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WEB全盛の今、雑誌ができること。社会とサッカーが相互作用する時代

2017.06.01

フットボリスタ新旧編集長対談『フットボリスタと欧州サッカーの10年』

創刊10周年記念企画として実施した、木村浩嗣前編集長と浅野賀一現編集長の対談企画。欧州サッカーとそして社会。この10年、フットボリスタがつぶさに追ってきたそれぞれの変遷を振り返るとともに、激変するサッカーメディアのこれからについても語り合った。

創刊時のコンセプト


浅野「今回はフットボリスタ10周年記念特集ということで、あらためてフットボリスタと欧州サッカーの10年を振り返ってみたいと思います。まずは創刊時の話からしましょう。それまで木村さんは10年以上スペインに住んでいて外から日本を見てきたわけですが、日本の読者にどんな雑誌を届けたいと考えたのですか?」


木村「ちょうど日本がドイツW杯で惨敗したタイミングで、俺の偏見もあるのかもしれないけど、反応がナイーブだなと感じた。W杯ってスペインでも決勝トーナメント1回戦に進むのがやっとの大会で、日本の実力はスペインよりも劣るわけじゃない。メディアが他の伝統国と比較して、日本代表の立ち位置を誤って伝えているように思った。一般のファンを引きつけるためには『強い日本』を提示しなきゃいけないのはわかるし、一時的にはその方が儲かるかもしれないけど、それってビジネス側の考えなんじゃないの。大会前に持ち上げるだけ持ち上げて駄目だったら叩くというのが、スペインで俺が経験してきたファンのありようと違うなと」


浅野「スペイン人のファンはどう違いますか?」


木村「応援しているクラブが負けても変わらずファンだよね。スペインは2強が絶対的な存在で、例えば小っちゃいクラブなんて絶対優勝できない。勝つことより負けることの方が多い。でも関係なく応援し続ける。だから、フットボリスタを立ち上げた動機の一つとして、世界のファンやメディアがサッカーとどういう関わり合いをしているかを伝えたいという想いはあった」


浅野「だからこそ、週末の試合を中心にしたヨーロッパのサッカーのサイクルに合わせた週刊誌の形態にしたわけですからね」


木村「10年前は今ほど週中に試合がなかったので、本当に1週間のサイクルで回っていたからね。試合が終わった週中には疑惑の判定とか前の試合の話題を半分くらいして、残り半分は次の週末の試合の話。今はそうじゃないけどね。当時はCLがここまでクローズアップされていなかったから。今はヘタフェのファンもレアル・マドリーのCLの試合を見ていたりするから、欧州サッカーのありようもここ10年で大きく変わった」


浅野「僕が創刊前のブレストで印象に残っているコンセプトが何点かあって、そのうちの一つがインタビューの人選。有名選手ではなく、背後に語るべきストーリーのある選手を取り上げようという方針でしたよね」


木村「正直に言うと、立ち上げたばかりのメディアだったから有名な人は出てくれないんじゃないかというのもあったけど(笑)。ただ、世の中には成功者の話ばかりが出るじゃない。でも本当に内容のある話は失敗したり、挫折したり、苦労した人の言葉の方だと思うんだよね。日本もスペインも成功する人はほんの一握り。サッカー選手も小さなクラブでくすぶっていたり、ケガをしたり、監督に干されたりするじゃない。多くの成功者以外の人に向けて、共感したり、学ぶことがある話を届けたかった」


浅野「そういう話を聞くと、失敗者の教訓を掘り下げる特集をやりたくなっちゃいますね。その時はぜひよろしくお願いします!もう一つのコンセプトとして両チーム視点のプレビュー&レビューや予想もありました」

木村:「そうそう、やったね。サッカーには敵と味方があって、どちらに肩入れして見るかで同じ試合でも見え方が変わってくる。報道の基本は公正な視点だけど、一つ間違えると無味無臭の記事になってしまう。それだったら立場をはっきりさせて、『私』が入っている主観的な記事を両視点で並べた方が面白いというのが俺の考え」


浅野「ただ、そこは難しかったですよね。記事を書くには取材した根拠に基づいて書かなければなりませんし、『感想文』と揶揄する言葉があるように個人の感想を書きたがらない人もいます。外国人記者は特にそうです」


木村「外国人記者は『私』は入れたがらないけど、うまく主観は入れている。スペインメディアは試合レビューもコラム的というか、きちんと起承転結がある、その人だからこそ書ける記事なんだよね。逆に言えば、当時でもすでに『情報』はWEBにあったから、コラム的に書いて色を出してくれないと週刊誌でも成り立たない時代だった。価値があるのは情報の解釈の仕方で、そこを伝えるのが雑誌の役割。俺は日本のサッカーメディアの未来は日本人のライターやカメラマンにあると考えているから、そういう顔の見える記事を出して、顔写真入りのプロフィールを載せて、名前を売り出したいとも考えた」


浅野「当時の海外サッカー系の雑誌で現地在住の日本人記者を使うのは珍しかったと記憶しています」


木村「フットボリスタは日本サッカーを強くするために立ち上げた雑誌で、日本メディアの未来は日本人にあるから、日本人が書かなきゃダメというのがまずあった。もう一つは、現地在住の日本人が欧州サッカーのどこに驚いたのかを伝えてほしかった」


浅野「欧州の記者にとっては当たり前のことも、日本人にはそうじゃないかもしれませんしね。木村さんは当時の日本サッカーや社会の状況をどう見ていましたか?」


木村「2年間ほど日本に住んでいたけど、その間に日本のサッカー雑誌は読みまくったよ。同じことをしないようにしようと思って。社会は苛酷で、弱肉強食な競争社会になっていた」


浅野「スペインは経済的にはもっと厳しいですよね?」


木村「失業者が25%もいる国だけど、家族がセーフティネットとして機能しているから。日本は変な自由化が進んでいた。もちろん日本は安全でいい国だし、日本人は誠実で信頼できるから大好きだけど。俺の今の少年サッカーチームのコーチ、全員日本人だから」


浅野「日本に住んで、その後再びスペインに戻ることになるわけですが、スペイン在住編集長という体制はユニークでした」


木村「一番の理由は自分がライターとして貢献するため。日本にいてもサッカーの試合は見れるけど、スペインのメディアやファンに囲まれて生活するのとは伝わってくるものが全然違う。現場の雰囲気を肌で感じないと書けないと思った」


浅野「今リモートワークが注目されていますが、テクノロジーの進歩によって実現した制作体制ですよね。会議はスカイプでやっていましたし」


木村「ただ編集長としての仕事はできたけど、上司としては至らなかったと思うよ。さっきのスペインサッカーの話と同じで、同じ空間にいないと日本の編集部員が考えていること、喜怒哀楽がわからないから。そこはテクノロジーでは埋まらないよね。仕事はできるけど、人間関係は作れない。一生懸命やったけどね。その点、今の制作体制は発展版としていいんじゃない。海外とのパイプはそのままに、日本の雰囲気を肌で感じられるスタッフが日本の読者に向けて雑誌を作っているんだから」

スペイン時代の到来

EURO2008制覇で負の歴史に終止符を打ったスペインは、その後2010年W杯、EURO2012と主要大会3連覇の偉業を成し遂げる


浅野「ちょうど木村さんが戻った頃の2008年からスペインの時代が到来しました。潜在能力は凄いけど勝てないチームだったスペインが勝ったというだけでなく、ポゼッションサッカーの解釈が変わったサッカーの歴史の転換点でもありました。当時のスペイン国内はどんな感じだったんですか?」


木村「俺が日本にいた時の巻頭言で日本はスペインよりも先にW杯に優勝すると書いたことがあるんだけど、それくらいスペインは勝てないチームだった。長いことスペインを見てきた俺からすると、本当に歴史って一瞬で変わるんだなと思った。それまでは敗者のメンタリティが蔓延していたからね」


浅野「敗者のメンタリティって何ですか?」


木村「スペインの元代表選手が言っていたんだけど、EUROやW杯の決勝トーナメント1回戦まで進むと試合前に帰り支度を終えている選手がいたみたい(笑)。優勝した後に出てきたエピソードだけど。それがEURO2008の準々決勝でイタリアにPK戦で勝った。これで明らかにメンタリティが変わったからね」


浅野「イタリアは2006年W杯に優勝した世界王者でしたし、直接対決でまったく勝てない天敵でしたからね」


木村「決勝トーナメント1回戦で毎回負けているということは、要するにサッカー強国にはほぼ全敗しているということ。ただ、ここで変わったよね。この時点で巻頭言でスペインは優勝するって書いたくらいだから。人の気持ちって簡単に変わるんだなと。EURO2008の優勝でバスク人だろうが、カタルーニャ人だろうが、みんなスペイン代表を大好きになって民族的にも一つにしたしね」


浅野「サッカースタイル的にもエポックメイキングでした。オランダ代表やバルセロナに代表されるように、当時のポゼッションサッカーは美しいけど勝てないスタイルの代名詞でした。その評価がこの2008年を境にがらりと変わった」


木村「成熟した大人は堅守速攻、ポゼッションサッカーは若気の至りみたいに言われていたからね。現実主義がカウンターサッカー、理想主義がポゼッションサッカーと、イデオロギーとサッカースタイルが同一視されている部分があった。レアル・マドリーがタイトルを欲しくてカペッロを連れて来たり辞めさせたりを繰り返していたように、スペイン自身も迷いはあったしね。もう今はその揺れがなくなった」


浅野「結果を出すことで、その国のサッカースタイルは定まりますからね。この号(月刊フットボリスタ第39号)にも再録されているリージョのインタビューで、彼が『ボールを取り上げられたチームは勝てない』と言っていましたが、これはクライフの思想にも通じる本質的なサッカーへの問いですよね。木村さんはどう思いますか?」


木村「俺もリージョの意見にまったくの同感。半端なポゼッションサッカーよりは堅守速攻の方が強いけど、完成されたポゼッションサッカーは相手に対して本質的に有利だと思うよ。完成するまでに時間がかかるし、そのプロセスにおいて大敗もするかもしれないけど」


浅野「ただ、ブラジルW杯後に日本代表の『自分たちのサッカー』が問題視されたように、サッカーは相手があるゲームであり、ポゼッション対ポゼッションの図式になったら、どちらかのチームはボールを持てなくなってしまいます」


木村「できない時はカウンターに切り替えなければいけない。シメオネのアトレティコがなぜあれほど完成度の高いカウンターチームになったかと言えば、リーガで質の高いポゼッションサッカーと日常的に競い合ってきたから」


浅野「木村さんが実施したソシエダのエウセビオ監督インタビューで、彼が興味深い発言をしていました。以下引用しますね。『私に言わせれば、すべてのチームがポゼッションを志向するという枠組みの中で戦術の進化を捉えてもいいのではないかと思っている。というのも、自分がいかにボールを持つかを突き詰めることは、相手にいかにボールを持たせないかを突き詰めることと同じだからだ。戦術が進化していく方向は2つある。1つは、いかにポゼッションを上げるか、つまりいかに相手からボールを取り上げるかというベクトルでの進化。もう1つは、ボールを持った時にいかに有効に使うかというベクトルでの進化だ。戦いを重ねていくことで、この両方向に今後知識や経験が蓄積されていくことになるだろう』」


木村「そのエウセビオの言葉は、俺の目を開かせてくれたね。さっきのリージョやエウセビオのインタビューもそうだけど、フットボリスタでの取材活動を通じてサッカーへの理解を深めることができた。このテーマに関してもポゼッション対カウンターではなく、ポゼッションするためにいかに相手からボールを取り上げるか、そして奪ったボールをいかにポゼッションするか、その両方が大事なんだよ」


浅野「日本ではポゼッションではなく、縦に速いサッカーが世界のトレンドだという意見がありますが」


木村「俺はまったくそうは思わないけど。リーガは今季特にポゼッションを頑張っているチームが多いし、シメオネのアトレティコも攻撃重視に変貌しつつある。多分、ポゼッション/カウンターという枠組み自体がもう古くなっているんじゃないかな。ポゼッションに優れたチームがいるから、ボールを奪う方法も進化していくんだし」


浅野「いかにボールを奪うかに関しては、かつてのように相手のミス待ちではなく、前線からのプレッシングをかけて奪うやり方が主流になってきましたよね。先日行われたCLグループステージ第3節バルセロナ対マンチェスター・シティも、結局シティのDFラインからのビルドアップのミスを突く形で均衡が破れました」


木村「確かにあの試合はビルドアップ対プレッシングの対決になっていたね。シティも失点するまで前からボールを奪っていたし。突き詰めたチーム同士の攻防が、フェルナンジーニョが転んでボールを奪われたことが勝敗の分かれ目になったのが面白い。あれだけ高度な論理の応酬の決着が、滑って転んじゃいましたという予測不可能な出来事なのもサッカー的なんじゃない」


浅野「その『前からボールを奪う』部分が今の日本サッカーの弱点なんですよ。ガツガツ当たってボールを奪いに行く文化がないというか……」


木村「そうなんだ。日本人はプレッシングに行く規律や運動量があるから、やればできそうだけど。ただ、俺のチームにも日本人の少年が来たことがあるけど、『球際の強さが全然違う』と驚いていたな。ちょうど俺のチームでこれから守備戦術の指導を始めるんだけど、最初のテーマが『ボールを奪われた後の前線からのプレッシング』。少年サッカーチームの俺たちがやるくらいスペインでは浸透している概念だよね」


浅野「川端さんとの対談で出てくるテーマですが、育成年代ではケガをさせることを嫌うそうです」


木村「でもそういう日本人的メンタリティってネガティブに語られることが多いけど、必ずしも悪いことではないからね。相手にケガをさせないのは思いやりの表れだし、自己主張が足りないのは譲り合いの精神とも言える。たまたまサッカーではそれがプラスにならないかもしれないけど、社会生活を営む上では大きな長所になるかもしれない。サッカーにとっていいことは、社会にとって悪いことの場合もある。スペインに住んでいると特にそう思う」


浅野「今はスーパーなストライカーは南米人ばかり。超一流のストライカーは恵まれない社会から出てくる。じゃあ恵まれない社会がいいかと言えば、当然そんなことはないですからね」


木村「ある意味、社会は公平だよね。ハングリーな選手がコンペティションで成功する。サッカー界はハングリーな人たちを救う環境があるということだから」


浅野「ただ、ブラジルでもストリートサッカーが衰退しつつありますし、ハングリーな人たちはますます厳しくなっていくのかもしれません。日本でも子供にサッカーを続けさせるにはお金がかかります」


木村「お金持ちの子供以外がサッカーをするにはボランティアの指導者が必要。日本の大人はそこまでの余裕がないんじゃないかな? その点、スペインは社会が緩いから仕事の時間が短い。うちのチームは大人4人がボランティアで30人くらいの子供を教えている立派な環境だよ。スペインでは失業者も教えていたりするしね」


浅野「そういうチームがスペイン全土にあるから強いんですね」


木村「結局その国のサッカーの強さは、戦術とかそういうことじゃなくて、サッカー文化であったり、底辺の広さで決まるんだよ」

サッカーメディアの未来

月刊フットボリスタ第35号(2016年8月号)では、取り巻く環境が激変し岐路に立たされているサッカーメディアの最新事情に迫った


浅野「最後のテーマとして、今後のサッカーメディアの在り方について話させてください。フットボリスタは2013年から月刊化しましたけど、10年前に比べてWEBでの情報発信が格段に充実したので速報性よりも深堀りした特集を重視するようになりました。創刊時からこだわってきたレビューをなかなかやれなくなってしまったのは悩みどころですけど」


木村「時間が経っちゃうからビッグマッチじゃないとつらいよね。俺は今フリーのライターをやっているけど、書き手としてはレビューを書く機会が減ったというのはある」


浅野「WEBでは書かないんですか?」


木村「ちゃんと長文のレビューを書こうと思えば背景まで伝えるために2500文字以上は必要だけど、原稿料は据え置きだからね。まあ、俺は書きたいことを書けるから3000文字とか4000文字とか書いちゃうけど(笑)。そこはWEBのいいところでもある。ただ、いろんな業界で書くようになって感じたのは、WEBは前線にはなっているけど、誰でも参入できるハードルの低いメディアになっている気がする。駆け出しの若い人はチャンスをもらえるからいいけど、結婚してちゃんと生活していくにはWEBの仕事だけじゃ厳しいんじゃないかな。特にサッカーメディアに関しては。継続可能な仕事にしていくためにはライターやカメラマンも生活できるようにするべきだけど、そうはなっていない。現状は雑誌や新聞などの紙の仕事が彼らの生活を支えているからね。そういう人たちを使い捨てにして常に駆け出しばかりでいいという考え方は効率的だし、どの分野に限らず世界的にもそういう流れになりつつあるけど、そうなると質は下がっていく一方になる」


浅野「僕も同じような問題意識は抱えていて、『新世代メディアとサッカー』という特集を企画しました。そこで欧州の様々なメディアを取材しましたが、WEBでの新しい表現法や雑誌の可能性などを感じることができました。木村さんにはスペインのインディペンデントマガジンの『パネンカ』誌の取材に行ってもらいましたよね」


木村「WEBでも、『パネンカ』のような雑誌でも質の高いものが求められるようになってきているのは感じる。スペインでは今季からテレビのサッカー番組の質が格段に高くなってきている。フットボリスタにもよく記事を寄稿しているアクセル・トーレスがやっている番組なんだけど、本当に質が高い議論をしている。出演者全員が黒のダークスーツを着ていて、『パネンカ』の編集長も出ていたりするんだけど、ハイクラスの層を意識しているんだろうね。安ければいいというデフレ志向はいつか終わりがくるし、反動で質の高いものを求める層は必ず出てくる。そういう受け手の変化に応えるメディアが必要になってくるんじゃないかな」


浅野「僕が木村さんから編集長を受け継いで掲げたコンセプトが『進化する欧州サッカーを味わい尽くす』。ここ数年、欧州サッカーの進化のスピードが物凄く速くて、ピッチ内外の戦術、移籍、経営などのトレンドが1年で大きく変化しているんですね。そうした欧州サッカーの最先端の情報を紹介することが日本サッカーを強くすることに繋がると考えていて、深掘りした特集でしっかり伝えていきたいです。『データ革命現地レポート』や『戦術パラダイムシフト』、『新世代メディアとサッカー』などの特集がそうですね」


木村「データ特集のセビージャ取材ではスペインメディアだとアウトだけど、日本メディアだからOKと言われたんだよね。日本のメディアゆえの匿名性をうまく利用すれば欧州メディアよりも有利な取材活動ができるかもしれない」


浅野「部外者だから学ぶだけ学ばせてもらって、それを日本サッカーに生かしたいですね」


木村「それと日本人は誠実で筋を通すから信頼されているというのもある。俺もモンチ(セビージャのスポーツディレクター)の取材の時にセビージャの広報部長のヘススに言われたからね。『木村の人間性は100%信頼できる。火に手をかざしてもいい』って」


浅野「そこまで言わせる関係性は凄い! だからモンチは、あそこまでぶっちゃけて企業秘密を語ってくれたんですね。それともう一つ意識しているのが、レナート・バルディエミリオ・デ・レオ(ミハイロビッチのテクニカルスタッフで、現在はトリノの分析スタッフ)のような若くて優秀な欧州の才能に最先端の理論を教えてもらうこと。彼らはWEBでセルフプロモーションしてプロクラブに拾ってもらい成り上がっていった新世代のコーチなんですが、僕らが今まで築き上げてきた欧州サッカーとのパイプを使って新世代のエキスパートを発掘して日本に紹介したいですね。ユニークな経歴を持つセットプレー専門コーチ、ジョバンニ・ビオの連載をやったのもその一環です」


木村「今の若い人たちは積極的に情報発信するよね」


浅野「テクノロジーの発達で変わりましたね。今の欧州サッカーは世界中から大量のお金が集まって最先端の実験が行われる場になっていますし、ここで生まれたトレンドが社会に影響を及ぼすような存在になりました」


木村「そういう話を聞くと、欧州サッカーもここ10年で変わったなと思うね。昔はもっとロマンチックで、時代遅れの業界だったわけじゃない。金満オーナーがポケットマネーを注ぎ込んで夢を追うみたいな。ロマンチックで緩い部分がなくなって、浄化透明化の力が働くようになった。FIFAスキャンダルやバルセロナの移籍禁止もその流れだよね。昔は当たり前だったことが、通用しなくなりつつある。投資対象としてサッカークラブを見るなんて発想は、今までなら考えられない。ビッグクラブは取材を規制し、メディアをコントロールするようにもなった。全部コントロールしようとすると、メディアが衰退し、クラブは腐敗していくと俺は考えるけどね。権力が腐敗していくプロセスはどこも同じだよ。社会がサッカーに影響し、サッカーが社会に影響してどんどん新しくなってきている」


浅野「欧州サッカー全体が複雑化していますよね。だから全体像がわからないと、一つひとつのニュースの意味が理解できない。出来事と出来事の因果関係だとか、ニュースの背景には何があるのかも伝えたいですね」


木村「それこそが雑誌の役割なんじゃない。WEBは体系図を描きにくい。関連リンクは表示されるけど、それって『あなたの興味のありそうな記事です』って意味しかないから。雑誌は総論があって、それに紐づく各論があって、反対意見もあって、最後にまとめがある。問題提起から結論まで読者の頭を整頓しながら読んでもらえるから、全体像を体系的に伝えられる。そのような体系化された高度な情報を求める読者も増えてくるだろうし、雑誌の役割はまだまだあると思うよ。これからも頑張ってください」

Photos: Getty Images

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対談木村浩嗣浅野賀一

Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。