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メルテンスはなぜ点取り屋として開花したのか? 異色の偽9番

2017.11.14

ポジション多様化トレンド:ウイングのCF起用

近年のセリエAではジェコやイグアイン、ベロッティを代表とする純正CFの巻き返しがトレンドになっているが、そこに割って入る異色の存在がナポリの「偽9番」メルテンスだ。典型的なウインガーだったベルギー代表が、なぜ点取り屋として覚醒したのか? その秘密を解き明かす。

 裏抜けのスピードや駆け引きのうまさでマーカーを引き剥がし、あるいは高さや屈強なフィジカルを生かして競り合いを制し、シュートをねじ込む。守備がタイトなエリア内を主戦場とするCFにはそんなプレーが求められるが、本来は別のポジションが本職の選手をCF起用する例が増えてきている。近年サッカーの世界では本職以外のCFを「偽9番」と呼ぶ。グアルディオラ時代のバルセロナのメッシが代表例だ。

 圧倒的な技術で体格に勝る相手CBを翻弄し点を取りまくったメッシに影響され、追随するチームも現れた。ただ、機能させるのは難しい。ドイツ代表でもゲッツェの「偽9番」が長らく試されたが、正式採用には至らず。ペナルティエリア内の守備に人数をかけるイタリアでも、トッティのゼロトップを除いて成功例がほとんどなかった。そもそもメッシは前線のどこに置いても点を取れる例外的な存在という見方もできる。

「偽9番」はチーム戦術次第

 そんな中、ウイングが本職のドリブラーをCFにコンバートした結果、予想外の大爆発を起こした事例がナポリで発生した。メルテンスのCF起用だ。昨季は28ゴール9アシスト、12月以降だけでハットトリック3回(うち1度は4得点)、今季も10ゴール2アシストと圧倒的な爆発力だ。ゴール量産の秘訣はどこにあったのか?

 ドリブル突破に絶対の自信を持ち、カットインからの右足シュートという得意の型があるメルテンスだが、それゆえに役割が限定された選手だった。169cmという小柄な体格で主戦場は1対1が作りやすいサイド。しかもナポリでは、同じポジションによりプレーの幅が広い地元出身のイタリア代表FWインシーニェがいたため、スーパーサブ的な立場で起用されていた。

 そんな典型的ウインガーをCFにコンバートした理由は、そもそも人がいなかったからに過ぎない。エースのイグアインをライバルのユベントスに奪われ、後釜のミリクは故障で長期離脱、ガッビアディーニは不調から脱却できなかった(1月末にサウサンプトンへ移籍)。そのガッビアディーニが出場停止となった昨季の第10節エンポリ戦で、サッリ監督はメルテンスのCF起用を決めた。

 これが予想外の好感触を得た。前線から中盤に落ちて、パス回しに参加することでボールの動きを円滑にする。さらに相手CBがついて来れば、うまくドリブルで外して数的優位の局面を作り出す。この試合で点を取ったこともさることながら、チームプレーとの相性の良さでしばらくはファーストチョイスであり続けた。

 そして1カ月を経て連係が成熟した昨年12月からは得点量産を開始する。高速ショートパス中心の質の高いポゼッションで相手守備陣を釣り出し、複雑なフリーランとポジションチェンジでかく乱を図る。守備ゾーンを広げられたところに切り込んでくるCFメルテンスは、相手にとって悪夢のような存在となった。エリア内でのパス交換も、速いグラウンダーのクロスへの反応も上々。さらに狭いスペースの中でも鋭いドリブルで1対1で抜くことができるので、CBは対応のしようがない。強烈で正確なシュートを打ち込まれて陥落する相手が続出した。

 「このポジションは好きだし、何より試合に出られるのがいい」と喜ぶメルテンスは、さらに難しいプレーにも挑戦するようになる。4得点を決めた昨年12月の第17節トリノ戦ではマラドーナばりの芸術的なループも決めた。モチベーションと自信の高まりによって、プレーの幅も広がっている。

 同時にチームとしての攻撃の幅も広がった。前線のスペースを空けることで、インサイドMFのハムシクやジエリンスキがエリア内に侵入してゴールを狙うパターンも増えた。またカウンターの際には左右のスペースに流れてボールを引き出して自ら運んだ後、前線に走り込んだインシーニェやカジェホンにラストパスを供給する。これはイグアインを擁した昨季でも見られなかったパターンだ。

 「偽9番」は、個人の力量に加えて適切な戦術が与えられなければ機能しない。ミラン時代のメネズが周囲のサポートを得られず、ボールを持ち過ぎてリズムを壊すだけの存在になっていたことが象徴だ。一方でナポリは周囲が彼のサポートに走り、メルテンスもまた中盤に下がった際にはシンプルにプレーし、組み立てを円滑にする。

 実は、サッリ監督は一昨季から練習では「偽9番」のシステムを試していたという。思いつきの産物ではなく、時間をかけて温められていたアイディアだったのだ。

Photos: Getty Images

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Profile

神尾 光臣

1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。