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サイドバックに求められるスローイン技術。現代サッカーにおける手の扱い方

2018.03.05

『アオアシ特別号』発売記念!サイドバックコラム


新世代サッカー漫画『アオアシ』と海外サッカー専門誌『footballista』の異色のコラボ『アオアシ×footballista Special Magazine』の発売を記念して、特集「サイドバックの時代が来る」に関連した本誌2015年10月号掲載コラムを特別公開!

現状ではCKやFKほど練習や研究がされているわけではないスローイン。かつて注目を浴びたデラップをはじめロングスローを得意とする選手が目立つ程度だが、これから重要視され進化していく可能性を秘めている。

 どれだけチーム戦術が発展し、システム論が声高に議論されようと、サッカーにおいてすべてが予定通りに展開することはない。局面における一瞬の気の迷いがボールロストの原因となってしまったり、ルーズボールに対するためらいのないチャレンジが一気にゴールの可能性を高めたりする。選手一人ひとりの判断が常に噛み合い続けることなどはなく、ちょっとのずれが予想外の状況を生み出す。試合ではそういったシチュエーションが何度も起こり得る。だからこそ、絶えず変化する状況に対応し続けられる選手が求められる。

 そうした、言わば“カオス”が当たり前のサッカーにおいて、あらかじめ動きをプランしておくことができるセットプレーは非常に重要とされている。大事な試合で決定的なゴールがセットプレーから生まれるのも偶然ではない。そして忘れられがちだが、スローインはおざなりにされてはならない重要なセットプレーの一つであり、その担い手の多くはサイドバックである。

ルール上の利点

 スローインを生かした攻撃でまず思いつくのが、ペナルティエリアに向けてのロングスロー。最近はフィジカル能力の向上もあってか、ライナー性の力強いロングスローを投げられる選手も増えてきており、ヘディングに強い選手がいるチームであれば、敵陣深くでのスローインはCKと同じくらいの意味を持つ。日本人選手でも内田篤人や酒井宏樹はロングスローが得意だ。また、足で蹴られたクロスに比べてボールの勢いは弱くなるが、これはDFにとっては遠くにクリアするのが難しいということでもある。そのため、チーム戦略としてあらかじめセカンドボールがこぼれてくるだろう位置に選手を配備しておくこともできる。

 また、ミドルサードでのスローイン時に素早くリスタートして、一気にボールを相手DFラインの裏に投げ込むのも有効だ。たとえボール付近に人数をかけて局面を支配していたとしても、ボールがタッチラインを割った瞬間、守備側は即座に後ろのスペースをケアしなければならない。こうした切り替えの瞬間を、虎視眈々と狙っている選手たちがいる。例えば、バイエルンのミュラー。相手守備の死角からススッと動き出し、その意図を知り尽くすアラバやラフィーニャといったサイドバックから一気に決定機へと繋がるボールを引き出す。ハイライン&プレッシングを採用するチームが増えている今、「スローイン時にオフサイドはない」というルールの重みはますます増していきそうだ。

ハイライン&プレッシングを採用するチームが増えているが、サイドに追い込んだ局面でボールを奪い切れずタッチラインを割った場合、後方のスペースはガラ空き。オフサイドもないため、一瞬でピンチに陥る恐れがある

育成現場の実情

 とはいえ、まだまだCKやFKのようにチーム戦略として明確なパターンを作り上げているチームは少ない。ドイツの育成年代でも、スローインからの動きの指導に重きを置くクラブはそこまで多くなく、基本的には素早くタッチラインに沿って投げ入れるか、FWが引いて来てボールを引き出すくらいのパターンしかない。何となくの位置に何となく投げる選手の方が圧倒的に多く、味方の足下にタイミング良く、コントロールしやすいボールを投げようと気を配れる欧州の選手はあまりいないと思われる。逆にこうしたスローインの技術に関してはアジア人の方がレベルは高い。前述の2人の他に酒井高徳、あるいは韓国代表パク・チュホなどはスローインを起点に攻撃をビルドアップできる選手だ。

ハンブルクで主将を任されている酒井高徳

 サッカーが高度化し緻密になっていく中で、ボールを手で扱えるスローインが今後ますます重要になってくるのは間違いない。スペースを作る動きとサポートの動きを数パターン準備しておくだけで攻撃にかなりの厚みを加えることができるし、ボールを投げた選手はマークを受けていないというメリットを生かして、パスを出した後にフリーでスペースに走り込むこともできる。今後サイドバックには、どういったボールを投げるかを判断する、“司令塔”としての役割も加わってくることになるのではないだろうか。


Photos: Getty Images

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サイドバックスローイン

Profile

中野 吉之伴

1977年生まれ。滞独19年。09年7月にドイツサッカー連盟公認A級ライセンスを取得(UEFA-Aレベル)後、SCフライブルクU-15チームで研修を受ける。現在は元ブンデスリーガクラブのフライブルガーFCでU-13監督を務める。15年より帰国時に全国各地でサッカー講習会を開催し、グラスルーツに寄り添った活動を行っている。 17年10月よりWEBマガジン「中野吉之伴 子どもと育つ」(https://www.targma.jp/kichi-maga/)の配信をスタート。