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移籍金で「稼ぐ」時代は終焉に向かっているのか?日本人選手のキャリアパスをも左右するFIFA移籍規則改正=新RSTPを解説(後編)

2026.11.03

【特集】 世界は「日常」になった――。変化する日本人選手のキャリアパス#5

2023年のU-17W杯ラウンド16、スペイン戦のスターティングイレブンのうち、4人がすでに海外でプレーしていることをご存知だろうか?佐藤龍之介はFC東京を経てスペイン1部のバレンシアへ、名和田我空はガンバ大阪からベルギー1部のシャルルロワへ。小杉啓太は湘南ベルマーレU-18から直接スウェーデン1部のユールゴーデンに渡り、ドイツ1部のフランクフルトへ飛躍した。吉永夢希も高卒でベルギー1部のゲンクに加入している。もはや珍しいものではなくなりつつある、早期のプロ契約や海外挑戦。日本人選手のキャリアパスが大きく変わり始めている今、これからどのようにその将来を設計していくべきなのか。そして、そこにどう関わるべきか。選手、クラブ、市場、それぞれの視点から、変化の現在地を考えてみたい。

第4&5回は、来年1月から施行されるFIFA移籍規則改正=新RSTP(Regulations on the Status and Transfer of Players)を、CAS(スポーツ仲裁裁判所)仲裁人 、FIFPRO(国際プロサッカー選手会)本部理事も務める山崎卓也弁護士が前後編に分けて解説。その成果と論点を受けて日本サッカー関係者には何が求められるのか?そして、移籍金で「稼ぐ」時代は終焉に向かっているのか?2年前の寄稿『移籍金で「稼ぐ」時代の終焉。ディアラ判決が国際サッカー界を震撼させている理由(前編)』の答え合わせをしてみよう。

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低年俸選手には移籍金の5%を受け取る権利。選手側が得た成果とは?

 前編で見たとおり、新RSTPは、選手側とクラブ・リーグ側との交渉の結果、「トータルパッケージ」として合意されたものである。その中でこうした交渉の結果、選手側が得た成果として特に大きいのは、以下の3点である。

①クラブが契約違反をした場合の補償が「残りの年俸額」を超え得るようになった(新RSTP17条3項、5〜7項)

②年俸15万米ドル以下の選手について、違約金条項の最低保障が定められた(同17条1項(c))

③年俸15万ユーロ未満の選手に、移籍金の5%を受け取る権利が認められた(同21条の2)

 まず①について説明する。これまでのRSTPでは、クラブが正当な理由なく選手との契約を解除した場合、選手が受け取れる補償は、原則として残りの契約期間の年俸額(残存価値)とされていたが、選手が新しいクラブと契約した場合には、その新しい契約の年俸額が差し引かれる(損害軽減=Mitigation)仕組みになっていた。給与の未払いが解除の原因である場合に限り、3〜6カ月分の「追加補償」が加算されたが、それでも合計額は残存価値を超えられないとされていた。つまり、クラブにとっては、選手を不当に解雇しても、支払うべき補償の上限があらかじめわかっており、しかも選手が新しいクラブを見つければ、その分だけ負担が軽くなるという、クラブ側に有利な構造であった(ゆえにクラブは、選手が新しいクラブを見つけるまで支払を遅らせる方が有利という状況であった)。

 新RSTPでは、これが大きく変わる。クラブの契約違反の場合、選手は、

・残存価値の全額(特別な事情がない限り、これが補償の最低額とされ、損害軽減の義務もこの最低額に服する)

・これに加えて、立証されたその他の損害

・さらに、濫用的な行為(Abusive Conduct)があった場合には、従来の追加補償のように給与の未払いの場合に限られず、最大6カ月分の給与相当額のペナルティ(なお、この規定はクラブ側にも適用される)

を受け取ることができるようになった。つまり、補償額は残存価値を超え得るのである。

 例えば、年俸1億円、残り契約期間2年の選手がクラブから不当に解雇され、すぐに年俸6000万円で別のクラブと契約したとする。従来のルールでは、補償は2億円から新契約の1億2000万円を差し引いた8000万円が原則であった。新RSTPでは、特別な事情がない限り、少なくとも2億円が補償の出発点となり、選手を練習から外して退団を迫るなどの濫用的な行為があれば、これに最大5000万円が加算され得ることになる。ちなみに新RSTPでは、従来から定められていた濫用的な行為の禁止に加えて、選手の登録・登録抹消を圧力の手段として濫用すること、選手を不当に練習から外すこと、パスポートを取り上げること、住居から不当に退去させることが、クラブがしてはならない行為として明文化された(同14条3項)。

 次に②について。新RSTPでは、契約違反の際の違約金をあらかじめ契約で定めること(合意補償)が明文で認められたが、年俸(固定報酬)が15万米ドル以下の選手については、クラブが支払う側の違約金条項は、特別な事情がない限り、少なくとも契約の残存価値を保障するものでなければならないとされた。交渉力の弱い選手が、クラブに都合のよい低額の違約金条項にサインさせられることを防ぐ趣旨である。

 そして③は、新RSTPの中で最も新しい概念と言ってよい。国際的な完全移籍において、移籍元クラブでの年俸(固定報酬)が15万ユーロ未満の選手は、移籍元クラブが実際に受け取った固定移籍金の5%を、直接受け取る権利を持つことになった。選手はこの権利を一部放棄することもできるが、その場合でも、最終年度の年俸額と固定移籍金の2.5%のいずれか高いほうを下回ることはできない。これまで移籍金はクラブ間の取引の対価として、選手はいわばその「対象」にすぎなかったが、少なくとも年俸の低い選手については、自らの移籍が生み出す経済的価値の分配を受ける「当事者」となるのである。日本から欧州へ移籍する若手選手の多くはこの年俸水準に該当し得るので、日本人選手にとっても決して他人事ではない制度である。なお、この5%の分配と②の違約金条項に関する規定は、2027年1月1日以降に締結された契約にのみ適用されるため、その効果が本格的に表れるのは、新規則の下で契約を結んだ選手が移籍する段階になってからである。

移籍金の「予測可能性」は今も論点だが大きく前進

 では、ディアラ判決の中心的な論点であった、選手が契約を破った場合の違約金(2年前の記事では便宜的に「移籍金」と呼んだもの)の予測可能性はどうなったのか。

……

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Profile

山崎 卓也

1997年の弁護士登録後、2001年にField-R法律事務所を設立し、スポーツ、エンターテインメント業界に関する法務を主な取扱分野として活動。現在、ロンドンを本拠とし、スポーツ仲裁裁判所(CAS)仲裁人 、国際プロサッカー選手会(FIFPRO)本部理事、世界選手会(World Players)理事、日本スポーツ法学会理事、スポーツビジネスアカデミー(SBA)理事、英国スポーツ法サイト『LawInSport』編集委員、フランスのサッカー法サイト『Football Legal』学術委員などを務める。主な著書に『Sports Law in Japan』(Kluwer Law International)など。

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