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【特集総括】なぜコモは「お伽話」を現実にできたのか。セスクのゲームモデルを組織のDNAに変えたクラブ戦略

2026.10.31

【特集】セリエAを革新するコモのビジョン#8

セスク・ファブレガス監督がピッチ上に植えつけるプレー哲学と、コモ湖を背景に街をプロデュースする独自のブランド戦略。2024-25シーズンのセリエA昇格からわずか2年でCLに初参戦しているコモ1907は今、欧州サッカーで最もユニークな存在だ。イタリアのプロビンチャーレだったクラブがなぜ、この短期間で異彩を放ちつつあるのか。その答えは、目の前の試合結果だけを追うのではなく、先を見据えた未来から逆算してチームを作る「ビジョン」にある。人材獲得と育成、移籍戦略、トップチームの戦術――それぞれの取り組みは別々に見えて、実は一つの思想によってつながっている。その革新のDNAを読み解く。

第8回は、本特集を締めくくる総括コラム。わずか7年でアマチュアレベルからCL出場権を獲得するまでに急成長したコモの「お伽話」の秘密とは何なのか。片野道郎氏が、現地取材と関係者へのインタビューを通して見えてきた「革新するコモのビジョン」の正体を考察する。

 人口わずか8万5000人。イタリアを代表する観光地の1つとはいえ、ローカルな商圏だけではセリエAはおろかセリエBに定着することすら難しく、過去20年に3度もの破産を経験してきた小都市のクラブが、アマチュアレベルからたった7年でCLの舞台にまで到達し、しかもあのマンチェスター・ユナイテッドを4-1で一蹴する――。コモ1907がたどってきた歩み、そして現在の姿は文字通りの「お伽話」だ。

Photo: Michio Katano

 しかも、その躍進はとどまる気配が見えない。セリエA昇格1年目(24-25)は10位。2年目の昨シーズンは一気に4位にジャンプアップし、ミラン、ユベントスを蹴落としてCL出場権を獲得。そして3年目の今シーズンもここまで4位と、首位争いに絡む位置をキープしている。これだけの短期間で、これだけ劇的な成長を遂げたクラブは、イタリアはもちろん欧州サッカーを見回しても他にほとんど例がない。

「カネの力」だけでは説明できない成功

 世界トップ100に入る途方もない大富豪であるオーナー(インドネシアのハルトノ家)の資金力が、成長の裏づけとなってきたことは事実だ。ただ、だからといってすべてを「カネの力」だけに還元するのは、あまりにも短絡的な見方に過ぎる。コモの成長プロセスは、今あらためて欧州サッカー界を揺るがせているマンチェスター・シティ、あるいはパリSGのように、文字通り「札束で頬を叩くように」スター選手、有望選手を買い集め、短期間で一気に欧州トップレベルの競争力を手に入れようとしたケースとは、そのアプローチからして明らかに異なるものだ。そもそも、豊富な資金力を持つオーナーがクラブを買収し、多額の資金を投下したからといって、それが必ず成功につながるわけではない。イタリアにも欧州にも、それを証明する事例はごろごろ転がっている。

 では、コモが果たしてきたこれだけの成長と成功の秘密はいったいどこにあるのか。

 今回の特集では、ピッチ外のクラブ経営やビジネス展開は脇に置き、「フットボール」に的を絞って、いろいろな角度からそれを掘り下げることで、その問いに対する答えを探るアプローチを取った。取材したのは、現オーナーになった2019年以来現在まで、単なる強化責任者以上の存在としてミルワン・スワルソ会長と歩みを共にしてきたカルラルベルト・「チャーリー」・ルディSD、その下で今年3月からローンマネジャーを務める遠藤翼、そしてコモのフットボール部門の基準点であるセスク・ファブレガス監督と親交のあるレナート・バルディ(イタリア代表マッチアナリスト)の3氏。

Photo: Michio Katano

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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