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競技規則とテクノロジーの融合の先に…“ロボティクス・レフェリー”も現実味

2024.05.08

その先にはレフェリングが完全自動化する未来が待っている?2010年代以降、急速に進んだフットボールの判定とテクノロジーの融合は今後どのように進展し、フットボールそのものに影響を及ぼしていくのだろうか。競技規則に精通するSUSSU氏が、ここまでの変遷をたどりながら展望する。

※『フットボリスタ第100号』より掲載。

 フットボールはその長い歴史において、判定にテクノロジーが介入することを忌避してきた。理由は諸説あるものの、ボール1つと広いスペースがあれば誰もが同じ競技を楽しめるそのシンプルさが、フットボールを世界的な競技に押し上げた経緯と無関係とは言い切れないだろう。しかし、日本で開催された2012年のクラブW杯を皮切りに、ゴールラインテクノロジー(GLT)、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)、半自動オフサイドテクノロジー(SAOT)と、フットボールの判定とテクノロジーは急速に融合を進めている。その役割はレフェリーの判定をサポートするのみならず、レフェリーが事実を明確に誤認していれば遡及的にその判断を修正することを可能にする領域にまで及んでいる。2010年代から10年以上にわたり続くこの流れは、フットボールの歴史においても極めて特異なものと言えよう。

ゴールラインテクノロジーが初めて採用されたクラブW杯の2012年大会。写真は準々決勝のサンフレッチェ広島対アル・アハリを裁くカルロス・ベラ主審

 今なお急速に進歩を遂げるテクノロジーは、フットボールの判定、そしてフットボールという競技そのものに対し今後どのようなインパクトを与えていくのか。本稿では、フットボールとテクノロジーの関わりについて主に競技規則の側面から歴史を振り返りつつ、予想される未来を占ってみたい。

フットボールという競技の性格を変化させたVAR

 長い歴史を振り返れば、フットボールの競技運営とテクノロジーは決して無縁だったわけではない。試合時間を正しく測る時計に始まり、審判員同士がコミュニケーションを取るためのシグナルビープや音声通信機器は、特に意識されることなくフットボールに溶け込んでいた。とはいえ、これらの機器は判定そのものに影響を与えるものではなく、競技規則においてもレフェリーによる保持や使用を認めるのみであり競技の性格を変えるものではなかった。

 やがて、フットボールが国際的に広がりプロフェッショナルによる興行としての性格を帯びると、レフェリーの判定が試合や大会の結果にもたらす影響と反応を無視することはできなくなった。誤審と呼ばれるシーンはフットボールに数多くあるが、テクノロジーとの融合を加速する大きな契機となったのは2010年W杯の決勝トーナメント1回戦、イングランド対ドイツにおけるフランク・ランパードの“幻のゴール”であろう。このシーンは、当時の競技規則と運用が判定の正確さを担保できる限界を示した点において象徴的な出来事であり、以降FIFAの組織体制の変更も重なり、テクノロジーは急速にフットボールへ介入することになる。

南アフリカW杯ラウンド16、イングランド対ドイツで疑惑のノーゴール判定が生まれたシーン

 最初に導入されたのは、インプレー中のボールがクロスバーの真下のゴールラインを物理的に超えたか否かを瞬時に判定するGLTである。複数台の高性能なカメラがボールの位置を正確に捉え、ラインを超えた瞬間にレフェリーに対しその事実を通知する仕組みだ。このテクノロジーが特徴的なのは、フットボールの試合の流れを断ち切ることなく正確な判定を支援する仕組みである。ラインを超えたか否かの判定に10 秒もかけて判定することは当時の思想としては許容されず、あくまでフットボールが持つスピーディーさを維持することが前提のテクノロジーであった。

 続けて導入されたのがVARの適用である。一定のプロトコルに沿って記録される映像を用いて、重要な局面を対象に判定をレビューするこの制度は、映像という普遍的なテクノロジーを用いてはいるものの、遡及的な修正をフットボールの世界に持ち込んだ点において極めて画期的なソリューションであった。また、オフサイドディレイに代表されるように、VAR適用試合と非適用試合で競技規則の運用が異なるのも特異な点であった。VARはテクノロジーそのものというより、フットボールという競技の性格を変化させた点が特徴的である。

 VAR適用試合の広まりは、テクノロジーがフットボールに介入する間口を拡げたとも言える。GLTの要件に示されるように、フィールドを駆け回りながら流れを断ち切ることなく判定を下すレフェリーの動きを妨げないことが、テクノロジー導入の前提条件となっていたわけだが、試合を一時的に止めて視覚的に情報を得ることが認められたことで、様々なテクノロジーの参入が可能になった。その1つがオフサイド判定に用いるオフサイドラインテクノロジーであり、進化系と呼べるのが2022年カタールW杯でも話題になったSAOTである。テクノロジーの進歩は、ついに競技者とボールの位置を瞬間瞬間で正確に捉えるレベルにまで到達し、視覚的に再現された判定映像は、正確な判定と説得力のある説明の両立を果たすことになった。

競技規則とテクノロジーがさらなる融合を遂げる未来

 果たして今後のフットボールの世界において、競技規則とテクノロジーはいかなる影響を相互に与え合うのか。……

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フットボリスタ第100号

Profile

SUSSU

1988年生まれ。横浜出身。ICTコンサルタントとして働く傍らサッカーを中心にスポーツに関わる活動を展開(アマチュアチームのスタッフ・指導者、スポーツにおけるテクノロジー活用をテーマにした授業講師等)。現在は兼業として教育系一般社団法人の監事も務める。JFAサッカー審判資格保有(3級)。

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