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日本代表初選出の斉藤光毅と相思相愛。QPRをモダン化する「Z世代CEO」の野心

2025.10.09

北中米W杯出場に向けて、10月シリーズはパラグアイ代表、ブラジル代表の南米勢を迎え撃つ日本代表。そのメンバーで唯一初選出されたのが、今夏にQPRへの完全移籍移行を果たした斉藤光毅だ。ロンドンで実った相思相愛と、縁を結んだ「Z世代CEO」の野心に、解説者としても活躍する秋吉圭(EFLから見るフットボール)氏が迫る。

 イリアス・シャイール、ジミー・ダン、今夏期待の新戦力リチャード・コネといった人気選手をスカッドに抱えるQPRのクラブショップにおいて、ただ一人超特別待遇の「専用ユニフォーム」を用意されている選手がいる。

 当然「背ネームがすでにプリントされている」という意味ではない。「日本語のプリントが施されたユニフォームがある」のだ。

 近年このクラブを彩ってきた大レジェンドたち、エベレチ・エゼも、チャーリー・オースティンも、アデル・ターラブトも成し遂げられなかったこの偉業は、24歳の斉藤光毅によって今年1月に成し遂げられた。まあ実を言うとその1カ月後、冬の移籍市場でスパーズからローン獲得されたヤン・ミンヒョクも「韓国語ユニフォーム」をゲットしていたが、いずれにしても斉藤が流れを作ったことに相違はない。

 流れを作る。それは斉藤がピッチ上でも所属クラブに継続してもたらしてきた価値貢献の1つだ。2列目での人材輩出が相次ぐ日本サッカー界において、その伝統的な長所を凝縮したかのようなプレースタイルでもって、彼は自身が長らく目標としてきたイングランドの地にたどり着いた。

 そして2025年10月、日本代表メンバーのリストに「斉藤光毅」の名前が躍った。

懐疑論噴出も…26歳のCEO誕生で打たれた布石

 当時19歳の若者が見果てぬ大志を抱き、海を渡り、世界中から集まった才能がひしめくシティ・フットボール・グループの傘下に身を投じたのは2021年1月のこと。最初に赴いた先はその一員であるベルギー2部のロンメルで、当時監督を務めていたのは現ノリッチ、昨シーズンまではブリストル・シティで平河悠を指導していたリアム・マニングだった。

 そこからの3シーズン半、ロンメルとオランダ1部のスパルタ・ロッテルダムで彼が過ごした日々については、フットボリスタ上にも当時の状況を綴った記事が複数あるためここで深く掘り下げることはしない。正直に言えば私も彼のことを注視していたわけではなかったし、観測範囲に彼の名前が轟いてくることもなかった。

 スパルタでの2年間ではともに20試合以上に出場し、2024年夏にはパリ五輪にも出場。それでも彼が元来目指していたであろう日本代表入りへの道は険しく、もっと言えばイングランドへの明確な道筋が示されていたわけでもない。そんな状況に突如として変化が訪れたのが、パリ五輪直後の昨年8月のことである。

 23歳を迎えた斉藤をサッカーの母国へと手招きしたのはQPR。五輪代表で同僚だった平河に続き、近年のチャンピオンシップで需要が右肩上がりの「若手日本人ワイドフォワード」として白羽の矢が立った。

 首都ロンドンに所在する有利な地理条件を持ち、2度のプレミアリーグ昇格を含めここ21シーズンを英2部以上で戦っているQPRにとって、日本人選手の加入は意外にもこれが初めて。とりわけ近年はブリティッシュネスを増していた補強傾向にあって、斉藤獲得の布石となる体制の変化は、この半年以上前の2024年1月に密かに始まった。

 その冬、綱渡りの財政状況の最中にあって、2015年夏から会長職とCEOを兼任してきたリー・フーズが会長職に専念することになった。ここまではよくある話だ。

 フットボール界の度肝を抜いたのがその後任のプロフィールだった。クリスティアン・ヌーリー、なんと当時26歳。高齢化したスカッドの大部分よりも年下の人物が、いきなりCEOに就任したのだ。

……

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EFLQPRクリスティアン・ヌーリーチャンピオンシップロンメル斉藤光毅日本代表移籍

Profile

秋吉 圭(EFLから見るフットボール)

1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72

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