SPECIAL

乾貴士が日本人選手の“鬼門”リーガで成長を続ける秘訣を語る

2017.06.01

このチームが大好き。今が人生で一番楽しいかもしれない

INTERVIEW with
TAKASHI INUI
乾貴士
(エイバル)

16-17シーズンのリーガ最終節、バルセロナ戦で手にしたインパクト大の2ゴールを手土産に自身約2年ぶりとなる日本代表入り。ドイツからスペインに渡り、海外生活6年目のシーズンを終えた乾貴士は、日本人にとっては鬼門の地となっているスペインで、のびのびとプレーを楽しみ、日々成長している。

なぜ、彼だけがリーガエスパニョーラに適応できたのか――? その秘密をじっくりと語ってもらった

通訳はいる? いらない?

1年目は戦術理解が重要になってくるので付けてもらった方がいい

──まず今の試合出場数19試合、うち18試合先発には満足されていますか?

 「そうですね。もちろんもっと出たかったですし出てなかった時期もあったので。それを考えると満足はしてないですが、出てない時期に比べて出られるようになりましたし、そこは自分の中でポジションを取り返したじゃないですけど、争えるところまできたのかなと。そういう面では良かったなと思っています」

──課題というのはゴールってことになりますかね?

 「もちろんそうですね。もしこの18試合で5、6点取れていればもっと試合に出られていたかもしれないですし、フル出場できた試合も増えたんじゃないかと思います。ただそれができていないのは自分の実力です」

──リーガに来て2年目ですけど、去年に比べて成長したとかプレーしやすくなったとは思いますか?

 「そうですね。プレーの波もなくなってきましたし、自分の中で全然納得のできない試合がやっぱり去年まではありました。今はそこまで酷い試合はないので、そのへんは成長しているんじゃないかなと思います。ただ、ゴールというところはもっと成長させていかないといけない。メンディリバル監督の戦術面、特に守備面は去年よりは理解できてきたなと自分でも感じています。前の選手である以上ゴールが求められるんですけど、メンディリバルはそこばかりを見ている人ではないので。そこばかり見ている監督だったらたぶん18試合も使ってもらってないですし、もっと早く『もう使えへん』となって終わっていた。実際、『それ以外のところで貢献してくれている』と言われたこともあります。自分にとってはありがたいことですし、総合的に去年より成長しているのかなと思います」

──今朝メンディリバル監督と話をしてきたんですけど、守備が良くなったとは言っていましたよ。

 「そうですか」

エイバル加入2年目でメンディリバル監督からは守備面の向上を評価された乾。第19節のバルセロナ戦でも対面したメッシと激しくやり合った(Photo: Getty Images)

──グラウンドで監督とはスペイン語でコミュニケーションされていますか?

 「はい」

──「タカは言葉はわからないかもしれないけど、言っていることをつかむのがもの凄く速い」、「スペイン人にスペイン語でしゃべっているよりも勘が良くて速い。頭の良い選手だ」と去年会った時に言っていましたよ。

 「どうですかね(笑)。選手の動きとか見ながら練習の内容とか想像しています。なんか場面、場面で言っている監督の意図は、そこまで言葉がわからなくてもわかります。ドイツの時からそうですが、監督の言っていることを聞こうじゃないですけど、どうにか理解しようとは意識しています」

──意図をつかむってことですよね。

 「そうですね」

──今日もグラウンドでランニングしているところを見させていただいていたんですけど、走る前にスペイン人のチームメイトと冗談っぽく話をしていましたけど、あのへんのスペイン語は全然問題ないということですか?

 「ああいうのはもう大丈夫ですね。聞く分には言われていることは何となくわかります。ただ、それを言い返せないというか」

──なるほど。私もそうだったんですけど日本人は聞けるし文法なんかも割とできたりするんですが、言い返せない。すると向こうは冗談とかで結構いじってくるというか、やってきますよね。

 「そうそう。だから僕、悪い言葉ばっかり使っています(笑)。悪い言葉は全部ある程度覚えています。教えてくれるんで。それを言い返しているという感じです」

──最初あれイジメじゃないかと思うこともありますもんね。

 「そうですね。まあでも、スペイン人は基本笑いながら言っているんで全然大丈夫です。ドイツ人の方は真顔で言う感じなんで、スペイン人の方が全然ましですけどね」

──付き合いやすいという意味では付き合いやすいですか?

 「笑顔も多いし冗談が多いので、ある程度冗談だとわかることが多いからそんなに気にしないですね」

──そういうジャブのやり取りというコミュニケーションができるようになったから、チームの一員という雰囲気ができているんですね。

 「でも今年からですけどね、それも。2年目でキャンプから一緒にやることができたので。去年はキャンプにも一緒に行けなかったですから。今年は一緒にいる時間が長かったので、そういうところでいろいろコミュニケーションが取れるようになりましたし、まあ悪い言葉を教えてくれる選手が増えたので(笑)」

──誰が教えてくれるんですか? 誰と仲が良いのですか?

 「いろいろ仲が良いですよ。マウロ(ドス・サントス)とかゴンサロ(エスカランテ)、ペーニャ(ルベン・ペーニャ)とかダニ(ダニ・ガルシア)とか。基本このチームは仲が良いので」

後列右から2番目がマウロ・ドス・サントスで同左から3番目がエスカランテ、そして前列中央でキャプテンマークを巻くのがダニ・ガルシア(Photo: Getty Images)

──1年目は日本人の通訳(岡崎篤さん)の方がいらしたじゃないですか。メンディリバル監督に聞いたら「もう通訳はいらないだろって言ったんだ」と言ってました。
「どうするんだろと思っていたんですよ、今年は。自分では正直どっちでも良かったんですけど、付けたらやっぱり頼ってしまうところがあったので。キャンプは1人で行っていたんで通訳さんなしで、そうなると自分からコミュニケーションを取ろうとする。やっぱり通訳さんがいると通訳さんとしゃべって頼ってしまうので、どうしても会話がスムーズにいかない。会話はできるけど間を挟んでいるから、ちょっと違うのかなというのもあって。監督もやっぱりそういうことを感じたみたいで、必要ないやろと。だからもう大丈夫です、と」

──今シーズンはキャンプの段階から1人ですか?

「キャンプから戻って1週間くらいは付いてもらったんですけど、そこからは基本はなしです」

──セビージャはクラブの方針として通訳を付けないんです。だから清武選手にも通訳を付けなかったんですね。それについてはどう思いますか?

「最初はやはり付けてもらった方がいいと思います。まったくわからない状態なので。僕は1年目週2、3回でしたけど来てもらって本当に助かりました。監督と通訳さんを挟んで会話をしたことが何回もありましたし、そういうところは大事になってくる。2年目からはいらないという判断はありかもしれないんですけど、1年目はどうしても戦術理解とか特に大事になってくるのでいると思います」

監督との関係

全員に公平にできる人。誰にでも言うし、“絶対”がない

──メンディリバル監督がもう1つ言っていたのは『日本人の性格だと思うけど、言うことを聞き過ぎる』と。

 「言うことを聞き過ぎる。よく言われます、それも」

──「もっと自分の技を我がままに出せ」と言ってました。去年も言っていたんですが、今年はだいぶ出せるようになった、とトーンは下がっていましたけど。

 「よく言われますね、それも。どの人に聞いてもやっぱり監督はこう言ってたぞ、というのはそこですね。出しているつもりではいるんですけどね。たぶんもっとできると期待してくれているんだと思いますし、型にはまり過ぎている部分もあるかもしれない。まあそこはちょくちょく出していければ良いと思います。ただ全部がそうなっちゃうとチームのバランスが崩れたりするので、自分がバランスを崩しちゃうとチームに迷惑がかかる。そのさじ加減は考えていきたいですね」

──周りのスペイン人選手を見ていると、そのへんはやはり日本人とは違いますか?

 「違いますね。自由にやれるし、言い返せるっていうのがでかい。自分の思っていることやプレーの意図を言い返せる。怒られた時に言い返せるっていうのがうらやましいですね。自分もそうしたいんだけど言い返せへん分ちょっと…… 怒られたら後で言い返せへんから『(無言で)……』となっちゃうんですよね。そこまで我がままになれないのはコミュニケーションのところもあるのかもしれないです」

──メンディリバル監督が昨日の試合(第27節オサスナ戦)のことで言っていたのはシュートも打っていて非常に良かったけど63分に代わったじゃないですか、その前にボールロストがあった、と。あれを少なくともファウルで止めてくれ、と。

 「ああ。そうですね。昨日それでめちゃ怒られたんですよ、試合後。もうボロカス言われて。まあでも確かに同じことを何回もやっているんで自分でもそれはわかっています。同じこと言われているなっていうのも。ああいうところでファウルをもらいに行くのもそうですし、何とか味方に繋げれば一番良い。自陣でボールを取られたというのもわかっています。そこは自分の改善点というか反省点というか。自分でもわかっているんですけど、なかなかできてないのが未熟なところですね」

──メンディリバル監督はどんな監督ですか?

 「めちゃめちゃ良い人ですよ。人としても良いですし監督としても優秀、自分が今まで出会った中では1、2ですね」

──どういうところが優秀ですか?

 「なかなか全員に公平にできる人っていないじゃないですか。チームに誰か王様がいてその選手には何も言われへんというのがあるんですけど、この監督は誰にでも言うし、“絶対”がない。だから今年もレギュラーは2、3人しか決まっていない。徹底して全員の選手に同じことをやらせるというのは凄いですね。あとは全員のことをちゃんと見ている。練習もそうやし、例えば紅白戦もこっち(前線)を向いているんやけど背後の選手がちょっとディフェンスが遅れたら、そのことをちゃんと見ていて怒れるのも凄いですね」

──今どき練習の最前線であれだけ大声を出す監督はなかなかいないですよね。

 「あれだけボロカス言う監督はなかなかいないですよね(笑)。サンパオリもそうかなぁ? あの人も結構言いますよね。でも全員に同じように言いますかね?」

──サンパオリにはチーム内のヒエラルキーがありますね。

 「個人的な感想としては、そういう監督って出てない選手からは嫌われることが多いじゃないですか。でもこの監督(メンディリバル)は嫌われない。みんなに同じように言うし、言っていることが正しいし、選手に言い返されて言い合いにはなりますけど、別にそれで嫌いになるとか選手を見切るってことはないので。そういう面で凄い監督だなって思いますね」

──やっぱり選手にとって公平に扱われるというのはうれしいものですか?

 「なかなかないんですよ。今までの監督を見ても例えば日本人監督はやっぱりベテランには優しいとか、、若手にだけ言うってことも多い気がしますし、そういう部分が見えてしまうとやっぱりどっかで『?』となるんですね。でもこの監督は誰にでも言えるし凄く良い監督だと思います」

──監督に恵まれたということですね。

 「それはめちゃめちゃ思いますね。チームメイトもそうですし。このチームに来たことは恵まれていました」

エイバルでの生活

サッカーさえしっかりやれていればいい。日本ではいろいろ考えるけど海外では楽

──よく決断されましたよね。エイバルって小っちゃいクラブですよ。

 「全然知らなかったというのもありますよ(笑)。僕はスペインに行きたかったので、どこへ行くとかいうのは特にこだわりはなくて、スペインでプレーできるならどこでもいいと思っていました。でオファーをくれたのがエイバルでした。自分にとっては本当にうれしいことでしたし、念願というかスペインにずっと行きたくてやっと来たオファーだったので、もうすぐに『絶対に行きます!』となって、何も考えることはなかったです」

──そうしたら良い監督がいて良いチームメイトがいた、と。

 「そうですね」

──エイバルは人口2万7000人ですけど、どうしようとは思いませんでした? フランクフルトは60万人以上いるんですけど。

 「でも別に自分はそういうのあまり気にしないんで。街がどうとかあまり興味がないんですよ。良い街に住みたいと言う人もいると思いますけど、全然そういうのが興味なくて普通に生活ができればいいんです。ご飯のこととかは考えちゃいますけど」

──それは考えるでしょう。日本食のレストランだってエイバルにはないでしょう?

 「日本食レストランはビルバオまで行けばありますけど。でも基本、日本人の方に作りに来てもらっているんです。たまたまスペインで働いている日本人の方がいたので、その人に週2回来てもらっています」

──やっぱり日本食ですか? そこはちょっと難しいですか、スペインの食事は?

 「基本は日本食ですね。でも、全然スペイン料理も食べますよ。ドイツ料理に比べたら全然おいしいと思います(笑)」

──食事時間が遅いとかはないですか? 今3時過ぎですけどこの時間こっちだと食事じゃないですか、そういう習慣の違いは気にならなかったですか?

 「そうですね、全然って言ったら嘘になりますね。まあ気にはなりましたよね、夜とかは特に。普通に晩ご飯が9時? とか思いながら(笑)。習慣がそうなんでやっぱりその料理人の方も働いているので来てくれるのが遅くなるんですよ。だから晩ご飯も遅くなりますし。そのへんも最初困りましたけど慣れましたね」

──エイバルの市内にお住まいですよね。ビルバオに住んでいるチームメイトもいますけどなぜエイバルに?

 「ビルバオとかサンセバスチャンに住んだら練習場まで1時間かかるんで。朝から1時間の移動は無理ですね(笑)。ここからで30分なんでそれがギリです」

──でも小さい街だから歩いていると絶対声をかけられる。

 「今も家から歩いてきましたけど何人も声をかけてくれましたね」

──それがプレッシャーだとか嫌だなとかは思わないですか?

 「全然ないですね。それで止められてバーッとしゃべりかけられたりではないので。頑張れよ、なんてこんなんで(片手を挙げて挨拶)終わるので。まったく嫌じゃないですよ。温かい人たちなんです」

──日本人がよく来ているせいか、私も街の人たちから声をかけられました。そういう環境もスペインで成功するためには大きかったんでしょうね。

 「そうですね。凄くストレスのない環境でやらせてもらっているというのは思いますね」

──さっきドイツとスペインを比べてスペインの方が良いですって話もちょっと出ましたけど、ドイツの方が成功している日本人選手多いじゃないですか、スペインの方が少ない。ドイツの方が向いているとよく言われたりしますけど、そのあたりは乾さんは別の考えをお持ちですか?

 「日本人の頭の良さを考えるとドイツの方が成功しやすいんだと思います。ドイツ人の頭が悪いというわけではなくて、スペイン人ってやっぱり頭が良いじゃないですか。戦術とか」

──サッカー的なインテリジェンスが高いという意味ですね。

 「そう。やっぱり戦術理解力が高いとか、まあそういうところでね。今ドイツで活躍しているのって前の選手とSBじゃないですか。あとボランチ。やっぱり頭が良くないと、特にSBとボランチは頭が良くないとできないんで。そうなってくるとドイツ人のSBよりも状況によって絞ったりというふうに日本人は気が利く。あと前の選手でそういうタイプがドイツ人にあまりいない」

──気が利くタイプがあまりいない?

 「気が利くタイプというより小回りが利く。そっちですね。しかもテクニックがあってというのはドイツ人にはそこまでいない。トップレベルになるといますけど中間のレベルのチームにはあまりいないと感じました。スペインでは僕みたいなタイプがいっぱいいます。体が小さくても強くてテクニックがあって速いスペイン人というのはいっぱい見てきたんで。そういうところで(ドイツの方が日本人は)成功しやすいのかな。あとは外国人枠がないからドイツへ行きやすいというところはありますね」

─生活面では乾さんにはスペインが向いているということですか?

 「生活はどっちもあまり変わらないです。フランクフルトには日本食レストランがあって、過ごしやすかったというのはありますけど。そんなに普段の生活にこだわりがないんですよ。食にも興味ないし、観光とか街並みとかにも興味があんまりないので」

11-12シーズン、ドイツ2部のボーフムから乾の海外挑戦は始まった。大柄な男たちの間を軽やかに抜いて行くドリブルで7ゴールを挙げ、1シーズンで1部のフランクフルト移籍を勝ち取った(Photos: Bongarts/Getty Images)

──サッカーに集中できれば良いという感じですか?

 「サッカーさえしっかりやれていればいいって思ってます、こっちでは。日本ではいろいろ考えちゃいますけど海外では楽ですね」

──海外の方が気が楽ですか?

 「全然楽ですよ。家族は日本に住んでいるので1人の時間がこっちでは多い。だから暇はめちゃめちゃありますけど。でもゆっくりできる時間もその分あるので、リラックスして毎日過ごしています」

──寂しいってことはないですか?

 「ありますよ。やっぱり子供に会いたいなと思います。でもこれは自分が選んだ道なのでここに住むって決めたのも、このチームでやるって決めたのも自分なので。そこに対して言い訳していたら家族にも申し訳ないし、子供にもね、我慢して離れ離れに暮らしているのにこれで弱音吐くのもおかしいので。そのへんは言わないようにしています」

──スカイプでお話しをしてたりはしているんでしょう?

 「それはしています。毎日顔を見て」

海外挑戦の価値

岳の挑戦を否定するのは理解できない。困難を経験したことで挫けないようになる

──今回清武選手が残念ながら半シーズンでセビージャを出て行くことになってしまって、その後柴崎選手がテネリフェに来てベンチ入りはしましたけど、その前に適応のことでトラブルもあった。日本人のスペイン行きあるいは海外行きに対して否定的な意見も出ている。それについてはどう思いますか?

 「僕は何で否定をするのかわからないですね。もちろん日本でやり続けることは凄く良いことだと思いますし、別に海外に出ることが凄いってことではないし、海外でサッカーをやっていること自体が凄いわけではない。どこでも活躍していたら凄いです。ただ、日本がワールドカップでいいところまで行くためには絶対に海外のサッカーを知らないといけない。海外の選手の方が足が長いとか、こんなところで足が出て来るのかとかはこっちに来ないと体験できない。そういうことを考えると、海外に出ることが世界に近づく1つの有効な方法ですよね。同時に日本代表が欧州のチームと試合をすることも必要で、もっとやれれば一番なんですけどね」

──将来の日本サッカーの可能性を広げるための海外行き、ということですね。

 「それは絶対あります。自分はもう5、6年くらいいるので、そういうやりがいを感じています。岳(柴崎)は最初苦労しているみたいですが、そこから自分で頑張って、いろんな人にも助けてもらいながら、ベンチ入りして、もうすぐ試合に出られるところまでたどり着いた。それは岳にとって凄く良い経験ですし、それを経験したことでこれから困難があっても挫けないようになると思うんですよ。(若い選手がそうした苦労を積み重ねることは)日本代表にとっても絶対大きい。岳が着いてまだ1、2週間で『岳のことを(失敗する海外移籍の)良い例だ』と否定的に言う人もいた。自分にはそれが理解できない。何でそんなことが言えんのかな? 本人にしかわからないこともあるじゃないですか。それを1、2週間でそういうふうに言うのは自分は納得できないですし、もっと長い目で見てあげるべきやろって」

──温かさがちょっとない。

 「そうですね。あと出られてない選手はいっぱいいますから、海外でも。その中でいろいろもがくのは、選手としても人間としても成長できるチャンスなので。試合に出ないと意味がない、というのは選手一人ひとりが絶対にわかっていることなんです。ピッチに立つことを求めて来ているんだから。最初からベンチでいい、なんて選手は誰もいないし、そこで満足する選手はたぶん海外には来ないです。何か考えがあって日々を過ごしているはずですし、1、2週間出てないからって即批判するのは間違いなんじゃないかと凄く思いました」

──乾さん自身は海外に出て変わったって言われますか?

 「どうですかね。あんまり変わったって言われることはないですかね」

──タフになったとか。

 「自分ではスペインに来てからの方が試合に出ていない時でも批判は言わなくなりました。正直ドイツにいる時は、試合に出られないことに対してや監督やチームへの批判? 意見? を言う時もありましたけど、スペインのこのチームに来てからは一回もないです。自分が出れなかったのは自分のせいやし、監督が決めたんやから仕方ない、この選手が出ているから仕方ない、この選手よりも自分が劣っているというふうに思える。ただ負けたくないというのはあります。監督は公平に見てくれているのでチャンスはある。そのチャンスの時に自分が頑張ればいいと考えられるようになりました」

──それはエイバルというクラブの環境とメンディリバルという監督と乾さんの気持ちの持って行き方というのが重なって、嫌な言葉ですけど「逃げる」というのがなくなって自分の、自分のというふうになっていったということでしょうね。

 「そういうことだと思いますね。こっちに来て、人のせいにすることがあんまりなくなりました」

──チームメイトに凄く愛されているってクラブの人に聞いたんですけど。

 「愛されているかどうかはわからないですけど、みんな良いメンバーで凄く仲良くしてくれます。こんなスペイン語をしゃべれない自分にでも、ずっと気にかけてしゃべりかけてくれる。ずっと試合に出てて1回バレンシア戦でスタメンを外れた時にちょっと落ち込んでいたんですよ。その時に3日間オフがあってその次の練習かな? キャプテンのダニ・ガルシアが僕のところに来て『この間落ち込んでいたけどどうしたんや? 出れんかったからか?』と聞かれて『そうやで。でも大丈夫やから』と答えたんですけど。そうやって声をかけてくれたりとか、いろんな選手がいろいろ気にしてくれる。セルジ(セルジ・エンリッチ)とかも僕が全然点取れてない時に『全然お前大丈夫やから。点取れんかったけど良かったぞ』と励ましてくれた。ある時、僕が試合で全然良くなくて監督が僕に何か言おうとして近づいてきてわっと声を出した瞬間、ロッカーが横のセルジが僕が落ち込んでいるのがわかっていたから『今はもう止めとけ』と制してくれたり。みんながそうやっていろいろ気にしてくれることが海外で今までなかった。凄くうれしいし、このチームが大好きです。だからこそこのチームのために貢献したいなと凄く思います」

バルセロナ戦でゴールを挙げた乾に声をかけているのがセルジ・エンリク。今季11ゴールを挙げたFWとはピッチ内外で良好な関係を築いている(Photo: Getty Images)

──じゃあ離れられないですね、エイバル。

 「いや離れたくはないんですけど、契約の問題もあるし、そこはどうなるかわからない」

──ご自分の方からはもっと大きいクラブに行きたいとかはないんですか?

 「そういうのは別にそこまでないですね、今は。このチームでも上へ行けると思っていますし、今も良い位置にいますからね。監督も良い監督なのでもっとこの人にサッカーを学びたいというか、学ぶことはいろいろあるので。今のこのチームに凄く満足しています」

──最後に日本を離れて海外、ドイツあるいはスペインで挑戦したいという日本人選手にアドバイスをいただけませんか?

 「海外に行きたいなら、とにかくチームがどことかじゃなく2部とか1部とかそんなん関係なくまず行ってみることですね。そこで海外のサッカーを経験しないと、たぶん誰が何を言っても行ってない人にはピンと来ないです。行ったからこそわかることがいっぱいあるので、チャンスがあるならまずは行くこと。まずは踏み出すしかない」

──“スペイン逆風”なんて言われているのは気にしなくていいですか?

 「ここで活躍した人が今までいないのでそういうふうに言われるのは仕方ないのかもしれないですけど、気にしないでいいんじゃないですか。スペインに来たらスペインのサッカーのレベルの高さがわかる。それを経験できるのは良いことですし、俺はスペインに日本人選手が来てほしいですけどね。日本がこのサッカーを学んで目指してほしいという気持ちは凄くあります。だからちょっとでもその架け橋になれるような活躍を自分もしないといけない。もっと若い選手がスペインに来たいとなった時に日本人いいぞ、という評価をここで自分が勝ち取りたいですね」

──日本人選手にスペインのサッカーの良さをアピールするとしたらどこでしょう? ここが良いぞというのはありますか?

 「日本のリーグは結構繋ぐじゃないですか、スペインも同じような繋ぎなんですけど、もう1個レベルが上というか。プレッシャーが速い中でも凄い技術やアイディアを出せるのがスペインですね」

──戦術のレベルは高いですか?

 「戦術も面白いですよ、わかれば。守備をやってても『ああこういうふうにやるんや』と理解していけば凄く楽しいです。『こうやったらこうはまっていって、取れるんや』というのが理解できれば」

──ということは、スペインでの経験で乾さんのサッカーの理解自体も深まっているということですね。

 「深まりますね。だって自分がもし監督やったらこういうサッカーをこの人みたいなサッカーをやりたいなと思いますもん」

──メンディリバル監督?

 「はい。この人のサッカーが一番理に適っていると感じる」

──結構前からどんどん行きますよね。

 「そうなんですよ。そっちの方がやっていても楽しいんですよ。それがはまった時とか特に楽しいですね。はまらなかったら最悪ですけど(笑)。でもやっぱり凄く楽しいですよ。日本人がこういうサッカーを目指してほしいなと思います。こういう監督が理想ですね」

──そこまで心酔している監督の下でプレーできるなんて幸せなことですよね、サッカー選手にとっては。

 「そうですよ。だから今が人生で一番楽しいかもしれないです」

──それは素晴らしい。

 「難しいですけどね。やることがいっぱいあり過ぎて頭がこんがらがりそうになることはあります」

──怒られもする。

 「はい。へこんだりしますけど。でもやっぱり楽しいですよ。理解しようと思うようになりましたし。なかなかないですね、こんなことは」

──初めての経験じゃないですか? 監督の立場というか上から見て戦術を理解しようと思うのは。

 「そうですね。だから監督やりたいと思うようになりました」

──やりたくなりました、やっぱり。話をうかがっていてそうかなと思っていました。

 「なりたいって思いますよ、今は。でもまあ実際は難しいとは思いますけど(笑)」

──充実している様子が伝わってきました。今日は長い時間ありがとうございました。

当日は取材場所となったエイバル市内唯一のホテルに「自宅から歩いて来た」という乾。リラックスした様子が写真からも伝わってくる

Takashi INUI
乾 貴士
(エイバル)
1988.6.2(28歳)169cm / 63kg MF JAPAN

滋賀県近江八幡市出身。地元のセゾンフットボールクラブを経て、04年に野洲高校へ進学。05年の全国高校サッカー選手権では“セクシーフットボール”と呼ばれた攻撃サッカーの中心選手として優勝に貢献した。卒業後、横浜F・マリノスへ加入も出場機会を得られず、08年6月から当時J2のセレッソ大阪へレンタル移籍。20試合6得点と才能が開花し、シーズン終了後に完全移籍が決まった。翌09年シーズンは、クラブ4年ぶりとなるJ1昇格に寄与。11年8月に初の海外挑戦となるドイツ2部のボーフムへ加入すると、チームトップの7得点を決め、翌シーズンから1部に昇格するフランクフルトに引き抜かれた。ここでも初年度からレギュラーの座を確保し、ブンデスリーガで3シーズンを過ごす。15年夏にエイバルへ活躍の場を移し、突破力のある左サイドMFとして存在感を放っている。

PLAYING CAREER
2007-08 Yokohama F. Marinos
2008   Cerezo Osaka *
2009-11 Cerezo Osaka
2011-12 Bochum (GER)
2012-15 Frankfurt (GER)
2015-  Eibar (ESP)
*on loan

Photos: Félix Morquecho

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インタビューエイバルスペインリーガエスパニョーラ乾貴士

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。