的にこれまでよりもさらに積極的にボールを前に進め、全体が押し上がることでゲーゲンプレッシングからのショートカウンターを発動させ、相手を圧倒しようとしている。

選手を高いゾーンに配置することで、ドイツ代表はボールに近い位置により多くの人数をかけて一気にゲーゲンプレッシングに取りかかることができる

攻撃
Der Angriff

 どんなに素晴らしいサッカーをしようとも、前線にはゴールを確実に決めてくれるストライカーが必要だ。ちょうどCFのポジションは、ここ数年におけるドイツのウィークポイントである。ベテランの域に達していたクローゼは、現代の先端的なシステムを扱うチームの要請に応じ、キャリア晩年にもかかわらず適応してみせた。それだけでなく、彼はゴールを決めることで2014年W杯の大成功に貢献したのだ。しかし、彼の後継者となると、層が薄いと言わざるを得ない。

 トーマス・ミュラー(バイエルン)はフィジカル面やスピード面から見ると、CFが適性というわけではない。マリオ・ゴメス(ボルフスブルク)は長期にわたって代表では苦しんでいる。彼の成功の是非はゴールの一点に懸かっているだけに、得点を取れなければすぐさま批判の的になってしまうのだ。その彼らに代わり、最近はタイプの異なる2人のFWが輝きを増している。

 1人目のサンドロ・バーグナー(バイエルン)は、昨年6月の代表デビュー以来、チーム定着を果たしている。両サイドからペナルティエリア内へのクロスが増えるような試合では、彼の存在がより貴重になるだろう。194cmの長身を誇る彼に空中戦で競り勝つのは至難の業だ。対戦相手が守備を固めてくる展開の場合、バーグナーは確実なオプションとして計算できる。

 もう1人のティモ・ベルナーは今、世界トップレベルの選手への道を歩んでいる。このRBライプツィヒ所属の22歳は、素晴らしいスプリント力と高い決定力を備えたストライカーだ。だが特筆すべきは、危険なスペースを見極め、そこへタイミング良く入って行くフリーランニングのセンスである。これにより、レーブは左サイドを主戦場とするレロイ・サネ(マンチェスターC)とともに、ヨーロッパで有数のスピードを誇る攻撃的プレーヤーを2人起用できる。ドイツが攻撃時に無駄に手数をかけず、縦方向のパスを中心に前へとボールを運ぶことを試みる場合、ベルナーとサネは最適なアタッカーだ。

 同時に、現代表の強みは前述のようにバリエーション豊富なフレキシビリティである。試合のテンポを遅くし、より狭い局面でのテクニックが必要となる場合は、ドラクスラーやマリオ・ゲッツェ(ドルトムント)が前線の1枚として起用されるだろう。

昨年3月のデビュー以来、コンフェデ杯で3ゴール(大会得点王)、その後の代表戦6試合でも4ゴールを記録したベルナー


要約
Fazit

 この数年の間に、代表シーンにおいても戦術的なバリエーションの豊富さが重要な要素になった。ドイツ代表は2014年のW杯、2016年のEUROで素晴らしいパスワークをベースにしたサッカーを披露してみせたが、均一的なやり方に対しては対戦相手たちも容易に対策を練り、その攻撃を抑え切ってしまう機会が増えていた。そうした中で、選手たちの戦術的なフレキシビリティを見出し、それを活用することで敵に手の内を読ませず、対応を困難なものにした指揮官。2連覇を目指すロシアW杯でも、試合前あるいは試合中に人選や戦術の正しいチョイスを行えるか――すべてはレーブの手腕に懸かっている。

06年はアシスタントコーチとして3位、監督として臨んだ10年も3位、そして14年、母国に24年ぶり4回目のW杯優勝をもたらしたレーブ監督。イタリア、ブラジルに続く大会連覇を目指す今大会は、まずGSでメキシコ、スウェーデン、韓国と対戦する

Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images
Analysis: Constantin Ecker
Translation Tatsuro Suzuki

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ドイツ代表分析戦術

Profile

シュピールフェアラーゲルンク

2011年のWEBサイト立ち上げ以来、戦術的、統計的、そしてトレーニング理論の観点からサッカーを解析。欧州中から新世代の論者たちが集い、プロ指導者も舌を巻く先鋭的な考察を発表している。こうしたプロジェクトはドイツ語圏では初の試みで、13年には英語版『Spielverlagerung.com』も開始。監督やスカウトなど現場の専門家からメディア関係者まで、その分析は品質が保証されたソースとして認知されている。