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ブラジルの速攻になす術なし。挑戦者日本が学んだ教訓とは?

2017.11.08

日本代表 欧州遠征プレイバック#1 2012.10.16@ワルシャワ
vs ブラジル 0-4
得点者:12′ パウリーニョ、25′(pk) 48′ ネイマール、76′ カカー


7カ月後に迫ったロシアW杯本大会に向け、欧州遠征で10日にFIFAランキング2位のブラジル、14日に同5位のベルギーと対戦する日本代表。この両国とは前回ブラジルW杯の前にも、やはり欧州遠征で対戦している。どのような試合となり、どんな課題や収穫を持ち帰ったのか。貴重な強豪との腕試しを前に、過去の試合を当時のレビューで振り返る。


一本槍は危険。本来の強みは「使い分け」
「0か100か」の議論は意味をなさない
ブラジルが教えてくれた重要なこと



戦前のザッケローニや選手たちの言葉の端々からは日本代表への自信と、「対世界」で自分のスタイルを貫き通用させたい、という意気込みが感じられた。しかし、その気負いが本来の姿を見失うことに繋がったのかもしれない。直前のフランス戦(0-1で勝利)の反省もありポゼッションに固執した挑戦者は、したたかなサッカー王国のカウンターの前に呆気なく沈んだ。この大敗から得た教訓を探る。

文 飯尾篤史



サッカーでは「実力差と結果」や「内容と結果」が見合わないことが頻繁にある。しかし、0-4というスコアは「実力差や内容と結果」が見事にマッチしたものだった。

完敗にうつむく選手たち。メンバーはGK:川島;DF内田(→酒井宏)、今野、吉田(→栗原)、長友;MF:長谷部(→細貝)、遠藤、清武(→宮市)、中村憲(→乾)、香川;FW:本田


変幻自在のブラジル



この一戦でブラジルが教えてくれたのは、日本が目指すべきは「ポゼッションかカウンターか」「0か100か」の議論は意味をなさない、ということだったのかもしれない。
ブラジルがポゼッション志向か、カウンター志向か、明確に答えられる人はいないのではないか。なぜなら、時間帯とスコア、日本の状態を見て戦い方を巧みに変えてきたからだ。
序盤のブラジルは前から積極的にプレスを仕掛け、中盤でも激しく囲い込んできた。日本にとって自信になり得るのは、この時間帯にワンタッチ、ツータッチのパスでプレスをかいくぐり、互角以上に渡り合ったことである。
ブラジルの戦い方が変わるのは12分、先制点を奪ってからだ。前からのチェイスを控え、序盤より低い位置にブロックを築くと、前の4人(フッキ、オスカル、ネイマール、カカー)に素早くボールを預け、強烈な速攻を仕掛けてきた。一方、日本は最終ラインへのプレッシャーが弱まったおかげで後方から繋ぎやすくなり、遅攻の度合いを強めていった。
こうして前半の残り時間は、自陣で防いで遅攻する日本と、さっと引いて守って速攻を仕掛けるブラジルという構図が描かれた。

12分に先制点を奪ったパウリーニョと乾。ともに今回もメンバー入りを果たしている

もっとも、そうした構図も48分にブラジルに3点目が入ったことで再び変わった。安全圏に入ったブラジルは、今度は日本陣内でボールを回し始めるのだ。それは必ずしもゴールを狙うためだけではない。日本を揺さぶるためであり、ボールをキープして日本に攻撃の機会を与えないためでもあった。
押し込まれた日本は必死にボールを奪い返したが、ブラジルほど鋭いカウンターは仕掛けられない。何とかボックスまでたどり着いても裏を取れず、ゴールは遠いままだった。
前からのプレス、リトリートからの速攻、多目的のポゼッションを使い分けたブラジルはまさに試合巧者。「戦い方の統制が取れていて見事だった」と唸ったのは今野だ。ポゼッション一本槍の日本とはそこが違った。

25分にPKでチーム2点目を挙げたネイマール。48分には勝負を決する3点目を奪った


「原点」を見失った日本



もともとザックジャパンは、ポゼッション一本槍ではなかった。就任当初、指揮官がまずチームに植えつけたのが前線からサイドに追い込むプレッシングで、そこからのショートカウンターで決勝点を奪ったのが初陣のアルゼンチン戦だった。後方からのビルドアップとショートカウンターを使い分けられることこそ、このチームの強みだったはずだ。
バランスの針がポゼッションに極端に傾いたのは「もっと繋げたと思う」(吉田)というフランス戦の反省からだろう。「圭佑の1トップだったし、しっかり繋いで中盤を支配したいなと思っていた」と中村憲剛も明かしたが、それにしても、あまりに裏への飛び出しや、速攻の意識が希薄だった。
1トップの本田はチアゴ・シウバとダビド・ルイスというワールドクラスのCB相手に奮闘し、タメを作る場面が何度もあった。だが、2列目を生かすという点でもの足りなく、逆に本田が中盤に下がって生まれる数的優位をチームとしても生かせなかった。その点で響いたのが、スペースを作って2列目の飛び出しを促せる前田と、ダイアゴナルランで裏を狙い、敵のDFラインを押し下げられる岡崎がケガで不在だったこと。2人が復帰すれば、戦い方のバランスも今回とは変わってくるはずだ。
序盤の攻防からも、日本のパスサッカーはまったく通用しない代物ではなさそうだ。ただし、危険なのはスペインやバルセロナを意識して、ポゼッションに傾倒し過ぎること。指揮官にその気はなくとも、選手からそうした雰囲気が感じられるだけに、気がかりだ。

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Photos: Getty Images

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Profile

飯尾 篤史

大学卒業後、編集プロダクションを経て、『週刊サッカーダイジェスト』の編集記者に。2012年からフリーランスに転身し、W杯やオリンピックをはじめ、国内外のサッカーシーンを中心に精力的な取材活動を続けている。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』などがある。