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「クラブ文化」と「ファンとの絆」を築き上げ、アーセナルを包み込んだアルテタの“バブル”

2024.05.14

先週末の第37節マンチェスター・ユナイテッド戦(0-1)でクラブ史上最多のプレミアリーグ年間27勝、対ビッグ6今季無敗(6勝4分)を達成し、優勝に望みを繋いだアーセナル。5月19日にホームで迎える最終節エバートン戦を前に、昨年6月に発売したfootballista増刊『アーセナル 2022-23シーズン総集編』から、「監督」アルテタの足跡を綴ったコラムを特別掲載する。

 2019年12月、悩めるアーセナルの舵取りを任されたOBはどこか味気なく見えた。

 緊張や興奮、契約手続きによる疲労、そして監督業という未知の世界に足を踏み入れる恐怖心。様々な感情を抑えようと無理しているのか、就任会見のミケル・アルテタは“人工的”に見えた。申し訳ないが、名将のオーラなど一切感じなかった。あれから3年半、スペイン人指揮官はアーセナルを蘇らせ、忘れかけていた優勝争いの興奮を再びサポーターに思い出させてくれた。

 それでも、いまだにアルテタから名将の風格は伝わってこない。少なくとも、私たちが思い描くようなフットボールの歴史を築いてきた“名将像”に近づく気配はない。でも、それでいいのだろう。自分の信じた道を、信じた仲間と突き進む彼に一般論など似合わないのかもしれない――。

幼い頃から「仲間」とともに

 アルテタが、クラブ再建において戦力やチーム戦術以上に重視したのが就任時に誓った「クラブ文化」と「ファンとの絆」の構築だった。わずか3年で公約を果たしたアルテタだが、彼が「クラブ文化」を変えるのはこれが初めてのことではなかった。

 「選手たちがクラブ文化を変えてくれることがある。その点においてアルテタは非常に大きかった」と語ったのはエバートンでアルテタを指導したデイビッド・モイーズ(現ウェストハム監督)だ。現役時代からアルテタは常にチームメイトに多大な影響を与えてきた。「この監督のためなら壁にだってぶつかっていく」とモイーズを慕い、チームを最優先に考えた。決して雄弁な選手ではなかったが、誰もが認めるプロ意識でチームを牽引したのである。

2010年9月、ニューカッスル戦でアルテタにピッチサイドから指示を送るモイーズ

 実は、アルテタは幼い頃からそうだったという。子供時代を過ごした地元クラブでは、のちにリバプールで活躍する元スペイン代表MFシャビ・アロンソ(現レバークーゼン監督)と中盤でコンビを組み、常に周りを気にかけた。当時のコーチが「まるでメッシのようだった」と感心するほどの才能でアルテタは中盤からゴールを量産した。一人で45点近く決めたシーズンもあったそうだ。だが、シーズン最終戦で決定機を迎えた時には、自分より好位置にいた得点王を争うチームメイトにパスを出して得点王を譲った。

 14歳からはバルセロナのラ・マシアで寮生活を送り、当時の指導者が強調した「自分を犠牲にするのではなくチームメイトの要求に合わせる」という仲間意識を育んだ。もちろん、バルセロナ入団後も地元愛は忘れておらず、18歳頃に初めてスポーツメーカーと契約した際には「地元クラブの選手全員にジャージ一式を支給すること」という条件を出したそうだ。……

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アーセナルアーセナル22-23シーズン総集編イングランドプレミアリーグペア・メルテザッカーミケル・アルテタ

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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