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中村憲剛が自身のプレーを解説。本人の言葉で知る司令塔の真髄

2017.09.19

日本最高峰のMFが教える“選択の極意” 前編

この記事は『モバサカCHANPIONS MANAGER』の提供でお届けします。

サッカーは“決断のスポーツ”だと言われる。プレーの自由度が極めて高いサッカーでは選手がピッチ上で何をするか、刻一刻と変わる状況の中で常に選択を迫られる。限られた時間の中で、いかに最善の選択を下せるか。それこそが勝敗を分けるファクターになるのだ。

Jリーグにはワールドクラスの“決断力”を持った選手がいる。中村憲剛——。2016シーズン、36歳にしてJリーグMVPに選ばれたゲームメーカーは、1本のパスで見るものの度肝を抜く。長短を織り交ぜたパスで相手を揺さぶり、ここぞというタイミングで攻撃を加速させる。中村憲剛はなぜ、ゴールに直結するプレーを選択できるのか。日本最高峰の司令塔が明かす“選択の極意”とは——。

選択肢の持ち方

対応されても上回れるように
“決め打ち”はしたくない

——今回のインタビューでは中村憲剛が試合中にどんなことを考えながら、プレーを決断しているのかというのを聞きたいと思っています。試合中、実際に1本のパスを通したりシュートをするという時、どのぐらいの選択肢を持ちながらプレーしているものなんでしょうか?

 「それこそ、無数にしようと思えばできるんです。そこは難しいんですよね。開始直後なのかそれとも終盤なのか、勝っているのか負けているのか、(自分のいる)ゾーンはどこなのか……によって全部変わってくるので。ただ一つだけ、(選択肢が)1個だけにはしないようにしています。なるべく“決め打ち”はしたくないので、常に2、3個ぐらいは持っておくようにはしてますね」

——“決め打ち”というのは、「これをやろう」と最初から決めておくこと?

 「そうです。それをやってしまうと、ダメだった時に時間がかかってしまうので。ただ、ゴール前とかでは別です。ペナルティエリアの中でパスをもらった時は決め打ちすることもありますね」

——でも、基本的には2、3個ぐらいは用意していると。

 「そうです。相手がこちらの選択肢を消してきたとしても、それを上回れるように」

今季ここまで公式戦33試合に出場。得意のスルーパスやスペースへの飛び出しなど、攻撃を縦に加速させるプレーで好調のチームを牽引している

——ということは、一見何気なく出しているように見えるパスも、いくつか想定していたプランの中から選んでいる、という感覚なのでしょうか?

 「そういう時もありますし、ゲームの流れ、チームのボールの流れを止めないために、(プランにはなかったけれど)はたいて動かすこともあります。一番はゴールに向かうことだから。そこから逆算してプレーしないといけない」

——最短距離でゴールに向かう、というのがファーストチョイスとしてあって、それ以外の案も持っているということでしょうか?

 「そうですね。例えば、本当は(自分が)行きたいところにいる相手を移動させるために、あえてパスを出して動かしておいてそこに入っていく、みたいな。自分も意思があって相手にも意思があるので、それをうまくコントロールしながら、自分の突きたいスペースをあける。もちろん、いつも狙い通りにいくわけではないですけどね」

——なるほど。自分の理想の形に持っていくために、相手を動かすという選択肢があるわけですね。

 「僕がパスを出す時に、『こっちに出せ』とパスを受けた選手に『あっちが空いてる』とかやってるじゃないですか。それはもう次のプレーのイメージができていて、そこに入った瞬間に動き出す。ただ実際には、ちょっと(パスが)ズレて動き出せなくなって、それで選択を変えたり、動き方を変えたり。本当にちょっとのズレで局面はまったく変わってしまうので、そこはもう常に修正と選択の連続ですね」

——正しい選択をするためにやっていることはありますか?

 「それこそ試合前から、相手はどういうシステムで、どういうスタイルで、どんな特徴の選手がいるのかというのは頭に入れておきます。僕もキャリアは長いので、Jリーグの選手であればだいたいの特徴はわかりますから。そこで、どこを狙っていこうかと考えておきます」

——チームでスカウティングをやるだけじゃなくて、個人でもスカウティングをしていると。

 「僕以外にもやっている選手はたくさんいると思いますけどね。あとは、その情報を試合が始まってからアップデートしていく。前から奪いに来ているのか、ブロックを作ろうとしているのか。自分とマッチアップする選手がいたら、密着してくるのか、それとも距離を取ってくるのか」

正しいプレー選択の背景には、入念な事前準備がある。勝負は試合の前から始まっているのだ

——プレー中はめまぐるしく状況が変わっていくと思うのですが、どうやって把握しているのでしょうか?

 「ボールを持ってない時だったら、プレッシャーも何もないからいくらでも見られるじゃないですか」

——サラッと「いくらでも見られる」と言っていますが、普通の人には理解できない世界だと思うんですが……。それは憲剛さんが特別な才能があるからできるんでしょうか?

 「訓練次第でできるようになると思います。僕がずっとやっていたのが、遠くを見るようにすることです」

——「遠く」というのは具体的に言うと?

 「例えば、ピッチの真ん中にいるとしたら最終ライン、右サイドにいるとしたら左サイドの奥の方とか。そうやって遠くを見ておくと、自然と手前の方も見えるようになってくるんです。だから、パスをもらってサイドチェンジをしようかなと思って、そこがふさがれていたら一つ手前の空いているところにパスを出そうとか、そういうことができるようになる」

——それ、誰にでもできることじゃないと思います。

 「若くてもできるような選手はいるし、それはセンスだと思います。僕の場合は培ってきたというか、普段からそういう風にやろうとしていて、だんだん見えてきたという感じです。最初は遠くに蹴られるようになりたいなと思って、遠くを見るようにしていたら、だんだん見られるようになってきたというか」


——それがいわゆる「視野の広さ」の正体なんでしょうか。

 「そうなのかもしれないですね」

——たまに、GKが出ている時にハーフウェイラインあたりからゴールを狙う選手がいますよね。

 「それはあんまりやらないですね。だって……ほとんど入らないでしょ(笑)。自分は、わざわざボールを失いたくない、正確にやりたいなというタイプなので」

——今はこうやって言葉にしてもらっていますが、試合中はそこまで考える時間はあるものなんでしょか?

 「う~ん。本当に瞬間的な判断だと思います。実際の時間からすると0.1秒とか0.2秒くらい。でも、自分としては、その時間の中でけっこう見えているという感覚はあります」

——0.1秒しかないのに、憲剛さんの中ではもっと長く感じる、と。

 「そうですね」

優先順位の変化

昔はダメそうでもパスを出すことがあった
今はフィフティフィフティでは出さない

——ではここからは、憲剛さんがどのようにプレーを選択するのか、実際のシーンを見ながら解説していただきたいと思います。J1第13節・浦和戦で阿部浩之選手に出したスルーパスです。

「あぁ、これですね」

——このプレーを見てまず思ったのが、「いつ見てたの?」ってことなんです。だって、相手ゴールに背中を向けた状態で振り向きざまにワンタッチで出してるんですよ。ちょっと信じられない。

 「エドゥ(アルド)がボールを奪って、リョウタ(大島僚太)に出す。確か、その出す前に1回チラッと見たはず……(動画を見ながら)ここ! そこで、まず相手の最終ラインがどんな感じで、自分に来る選手がいるかを確認して。(動画を見ながら)ストップ! この時はリョウタに『こい、こい、こい!』って言ってます。自分の周りに(相手の選手が)いないのがわかっていたから、パスが来れば裏へ出せるチャンスがあるなと。それでパスが出た後に、前の状況がどうなっているかを見るために首を振ったら、阿部(浩之)ちゃんが相手CB2人の間に斜めに走り込んでいた。この時に、パスを出してシュートを打つっていう1秒後の絵が見えたんです。あとは僕がちゃんとパスを出すだけでした」

——会心の決断だったわけですね。

 「そうですね。本当に自分の思い通りでした。この試合の後に『あの1本で今日の仕事は終わった』って言ってましたからね」

——ちなみに他にも選択肢はあったんでしょうか?

 「最初はたくさん選択肢がありますけど、『自分にマークが来てない』→『DFラインの間が空いている』→『そこにFWが走りこんで来ている』と絞っていったイメージです。最終的にはゴールに行けると思っていたから、自信を持ってプレーを選びました」

——こういう、相手ゴールに向かってダイレクトにパスを出すのは、憲剛さんの得意技ですよね。

 「そうですね。だって、楽じゃないですか。1本のパスで点が取れるんだったら、それが一番いい。だけど、相手だってそこは警戒してくるので、簡単には通させてはくれない。だから横パスを出して揺さぶったりすることが必要になってくるんです」

——パスが通らなさそうだなと思っても出すことはあるんですか?

 「昔はダメそうかなと思っても出すことはありました。前の方に1人でシュートまで持っていけるジュニーニョのような選手がいた時は、その方が良い結果に繋がることが多かったんです。ただ、今は(成功確率が)フィフティフィフティでは出さない。それは(受ける選手の)能力が低いというわけじゃなくて、チームとしての方向性と言うか。オニさん(鬼木監督)は『出していい』って言ってくれているんですけど、より正確にやる方がいい、って30歳過ぎて自分の中で考え方が変わってきているので。逆に言えば、自分の中で『通せる』と思ってやっている。決して博打じゃないんです」

——パスを出す選手のキャラクターによって、プレーの選択肢も変わってくる?

 「全然変わってきます。例えば、さっきの阿部ちゃんへのパスの場面でも、もし足は速いけど、技術はあんまりないタイプの選手だとしたら、足下にピタッと出すのではなく、もっとスペースに走らせるようなボールにしていたと思います。阿部ちゃんの場合は、スピードを上げた状態でも確実にボールを止められるというのがわかっていたので、足下に出してあげるのが一番良いだろうと。そうやっていろいろな要素を頭に入れて決断をしています」

——1本のプレーに、ものすごい思考プロセスがあるんですね。

 「まぁ、後からだったら、いくらでも言えますから(笑)」

自らのプレー選択の極意について身振り手振りを交え、リラックスした様子で丁寧に解説してくれた

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後編も読む→

Photos: Takahiro Fujii

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中村憲剛

Profile

北 健一郎

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。