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7月来日!「新生スパーズ」の息吹を感じたポステコグルー体制1年目を総括

2024.05.24

この記事は『株式会社NTTドコモ 』の提供でお届けします。

「ここからさらに進んでいくのが楽しみだ」と最終節後の指揮官。ケインが抜け、負傷者も続出した中、前年の8位を上回るEL圏内の5位でプレミアリーグ挑戦1年目を終えた。7月下旬に来日を控えるトッテナムの2023-24シーズンをスパーズ・ジャパンが振り返る。

新たなる船出、組織改編は着々と

 トッテナムにとっての2023-24シーズンは、新しい方向へと歩み始める1年となった。

 2019年のCL決勝後、マウリシオ・ポチェッティーノ監督が去って以降に経験した、コロナ禍での収益悪化やクラブスタッフの解雇から立ち直れておらず、チーム内でも後任のジョゼ・モウリーニョやアントニオ・コンテの下ではシニアとユースとの間に明確な隔たりが生じていた。同時期に開場した新スタジアムも4年目を迎えたが、いまだネーミングライツの契約は結ばれていない。

 クラブのフットボール部門の再建を期してフットボールディレクターとして迎え入れたファビオ・パラティチは、ダニエル・レビィ会長の想定にはまったくなかったであろうユベントス時代のスキャンダルによって離職。満を持してチームを託したコンテは2021-22シーズン途中の就任からCL出場権を獲得したが、翌シーズンの年明けあたりから徐々にチーム内に最悪の雰囲気を生み出すこととなり、結局2023年3月、試合後の会見で公然と経営陣を非難して(のちに本人は経営陣への非難ではないと釈明)クラブを離れた。

トッテナムを運営して23年、現在62歳のレビィ会長

 さらに、この4年間ほどで商務部長のサイモン・バンバーやアカデミー代表だったジョン・マクダーモットなど、クラブの重要な意思決定においてレビィが頼りにしてきた要人たちが去り、上層部でレビィに物言える人物がますます減っていったと言われる。スパーズは企業の重要な財産でもある「ヒト」の側面では、上から下までボロボロの状態だったのだ。

 2022-23シーズンの失望と混乱の最中で、レビィはクラブ経営における自らの意思決定の誤りを認め、組織体制の転換を図った。まず、選手の採用オペレーションを見直し、多額の費用をかけてデータ分析チームの強化に着手するとともに、外部の専門家を雇い入れてフットボールクラブがどのように経営されるべきかのコンサルティングを依頼した。このプロセスが、クラブ内でレビィに次ぐチーフ・フットボール・オフィサーのポストを新設し、スコット・マンをその座に据えることに繋がった。シティ・フットボール・グループからやってきたマンの存在は、フットボール部門がレビィから独立した強いリーダーシップを取り戻すことに一役買った。

 また、スカウトチームもパラティチ時代から一新。テクニカルディレクターとしてアストンビラからヨハン・ランゲを引き抜き、ランゲの一声でチーフスカウトのロブ・マッケンジーやフットボール洞察・戦略責任者のフレデリック・レスもビラから加わった。

 監督には、2019年に横浜F・マリノスを15年ぶりのJ1優勝に導き、その後セルティックで国内リーグ2連覇を達成した、モウリーニョやコンテとはまったく異なるパーソナリティを備えたアンジェ・ポステコグルーを招へい。欧州外での経験が豊富なオーストラリア人指揮官は、過剰に感情を表に出すことはないが、会見でもざっくばらんに話すオープンマインドな人物だ。

 かくしてスパーズは、プレミアリーグ8位で14年ぶりに欧州切符を逃すという低調なシーズンを経て、レビィが築き上げた極めて健全な財政基盤に見合うヒトを重視した組織体制の再建に乗り出した。

山あり谷ありの1年と巧妙な補強戦略

 迎えた2023-24シーズン、チームは開幕から10戦無敗(8勝2敗)で発進し、ポステコグルーはプレミアデビューから3カ月連続でリーグ月間最優秀監督賞に輝く前人未到の偉業を達成。順調過ぎる序盤戦にファンの期待は大いに膨らんだ。だが、負傷者や退場者が相次いだ中盤戦で失速すると、終盤戦でも上位を争う強豪相手に4連敗を喫してしまう。

 無敗で首位を快走していた第11節チェルシー戦の28分、CBクリスティアン・ロメロが退場するまでは、すべてが思い通りだった。スタジアムにはポステコグルーを称賛するチャントが響き渡り、サポーターたちは攻撃的なプレースタイルに生まれ変わったチームに誇りを抱き、前任者の下では感じられなかったクラブとの強い結びつきを取り戻したように思われた。そのチェルシー戦でさえも、話題になったのは1-4で制したチェルシーの勝ち方ではなく、ロメロに続いて左SBデスティニー・ウドギが退場しても9人で残り約40分間、勇猛果敢にハイプレスとハイラインを保ち、勝利を目指したスパーズの負け方の方だった。

 この試合で2人の退場者に加え、10番のジェイムズ・マディソンとCBのミッキー・ファン・デ・フェンが負傷離脱を強いられると、以降5試合を1分4敗と流れは一変し、首位からも陥落。年明けにはアジアカップやアフリカ・ネーションズカップに主力を奪われ、ようやく序盤戦好調時のメンバーが戻ってきた終盤戦も戦績は好転せず。CL圏内の4位と2ポイント差の5位(20勝6分12敗・74得点61失点)でシーズンを終えた。

 しかし、成果がまったくなかったわけではない。絶対的エースだったハリー・ケインを放出した中、ケガでほとんど稼働できなかったマノル・ソロモンを除いて、今シーズンに獲得した新戦力は軒並みフィットした。ノッティンガム・フォレストから加入したFWブレナン・ジョンソンは、その高額な移籍金(4500万ポンド)に見合った活躍ができるのか、しばしば議論の的になったものの、獲得を望んだポステコグルーから信頼を寄せられ、十分なプレータイムを与えられてリーグ戦5ゴール10アシストという見事な結果を残した。レスターからやってきたマディソンが見せた輝きは、誰もが認めるところだろう。さらに、一昨シーズンにエバートンから獲得したFWリシャーリソンも、様々な理由で1年通して稼働することはできなかったが、ケインの代役としてポテンシャルの片鱗をのぞかせた。

 これら3人の前所属先は、いずれも移籍当時、プレミアリーグの「収益性と持続可能性に関する規則」(PSR)違反に直面していたクラブだった。現時点でエバートンとフォレストはすでに勝ち点剥奪処分を受けており、レスターについても嫌疑が持たれている。これは偶然ではなく、スパーズがそうした状況にあるクラブに接触し、交渉上の力関係として利用する戦略を取っていることは明らかである。

新天地で躍動した27歳のイングランド代表マディソン(左)と23歳のウェールズ代表B.ジョンソン(右)

 その一方で、スパーズの財務状況は少なくともPSRで考慮される数値の上ではかなり好調だ。2024年4月3日にクラブが発表した決算では、直近期で8680万ポンドの損失を計上しているが、そのうち年間約7000万ポンドはPSRの枠外とすることが認められている「インフラ整備に関する費用」で、3年間で許される合計1億500万ポンドの損失という基準は容易にクリアできると考えられている。

 また、音楽コンサートやNFL、ボクシングの試合など、現時点で年間16回のサッカー以外のイベントをスタジアムで開催する許可を地元自治体から取得しており、PSRのルールではこれらの収入を選手獲得に回すことができる。さらに、F1と15年間の戦略的パートナーシップを締結し、スタジアム内の施設には電動カートや屋内トラックが新たに加わった。このF1との契約は、レビィが単独で交渉し、契約にこぎ着けたものだと言われている。

 財政状況が不健全なクラブに対し、今シーズンからPSR違反の取り締まりを一気に強化しているプレミアリーグの態度は、スパーズにとっては追い風となる。当然、他のクラブからはこの取り締まり強化への批判の声も聞かれるが、しばらくは続くものと予想される。

日本人獲得も?新シーズンの鍵を握る“特異な夏”

 ポステコグルーは、スパーズにおいてここ5シーズンで初めて開幕から最終節まで指揮を継続した監督となった。スパーズが内部的な安定性を取り戻しつつあることの一つの兆候と言えるかもしれない。すでに指揮官からはこの夏の移籍マーケットの重要性がクラブに伝えられ、上層部もスタジアムの安定的収入や再建されたフットボール部門の体制を後ろ盾に、全面的にポステコグルーを後押しし、望み通り早期にチーム戦力の強化を図る可能性が高い。

 一方で、PSR違反に直面するチェルシー、フォレスト、エバートン、ニューカッスル、アストンビラなどは、それを回避するために6月中に選手を放出して移籍金を得る必要があるとの報道も出ている。特異な夏になりそうなプレミアの移籍市場は、スパーズにとって渡りに船となるだろうか。

 ポステコグルーがJリーグを経験した監督であることは、33年ぶりとなる来日のきっかけとなった。7月27日に行われるヴィッセル神戸との対戦では、いくらかの新戦力が加わっているかもしれない。セルティックでも多くの日本人選手をうまく配置し、リーグ制覇を成し遂げた。スパーズの補強をめぐる報道でも、さっそく久保建英(ソシエダ)や鈴木唯人(ブレンビー)、町田浩樹(ユニオン・サン・ジロワーズ)らの名前が挙がっている。

 長らく続いた辛抱の時は間もなく終わりを迎え、刷新された組織、そして勝負の2年目に臨むポステコグルーとともに、我われに新しいスパーズを見せてくれそうだ。

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Photos: Getty Images

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