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いわきFCの選手が「動ける」理由。大倉智社長らが語る「いわき品質」を作り上げるまで【前編】

2024.03.04

2023シーズンのオフ、かつてJFLやJ3を戦ったいわきFCの複数の選手たちが他クラブへ羽ばたいた。それは多くのJリーグ関係者に「いわき品質」を周知した出来事だった。かつて「フィジカル革命」を掲げたクラブは、昨季、初めてJ2に参戦し、特にフィジカル面で確かなクオリティを示した。クラブは歩みを止めることなく、さらなる進化を模索している。なぜいわきの選手は「動ける」のか。なぜ彼らは明らか差を見せつけられるのか。

前編では、いわきFCの大倉智代表取締役社長、平松大志強化担当にご登場いただき、クラブが持つ哲学やこれまでの取り組みを語ってもらった。

今オフ、JFLやJ3で戦った選手たちが羽ばたく

 クラブ創設から7年でJリーグに参入。J3リーグで圧倒的な強さを発揮すると1年でJ2に昇格。これまでいわきFCは類を見ないスピードでレベルアップをしてきた。ただサッカーで勝つのではない。

 「日本のフィジカルスタンダードを変える」

 このコンセプトの下、「90分間止まらない・倒れない」「魂の息吹くフットボール」といった、クラブが目指すプレーモデルを通して成長してきた。

 J2を戦った昨シーズンは残留争いを強いられ、リーグのレベルが上がったことによる難しさを体感した。しかし、いわきが示せたものも多く、デュエルの強さや攻撃回数など試合を通して相手を上回ることが多々あった。

 シーズン途中に田村雄三監督が就任して「らしさを取り戻す」という目標から蘇っていき、リーグ後半戦の成績だけで見れば、8勝6分7敗、J1昇格プレーオフ圏内に入ったチームに匹敵する成績を残している。

 いわきはJ2でも特徴を矜持し、全員が連動する縦志向の戦い方によって強いインパクトを与えた。そして今冬のオフシーズンには、JFLやJ3時代を戦った選手たちの多くが羽ばたいていった。己と向き合い、成長し、外部から高く評価されたことはクラブの取り組みが評価されたことと同じ意味を持つ。クラブは選手たちがチャレンジするのを後押しする姿勢を取った。

 そして昨季、J2で1年を通して戦うことで新たに見えた課題があり、クラブが新たに取り組むべく方向性が見えた。いわきは先を見据え、これから新しいフェーズに入ることになる。

なぜ「フィジカルスタンダード」を変える必要があったか

 今回、いわきFCの大倉智代表取締役社長、平松大志強化担当にインタビューする時間をいただいた。話は、クラブのコンセプトを決めた創設時まで遡る。大倉社長がいう。

 「当時、今の日本サッカー界の課題を棚卸していく中で、スポーツ科学やデータ分析の発展につれて、選手の身体作りが進化しているフェーズでした。そういう流れがある以上、これからサッカーも変わっていくのではないか? と予想できました。世界と日本サッカーの違いを洗い出したとき、シンプルにフィジカルが必要だという結論になり、身体作りに特化したことをやらないと世界に追いつけないのではないか? と。それが『フィジカルスタンダードを変える』という発想の原点にありました。それをクラブが持つ地域の歴史にリンクさせていこうと。フィジカルスタンダードを変えることを念頭に置き、チームビルディングの真ん中に身体作りを置いたということです」

大倉智代表取締役社長(右)、平松大志強化担当(左)(Photo: Yusei Kakisaki)

 現在のいわきFCでは、リーグ戦の期間でもチーム全体として週2回はストレングストレーニングを行っている。どの選手も加入当初は筋トレの壁にぶつかるが、それでもサッカー選手として立派になるために泥臭く精進する姿勢をクラブは求めている。

 「ある程度重いものを持てるような身体にならないと、例えば、スピードトレーニングしたときにパワーにつながらない。このベースは、何をするにしても必要不可欠な要素になります」(大倉社長)……

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いわきFC

Profile

柿崎優成

1996年11月29日生まれ。サッカーの出会いは2005年ドイツW杯最終予選ホーム北朝鮮戦。試合終了間際に得点した大黒将志に目を奪われて当時大阪在住だったことからガンバ大阪のサポーターになる。2022年からサッカー専門新聞エル・ゴラッソいわきFCの番記者になって未来の名プレーヤーの成長を見届けている。

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