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現代型サイドバックの条件とは? ドイツ人現役コーチに聞く

2018.03.09

『アオアシ特別号』発売記念!


新世代サッカー漫画『アオアシ』と海外サッカー専門誌『footballista』の異色のコラボ『アオアシ×footballista Special Magazine』の発売を記念して、特集「サイドバックの時代が来る」に関連した本誌2015年10月号掲載インタビューを特別公開!

近年、サイドバックへの要求が高まっている背景には、選手のアスリート能力の向上も関係しているはずだ。ブンデス2部ダルムシュタットのフィジカルコーチを務めるフランク・シュタインメッツは、インタビュアーである中野氏のドイツA級ライセンス講習会の同期。監督としての目線も持つ新進気鋭のドイツ人に、現代サイドバックに求められる条件を聞いた。


Interview with
FRANK STEINMETZ
フランク・シュタインメッツ(ダルムシュタット)

最も重要な能力は、あらゆることを包括した「スピード」


―― 今回はサイドバックがテーマなんだけど、このポジションにはどんな身体能力や特徴が必要だと思う?

「まず絶対に必要なのが基礎持久力。その上で高いレベルのスピード、そして高負荷での持久力が大事だ。サイドバックは守備ブロックの一員としてディフェンスの役割を担いながら、同時に前線でアクセントをつけるプレーも行う。彼らはハイスピードでスプリントし、すぐにまた帰陣できなければならないんだ。それ以外に大事なのは高い戦術理解力。ボールが逆サイドにある時は中に絞ってCBを助けたり、ボールサイドでは周りの選手と連係しながら相手を追い込み、また攻撃への準備をしないといけない。非常に総合力を求められるポジションだと言える」


―― その中で一つを挙げるとしたら?

 「もし一つだけ挙げるとしたら……スピードだね」


―― それはどんな意味でのスピード? 瞬発力? それとも回復力? スピードと言ってもいろいろな側面があるよね?

 「その通りだ。まずはクラシカルなところで瞬発力だね。そして疲労回復スピードも非常に大事だ。何度も縦の動きを繰り返さなければならず、攻守の切り替え頻度が非常に高い。これは本質的な能力だと思う。それに反応スピードもだね。サイドバックは守備でも攻撃でも1対1の割合が凄く多いんだ。そうしたあらゆることを包括した意味で『スピード』が大切だと考えている」


―― フィジカル面から見て、1対1に重要なのは何だろう?

 「柔軟性、瞬発力、機敏性だ。状況に対応するためには素早い方向転換が必要だからね。必ずしも1対1=ドリブル対応ではない。ワンツーパスにも対応しなければならないし、くさびのパスが入った後に素早く次のポジションに移行できなければならないんだ」


―― ここ最近現場で気がついたことがあるんだけど、2、3年前まではまだ「1対1だと、とにかく飛び込んで奪いに行け!」が定説だった。でも今は状況に応じて距離を取り、相手の選択肢を狭める動きを要求する指導者が増えてきている。ドイツ伝統の“ツバイカンプフ”(1対1での競り合い)への考え方も変わってきたのかな?

 「それは私も感じている。相手の動きを捉え、奪いに行ける状況を作り出し、そこでガツンと当たる。そのためのポジショニングが非常に重要になってきている」


―― サイドバック用に特別なトレーニングをやっている?

 「ああ、やっているよ。特に距離のあるランニングトレーニングを取り入れている。他の選手は5~10mのダッシュを繰り返し行うけど、サイドバックは50mのダッシュもする。スピードを保ちながら長い距離を走るのはこのポジションの特徴の一つであり、そのためには十分なトレーニングが必要なんだ」


―― 疲労耐性や疲労回復能力というのは生まれつきのものだと思う?

 「いや、それも十分にトレーニングで伸ばせる分野だ。生まれついてのフィジカル能力というのは、選手それぞれが持つ瞬発力や最大速度といった基本的な走る速さに関してだ。しかし、疲労耐性や疲労回復能力はトレーニングで十分に鍛えられる。僕がよくやるのは負荷値や時間を変えながら行うインターバル走で、体内ですみやかに新陳代謝を行えるようにするのが目的だ」


―― スポーツ科学テクノロジーの発展に伴い、今日では様々なデータが取れるようになった。ダルムシュタットでもそうした装置を利用している?

 「もちろんだ。心拍数、乳酸値、瞬発力、ジャンプ力などは計測するし、データの数値から選手のどこにポテンシャルがあるかを探ることができる。例えば乳酸値のグラフを見ることで、どれだけの疲労耐性能力が身に付いたかがわかるし、選手にかける負荷の指針にもなる。選手には具体的な数字を見せることでよりわかりやすい目標を設定することもできるしね。瞬発力の数値が他の選手より低いとわかったら『そこを鍛えないと』と、意識するだろ?」


―― 数値はどのくらいの頻度で取っている?

 「いつも測っているわけではないけど、月一くらいかな。新加入選手が来たらまずは数値を取る。あるいはどこかにフィジカル的な欠如が感じられる時は特別に検査するよ。数字上で問題が発見されたら、その選手に合わせた特別なトレーニングメニューを組むんだ」

計画的な育成が必要。攻撃センスを持った人材を早くにコンバート


―― 今日ではサイドバックは高い位置を取るし、オフェンスへの貢献が重要になっている。これは選手のフィジカル能力が上がったからなのか、それとも戦術の発展なのか?

 「うーん、両方だな。確かに今は両サイドバックがかなり高い位置を取るのが普通になってきている。じっくりとボールポゼッションできる時は、両サイドバックはビルドアップへの関与が求められるからね。戦術的見地からすれば、できる限りピッチ全体を幅広く、奥深く使うことが大切だ。だからといって、サイドバックにそれができるだけのアスレティック能力やフィジカルコンディションがなければ絵に描いた餅でしかない。ボールを失った後にすぐ戻れなければ、『ピッチを広く使ってポゼッションする』という出発点がそもそも間違っていることになる。うーん、フィジカル能力の要求を満たす選手が出てきたのが先か、戦術が先かは難しいな(苦笑)」


―― 10年前と比べたらサイドバックのプレーは非常に多様化してきた。昔はそれぞれの選手の特徴がもっとはっきりしていたと思うんだ。でも今は攻撃にも守備にも関わらないといけないし、ビルドアップも突破力も求められる。

 「サッカーは10年前と比べて大きく変わってきている。それはサイドバックだけじゃない。あらゆるポジションでアスレティック能力が求められるようになってきて、あらゆる分野でスピードアップが見られる。パススピード、ボールコンタクトにかける時間、そう、判断力といったところもだよね。ドイツで伝統的に高く評価されているサイドバックというのは、例えば(元バイエルンの)ラームのような選手だ。まず守備が非常に堅い。ラームの場合は素早さ・身のこなしが素晴らしく、抜き去るのが難しい。そして、前線でポイントを作れる。彼のようにボールロストをしない選手がいれば、攻撃に幅をもたらすことができるからだ。今後もそのあたりの指針は変わらないと思う。その上で、これまで以上に求められるのはビルドアップ能力だろう。守備戦術はどんどん先鋭化して前線でスペースを見つけ出すのが困難になっている。比較的時間と空間を持てるサイドバックが攻撃のタクトを振れるようになると、チームには様々な利点が生まれる。それに後ろからフルスピードで上がってくる選手を止めるのはいつでも難しいだろう」


―― ペップ・グアルディオラ時代のバイエルンではラームやアラバがビルドアップ時にセンターのポジションを取り、そこからオーバーラップするスタイルが生まれていた。

 「気をつけないといけないのは、『どちらがいいか?』というテーマではない。これまで通りのタッチライン際を攻め上がるスタイルと、斜めにインサイドのスペースを突くスタイルの使い分けがポイントになってきている」


―― 最近の試合を見ていると、オーバーラップしたサイトバックの裏のスペースを突く攻撃が目立つ。守備の局面でサイドバックは判断が難しくなってきている。

 「それはチーム戦術と関わる点だね。サイドバックを高い位置に置きたい監督だったら、どのようにそのスペースを埋めるかという決まり事が必要だ。ボールロストの段階で高い位置にいるサイドバックがすぐに戻れるわけがない。ボランチがケアするのか、CBがスライドするのか。攻撃時にどれだけ守備のバランスを意識しているかも重要なんだ」


―― ブンデスリーガでは日本人も多くプレーしている。サイドバックにも何人かいるが、誰か知っている?

 「酒井宏樹は見たね。ハノーファーの時だ。思うに日本人選手は総合的に非常に優れた身体能力を持っている。まずスピードが素晴らしいし、機敏性がある。そこまで日本人選手に精通しているわけではないが、私が見た限りではブンデスリーガが要求するフィジカル条件を満たしている選手たちだよ」


―― 日本人がフィジカル能力のことを語る時、「強靭な肉体を手に入れなければ」といった方向へ考える傾向がある。でもフィジカルやコンディションというのはとても範囲が広い。大きな体がなくても、機敏性があるならその特性を生かすべきでは?

 「その通りだ。チーム構成で考えれば、大きなパワーのある選手と機敏で小回りの利く選手がバランス良く配備されているのが理想だろう。ラームだって決して体が大きな選手ではない。でも彼はポジショニングが抜群にうまいから、抜くのが難しいんだ」


―― ドイツ代表では常にラームの後継者が議論の的になっている。優れたサイドバックはたくさん出てきたが、ラームと肩を並べるレベルの選手はいない。将来に向けてどんなことが大事になってくるだろうか?

 「今までこのポジションに関する育成がおざなりになっていたのだと思う。大事なのはラームのような選手が生まれてくるように育成プランを考え直すことだろう。高い攻撃センスを持った人材をBユース(U-17)の頃からサイドバックにコンバートさせて、守備戦術を植え付けて鍛えていくというコンセプトを持つことが必要なのかもしれない」

Frank STEINMETZ
フランク・シュタインメッツ
(ダルムシュタット)
1970.3.19(45歳)GERMANY

マインツ大学でスポーツ教員免許を取得。メディアン・リハビリクリニックのスポーツ部門長を長年務めた後、07年に3部のクラブ、ベーエン・ビースバーデンでアシスタントコーチとして2部リーグ昇格に貢献。09年9月ドイツサッカー協会公認A級ライセンス取得。戦術・指導理論にも精通している身体のスペシャリスト。


Photos: Getty Images

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サイドバックダルムシュタットフランク・シュタインメッツ

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。