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乾貴士が心酔するエイバル指揮官メンディリバルの“攻撃のススメ”

2017.06.21

シュートを外してもいい。だが、勝利への渇望が足りないのは許さない

INTERVIEW with
JOSÉ LUIS MENDILIBAR
ホセ・ルイス・メンディリバル
(エイバル監督)

昨季、奇跡のプレミア制覇を遂げたレスターが今季は苦しんだように、サプライズを起こしたクラブが2年連続で好成績を残すのは簡単なことではない。しかし、リーガ屈指の小クラブであるエイバルは、チーム得点王だったFWボルハ・バストンを引き抜かれながら前年を上回る10位フィニッシュを果たしてみせた。その立役者は間違いなく、チームを率いるメンディリバル監督だ。彼の下でプレーする日本代表MF乾貴士がインタビューの中で「自分がもし監督やったらこういうサッカーを、この人みたいなサッカーをやりたい」と心酔する指揮官は、いかにしてチームを導いているのか。J SPORTSのサッカー番組『Foot!』で4月7日に放送されたインタビューの全文を、番組の厚意でここに掲載する。

「残留確実」後の目標設定

10位以内で終えたい。残り4、5試合の時点で手が届くようなら『目標は欧州カップ戦だ』と言おう

──まずは誕生日おめでとうございます。56歳になられたんですよね。

 「歳は言っちゃ駄目だよ(笑)。ありがとう」

──それと、残留ほぼ確定の方もおめでとうございます。

 「今季は下にいるチームとの差が大きい。勝ち点40で残り11節(取材日時点)。数字的には絶対ではないが確実だろう。私たちはもう1年1部にいられることになった。だが残留だけを成果にしたくない。10位以内でシーズンを終えたい」

──内面の喜びを選手に隠して厳しく行くということですね。

 「見せないよ。安堵して“目標は達成した”なんて油断せず、勝てるだけ勝ってできるだけ上位を目指す。7位とか8位とか9位で終えるのが全員のため、監督としての私、選手としての彼ら、エイバルという2万7000人の小都市のクラブがリーガエスパニョーラで残したものとしても重要だ」

──でも、周りはお祭りムードかもしれませんよ。

 「ファンや人々が喜んでくれるのはうれしいし、お祭りムードであっても良いよ。努力と練習を楽しむことで良い結果が出ているが、緩むことは決してしない」

──欧州カップ戦出場という目標も頭をよぎるのではないですか?

 「欧州カップ戦を目標とするのは大袈裟だと思う。私たちの最大の目標は残留で、その次が選手たちを10位以内に導くこと。もし残り4、5試合の時点で欧州カップ戦出場権に手が届くようなら、『目標は欧州カップ戦だ』と言おう」

──つまり1試合、1試合やって行くということですね。

 「そうだ」

──去年2月にお会いした時は、チームは下り坂にあり負けが込み始めていました。ですが今季は違うようですね。

 「その通りだ。昨季のようなことは起こってほしくない。昨年の今頃は何試合か負けても10位以内にいたが、チームが良い状態ではなかった。シーズンが終わった時には14位だったが、10位以内にいた私たちからするとこれは最悪の順位だった。今季のチームは昨季より良い。控え組が出た時でも昨季よりも貢献してくれているからね。昨季の二の舞はないと思っているが、私たちは限界までプレーするという意識を徹底させるつもりだ」

──選手のクオリティが昨季とは違うということですね。

 「そうだ。今季の選手の方がコンペティティブだ。リーグ戦とカップ戦で水曜、日曜のペースで試合があり、多くの選手を代わるがわる起用する必要があったが、私たちの戦いのスタイルを変える必要はなかった。(コパ・デルレイでは)準々決勝まで進んだしね。今怖いのは目標を達成したことで油断してしまうこと。『やるべきことはやった』とね。だが、選手は個々の目標を持っているしチームは安住することなく最後まで戦ってくれると思う」

──「油断したら代えるぞ」とローテーションするのも一つの手段でしょうか?

 「ただ、ここ3試合ほどはほとんど同じメンバーで戦っている。チームが良い状態の時に大きく変更するのは好きではない。結果が出て、戦えている。例えばタカ(乾)は試合に出ないよりは出る方が多いけど、ベンチを温めることもある。こういうふうに11人のレギュラーのうち2、3人を代えていくというのはやるけどね。しばらくすると日曜、水曜ペースで試合が続くようになるが、その時は疲労回復のためにローテーションが必要になるだろう」

プレー哲学とモチベーションの関係

すべてのアイディアは尊重するが、私は前へ行きたい。選手たちもやる気を見せ私を支持してくれている

──昨季あなたはエイバルのプレースタイルについて「前からプレスをかけてボールを奪い直線的に相手ゴールを狙う、アグレッシブで攻撃的なチームだ」とおっしゃっていましたが、このスタイルは今も同じですか?

 「プレーのアイディアは同じだ。だが、今の方がより実践できている。選手はアイディアをより良く理解しているし、それを最初から信じてくれた。私のチームは敵陣でプレーしボールを奪い、それをポゼッションする代わりに真っ直ぐ相手ゴールを目指す。すべての監督のアイディアは尊重するが、私は前へ行きたい。相手チームが同じ戦い方だった場合、試合が行ったり来たりでコントロールを失った状態になるのは仕方ない。そんな時はミスをしなかった方が“猫を水場に連れて行く”(嫌がる相手を制し目的を達成する)ことになる」

──エイバルの43得点は上から5番目です。この数字はあなたを満足させるものでしょうか?

 「そうだ。もっとも、私たちは失点も多い。確か38失点だったか。『上位にいるには失点し過ぎだ』と言う者もいるだろう。だが私はいつも言うんだ。ゴールを決めるために前へ行けば、どこかに足りない部分が出てくるのは仕方がない、と。前に出てゴールする能力があるからこそ、ゴールを奪われることだってある。私は思う。どうして0-0の方が1-1や2-2より良いのか? どうして1-0勝利の方が2-1勝利よりも良いと言えるのか? ゴールをする能力を持っていながら、引いてそれを発揮しない手もあるのかもしれないが……。どっちかなんだよ。前も後ろも素晴らしくするというのは困難だ」

──つまり、あなたの攻撃的な精神は維持されているということですね。

 「選手たちもプレーでやる気を見せるという形で、私の考え方を支持してくれている。私は満足している。もし違うタイプの選手たちが集まっていたら、私の方がプランを変えないといけなかったかもしれない。彼らのような選手に恵まれたこととプレースタイルの両方に満足している」

──最初の30分間の得点16はリーガで2位というデータもあります。

 「私たちがどう試合を始めたいかを表すデータだね。でも同時に、試合終盤に失点が多いというデータもあるんだよ(笑)。すでに言った、前へ行けば後ろが脆くなるのと仕組みは同じなんだ。高いインテンシティで相手を驚かせたいが、90分間それを維持することはできない。相手にもコンペティティブな選手がいて、押される時間帯も出てくる。私は終盤を、リードしていて失点しても引き分けという状態で迎えたい。同じ負けるにしても終盤をリードされた状態で迎えて負けるよりは良い」

──チームの自信や精神的なダメージも違いますしね。

 「そうだ」

──昨夜オサスナ戦(1-1/エイバルが72分に先制するもオサスナが追いつく)を見ましたが、同じようなことが起きました。

 「0-2でロッカールームに引き上げるべき、前半で勝負を決めておくべき試合だった。オサスナのような下位に低迷するチームは0-2なら諦めてしまい、私たちの好きにプレーさせてくれたことだろう」

──心理的なものですよね。

 「そうだ。それを殺さずに生かしておくから彼らだって良い時間帯を迎えて、負ける寸前まで行った。私たちにはゴールを絶対に決めたい、相手を殺したいという意欲が欠けていた。良いプレーをして試合を支配して好機をたくさん作ったことに満足してしまった。闘牛士や殺し屋の本能に欠けていた」

──その本能を植えつけるのはあなたの仕事ですよね? 何をすればいいのでしょうか?

 「もちろん私の仕事だ。ハーフタイムに、選手たちにこう言ったんだ。『こんな試合で、0-0で前半を終えてはいけない』とね。シュートを外してもいい。それは私にはどっちでもいいんだ。だが、意欲が欠けるのは駄目だ。昨夜は相手のエリア内での意欲に欠けた。タカには3度のチャンスがあり2度GKにセーブされた。エンリッチは3度センタリングに反応したが、本当にゴールをしたいという気があったのか? 勝ちたいから焦ってミスをする。GKに止められても枠に飛ばなくても、私にはどうでもいい。だが、勝利への渇望が足りないのは許さない」

第7節レアル・マドリー戦では敵地で1–1のドロー。開始6分で先制に成功した戦いぶりに、メンディリバル監督の掲げるスタイルが如実に表れていた

練習に表れる一体感

先発組が自主的に、控え組の練習を見守っている。私がこのチームの好きな点だ

──練習の様子を見ていましたが、選手の近くにいて叫び励まし怒鳴る姿は昨年と同じでした。

 「練習の時間は短い。今日は休憩を入れて1時間ちょっとだが、普段は中断抜きで1時間15分はやる。ミスを修正する際に練習を止めないのが私のやり方。リズムを途切れさせることなく選手を疲労させ、『気持ち良かった』と言わせて練習を終えたい。その間ずっと修正して、励まし怒鳴り続けている。たぶんもうちょっと止めた方が良いのだろうが、これが私の練習のスタイルだ」

──あなたの性格そのもので、選手にも伝染しているんじゃないですか?

 「そうだな」

──興味を引かれたのは、昨日の試合で先発した選手たちが居残ってずっと練習を見ていたことです。いつもそうしているのですか?

 「彼らが自主的にやっているんだ。普通は、前日先発した選手は30分ほどの回復セッション後、マッサージなどのために引き揚げるものだが、その代わりに控え組の練習を残って見ている。グループとして非常に重要なことだと思う。控え組もレギュラー組の支持を背中に感じることができる。寒いからだとか雨だからとか言って、すぐに引き揚げシャワーを浴びて帰って他の者のことを忘れる方が簡単だ。ここも私がこのチームの好きな点だが、私が命令しているのではない。彼らが自主的にやっている」

──「エイバルはどうプレーするかを知っている」とよく言われます。こういうコメントも監督としてはうれしいのではないですか?

 「私たちがどうプレーすべきか知っているのは、結果が出ているからだ。同じやり方をしてもチームや選手の能力によってうまく行かないことがある。やりたかったことは同じだが結果が出ず、私は何度も更迭されている。私がこのスタイルで別のチームへ行っても選手の特徴と合わなければ、私が変わらなくてはならない。とはいえ、そんな時間はなく4、5試合結果が出なかっただけでクビを切られることもある。だが、このチームは違う。昨季からの選手は私のやりたいことをわかっていたし、新しい選手もうまくはまって、昨季の選手の流れについていった。だから今季はうまくいっている」

──セビージャでの試合の記者会見であなたは「チームは良くやったが強敵相手には何かが足りない」と言っていました。ビッグクラブに善戦するだけでなく勝つためには、何が足りないのでしょう?

 「敵陣でボールを奪うには走らなくてはならない。ビッグクラブになればなるほど良い選手がいてボールを奪うのは簡単ではなく、余計に走らされる。昨日のオサスナ戦では敵陣深くでボールを奪い支配できたからあまり走る必要がなく、相手ゴールに近づくことができチャンスを作れる。対セビージャ、対バルセロナ、対レアル・マドリーでは走らされボールの奪取地点も低くなる。奪った時にはフレッシュでないから良いラストパスを出せなかったり、敵陣深い位置でもないからアドバンテージをすぐに失う。セビージャ戦で足りなかったのはそこ。奪ってから本当のゴールチャンスを作るラストパスまでのプロセスが欠けていた」

──資金力の差に責任を押しつけたくなりませんか?

 「それはそうだ。セビージャなどは自分たちで金を出してお気に入りを買うのだから、テクニック面で良い選手というだけではなくフィジカルの強い選手がそろっている。例えばRマドリーだ。ベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ(ロナウド)は身長183cm以上でテクニック面で素晴らしいだけでなくフィジカル面でも世界有数だ。プレスをかけて何度かボールを奪うことができるだろうが、彼らの体力は落ちず自分たちは落ちていく。だからと言って、前へ行かずプレスをかけないとボール奪取点は低くなり相手ゴールから遠くなってしまう。だから、私は前へ行く」

“タカ”への愛ある苦言

ボールを持っている時は、私が言っていることに耳を貸さず自分のできることをすべきだ

──では、最後に乾選手の話をしましょう。

 「ずい分回り道だったな(笑)」

──彼には満足していますか?

 「ああ」

──昨季よりも?

 「そうだが、それは当たり前のことだ。1年目は何もかもが新しく、私やチームを理解できず私たちも彼のことを理解できなかった。日本という文化の違う国の出身だし、とても内気でグループに入って行くのに苦労していた。彼は指示されたことをしたいと思っており、その点では非常に従順だったが、昨季はグループの流れに乗り切れなかった。今季はチームメイトも私も彼により満足しているし、彼自身ももっと満足していると思う。確かに彼の性格からして相手に対し“俺はかなり良い選手だから自分のプレーをする”と言う大胆さには欠ける。相手が近づくと体を入れられたのだか何だか知らないがボールを失い、我われは背走しなければならない。フィジカル的に弱いわけではない。体の入れ方次第でファウルをもらうこともできるはずだが、彼はファウルを誘えない。ボールロストはピンチに直結するのだから、ここは改善点だ。プレーに関しては周りとは良く連係できている。だが、ゴールに関しては内気なせいか自信が足りない。昨夜も3本シュートして2本はGKのナイスセーブで止められ、1本は外した。意欲はあるが“俺はここにいる。俺は相手より上だ”という自信が足りない」

──日本人が従順過ぎるという点もあるのでしょうか?

 「日本人のことはあまり知らないが、君らは従順過ぎるとは思う。特に昨季は『私なんか無視して自分のサッカーをしろ!』と繰り返すのに疲れたよ。ボールを持っている時は自分のサッカーをしないといけない。ボールを持っていない時はチームのためにプレーし、私の言うこともだいたいは聞かねばならない。ボールを持っている時は私がベンチで言っていることに耳を貸さず自分のできることをすべきだ。大胆になれということだよ。少しずつ大胆にはなっているが、ゴールするにはまだ自信が足りない」

──昨夜のオサスナ戦でも交代する直前にボールロストがありましたね。

 「そうなんだよ。君らが気づいてくれて良かったよ。3本の良いシュートを放ち攻撃面では良かったのに、と(交代に)文句を言う者もいたかもしれない。だが、サッカーとはすべて満遍なくなんだ。しかもだ、自陣でドリブル中にDFが前でパスを待っている状態でのボールロストだから守備が対応できず、失点の重大なピンチになる。こういうミスから彼は学ばないといけない。ボールロストをしたら彼が最初の守備者となってチームを助けないといけないんだ」

──タカとのコミュニケーションはどうですか?

 「すべてを理解している。あまり話かけてはこないが、それは彼が内向的だからだと思う。私も4カ月イングランドにいて毎日語学学校に通っていたが、教室の外では恥ずかしくて話せなかった経験があるから。そんなふうだから学ぶのは難しかったんだけどね。理解はすべてできていると思うが、チームメイトや私と話すのは苦労している。今シーズンは最初は通訳がついていたが、私が辞めさせた」

──あなたが辞めさせたのですか? それはどうして?

 「昨シーズンから一緒に居て私が説明していたことはすべて理解できていたし、通訳のいる状態に安住してほしくなかった。それでも今の方が良いと思うよ。ただ、内気過ぎてサッカー以外にチームメイトとの生活が持ててないのが残念だけど」

──今日は長い間ありがとうございました。1年後はあなたと欧州カップ戦の話をしているよう祈っています。

 「そうだと良いな(笑)」

このインタビュー時点ではまだ今季得点がなかった乾だが、その後バルセロナ相手の2ゴール(写真)など3ゴールをマーク。メンディリバルの言うゴールへの姿勢を結果で示してみせた

José Luis MENDILIBAR Etxebarria
ホセ・ルイス・メンディリバル・エチェバリア
(エイバル監督)
1961.3.14(56歳)SPAIN

バスク自治州サルディバル生まれ。アスレティック・ビルバオのBチームであるビルバオ・アスレティックで選手キャリアをスタートするも、15年間の現役生活で1部の舞台に立つことはなかった。33歳で引退して指導者としての道を歩み始め、アスレティックのユースやバスク地域の下部リーグ所属クラブで監督を歴任。その後、04年に当時2部だったエイバルの監督に就任しチームを4位に導く。翌シーズンにアスレティックの監督に抜擢され1部初挑戦を果たすが、成績不振によりわずか3カ月で解任されてしまう。しかし06年から率いたバジャドリーで1年目に1部昇格を成し遂げ、さらに11年には降格の危機にあったオサスナを9位フィニッシュさせ評価を高める。そして15年6月、エイバルの監督に復帰。初年度となった昨季、前半戦を6位で終える快進撃を見せ最終的に14位で残留を勝ち取ると、今季はシーズンを通して安定したパフォーマンスで中位を維持している。

COACHING CAREER
1994-96 Arratia
1997-99 Basconia
1999-00 Bilbao Athletic
2000-01 Basconia
2001-02 Aurrerá
2002-04 Lanzarote
2004-05 Eibar
2005   Athletic Bilbao
2006-10 Valladolid
2011-13 Osasuna
2014   Levante
2015-  Eibar

Cooperation: J SPORTS『Foot!』
Photos: Getty Images, J SPORTS『Foot!』

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エイバルホセ・ルイス・メンディリバル乾貴士

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。