MCOの停滞、前監督下での不遇を乗り越えて日本代表初招集。サウサンプトンの右サイドで「変幻自在」を体現する松木玖生の下剋上
青森山田中学校・高校時代から将来を嘱望され、FC東京でプロキャリアを踏み出すと21歳の若さで欧州挑戦を果たした松木玖生。サウサンプトン加入後は、まず同じマルチクラブ・オーナーシップ傘下のギョズテペでの1年間の武者修行を積み満を持して復帰を果たしたものの、待ち受けていたのは前監督下での不遇だった。そんな昨季途中から監督交代を機にセインツの右サイドで「変幻自在」を体現する存在へと変貌を遂げ、この9月・10月シリーズに臨む日本代表メンバーに初招集された現在までの下剋上を、EFLチャンピオンシップの解説者としても活躍する秋吉圭(EFLから見るフットボール)氏と追いかけてみよう。
「彼が遂げてきた成長を、これ以上ないほど誇りに思っています。彼はその一つひとつに値する選手です。競争心があって、勝者です。ここ数週間ずっと話をしてきましたが、今季の彼は2桁得点を取ると確信しています。そのために必要なものを、彼はすべて持っています」
松木玖生の日本代表初招集という実にめでたいニュースが、サウサンプトンの地で大きな驚きを持って迎えられた形跡はない。指揮官のトンダ・エカートは機を見るに敏といった様子で、その翌日に行われたチャンピオンシップ第8節レクサム戦(●2-1)前の記者会見で先のような言葉を並べた。そして松木のユーティリティ性を称賛した上で、「基本的にCB以外のポジションができると思っていますし、守るべき指示さえ与えればCBさえできるでしょう。監督として望むすべてのものを兼ね備えた選手で、彼がいてくれて本当にハッピーです」とまで続けた。
サウサンプトンの練習場は、決して普段から日本人記者がこぞって訪れるような場所ではない。日本代表招集に伴って彼に関する質問が寄せられたことは確かであるにしても、基本的にはクラブという文脈の中ですべての物事が語られる世界だ。そんなサウスコーストでの普段通りの光景の中で、文字通り「絶賛」と形容すべき賛辞が松木に贈られる。今回の招集は、やはり必然の流れのように思わされる。
Our #SamuraiBlue 🇯🇵
Kuryu Matsuki has earned a first senior call-up for Japan 👏 pic.twitter.com/aLeG4UO4IF
— Southampton FC (@SouthamptonFC) September 17, 2026
松木よりもU-21選手を優先…スティル前監督下で味わった不遇
この記事はさながら定点観測の様相を呈する。今から1年前、私はギョズテペからサウサンプトンに復帰したばかりの松木について、サウサンプトンのマルチクラブ・オーナーシップ戦略と絡めた形での論考を執筆した(過去記事『スポーツ・リパブリックが掲げるMCOの未来も背負う松木玖生。サウサンプトン1年目の期待と展望』を参照)。当時はプレミアリーグから降格してすぐの段階、監督はイングランドで監督初挑戦のウィル・スティル。多くの不確定要素が渦巻く中で、セインツが迷路の中へと迷い込もうとしていた時期だ。
この時期の記録を見返すと、8月30日のチャンピオンシップ第4節ワトフォード戦(2-2)で76分に途中出場して以降、ちょうど4カ月にわたって公式戦の出場から遠ざかっている。その間リーグ戦ではベンチ入りさえ4回だけ。代表招集どころかクラブでさえまったく試合に出られない状態で、夏に彼をローン移籍させなかった判断は様々な側面から広く疑問視されるに至っていた。
当初の好内容に結果だけがついてこず、次第にチームが空中分解したことで、11月初頭にチャンピオンシップで21位だったチームはスティルを解任した。イングランドで初のシーズンを過ごしていた松木について、解任前のスティルは「次第に慣らしていく」方針だと語っていた。また移籍市場の最終盤にレオ・シエンザ、フィン・アザーズ、トム・フェローズといった2列目の主力候補が一気に加わった事情もあった。しかし『The Athletic』による解任直後の報道によれば、スティルは(概ね好かれてはいたものの)モチベータータイプの監督ではなく、練習でも先発メンバーだけで戦術練習を行うため、交代出場時の動きに迷いが出るとチーム内部で指摘されていたという。そのような状況下では控え選手がアピールする機会も当然乏しい。
象徴的な出来事が起きたのは10月のチャンピオンシップ第12節ブラックバーン戦(●2-1)である。中盤の底を務めるフリン・ダウンズとカスパー・ヤンダーが当日朝に体調を崩し、遠征メンバー外となっていた松木やジョー・アリーボに機会が回ってくるかと思われた。しかしスティルが急遽呼び寄せたのはそのどちらでもなく、レスターで行われる試合に出る予定だったU-21キャプテンのキャメロン・ブラッグだった。サウサンプトンからブラックバーンまでの距離を考えれば、よっぽど近いレスターからタクシーに乗ってこられる選手を優先させる判断もわからなくはない。しかしトップチーム契約を結んでいる松木らにとって、この出来事がいかなるメッセージに変換されたのかは想像に難くない。彼自身各種媒体でこの時期の苦悩について語っており、先日の代表合流後にも話題に上っていたのが記憶に新しい。
We can confirm that we have this evening parted ways with Men’s First Team Manager Will Still.
— Southampton FC (@SouthamptonFC) November 2, 2025
エカート現監督就任で一転。「変幻自在」を体現する存在に
そのような扱いは、しかし一方で、のちのシーズンに思わぬ恩恵をもたらした。時折参加していたU-21の練習において、松木はスティルの後任となるトンダ・エカートに強い印象を残していたのだ。
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Profile
秋吉 圭(EFLから見るフットボール)
1996年生まれ。高校時代にEFL(英2、3、4部)についての発信活動を開始し、社会学的な視点やUnderlying Dataを用いた独自の角度を意識しながら、「世界最高の下部リーグ」と信じるEFLの幅広い魅力を伝えるべく執筆を行う。小学5年生からのバーミンガムファンで、2023-24シーズンには1年間現地に移住しカップ戦も含めた全試合観戦を達成し、クラブが選ぶ同季の年間最優秀サポーター賞を受賞した。X:@Japanesethe72
