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FIFAやUEFAの妨害はEU法違反。欧州スーパーリーグ構想の新展開

2023.12.22

欧州司法裁判所(ECJ)は12月21日、スーパーリーグのような独立コンペティションの設立やそれへの参加を禁じるFIFA、UEFAの規則はEU法に抵触する(優越的地位の濫用および競争制限にあたる)という判断を下した。EUがFIFAとUEFAの独占的な地位を否定したという点で、画期的かつ歴史的な判決だと言える。ただしこれは、あくまでFIFAとUEFAの地位に対する一般論としての見解を示したものであり、スーパーリーグの認可や実現を直接的に助けるものではないことには注意が必要だ。

欧州司法裁判所での係争の主な争点は2つ

 2年前に訴えを起こしたのは、2021年4月に抜き打ち的に設立が発表されながら、多くのステークホルダーの反発と反対によってわずか48時間で頓挫したスーパーリーグ(以下SL)の母体企業「ヨーロッパ・スーパーリーグ・カンパニー」。

 彼らが立ち上げようとしたSLに対し、FIFAとUEFAが承認を拒否しただけでなく、参加したクラブや選手に制裁を科すような規則を作ったこと、さらにCLのようなフットボールコンペティションの開催と運営を独占していることは、EU法に照らして違法ではないかとして、同社の所在地であるマドリッドの商務裁判所を通して判断を求める訴訟を起こしたという経緯だった。

  主な争点となっていたのは次の2点。

・FIFAとUEFAが、SLプロジェクトを事前認証の対象とし、参加したクラブや選手に制裁を科す規則を定めたのは、EU法が定める競争の自由に抵触する「独占的地位の濫用」にあたるのではないか。

・FIFAとUEFAが、主催するフットボールコンペティションの商業的利用権を独占しているのは、EU法が定める「競争の自由」「サービス提供の自由」に抵触するのではないか。

 上記からもわかる通り、この訴えはSLというプロジェクトの認可や実現を求めるものではなく、FIFAとUEFAが現在持っている独占的地位に違法性があることの確認を求めるものだった。そして今回の判決は、そのいずれについても「原則としては違法である」という判断を下している。冒頭で「画期的かつ歴史的」という表現を使ったのは、まさにその点に関してだ。

 これまで、FIFAやUEFAには、コンペティションを独占的かつ排他的に開催する権利、そしてそれがもたらす商業的機会(チケット、放映権、スポンサーなど)を独占的かつ排他的に利用する権利が、自明のものとして認められてきた。今回の判決は、それをEU法が保証している「サービス提供の自由」「競争の自由」という2つの観点からはっきりと否定するものだ。したがって今後は、SLのような第三者による競合プロジェクトを組織したり開催したりすること自体を、FIFAやUEFAが妨害することは原則として認められなくなるし、FIFAやUEFA以外の第三者にもコンペティションの商業的利用権にアクセスする権利が認められることになる。

UEFAは法律と規則への適応性に自信

 ただし、判決文を読み込んでいくと、彼らの言うように、この判決がそのままFIFAやUEFAによる独占や排他性を「無条件で」否定しているわけではないことが見えてくる。逆に、独占や排他性が正当化されるためには、一定の条件を満たしている必要があるが、現状ではそれが満たされているとは言えない、したがって合法であるということはできない、というロジックが使われている。

 見方を変えれば、一定の条件を満たせば合法と認められる可能性が残されているということだ。とはいえ、FIFAやUEFAは少なくとも、第3者が開催・運営しようとする競合コンペティションを禁止したり、参加しようとするクラブに制裁を科したりすることはできなくなった。

 判決文の中では、上で見た「一定の条件」についても細かく言及されているのだが、そのほとんどが様々な解釈の余地を残した抽象的な文言になっており、それを具体的に取り上げて云々することは現時点では難しい。おそらくこれから、FIFA、UEFA側とスーパーリーグ側の双方にとって、それをどう解釈してどういう仕組みを作るか、その正当性、合法性をどのようにして勝ち取るかが、新たな戦いのフィールドになるはずだ。

 例えば、UEFAがこの判決を受けて出した次の声明にも、そうした状況がはっきりと表れている。

「欧州スーパーリーグ訴訟においてECJが本日下した判決に留意する」と公式声明を発表したUEFA

 この判決は、いわゆる「スーパーリーグ」に対する支持や認可を意味するものではなく、むしろUEFAの事前認可の枠組みに存在していた不備を強調するものだが、それはすでに認識済みの技術的な問題であり、2022年6月に対処も終わっている。UEFAは、その新しいルールの堅牢性、とりわけすべての関連するヨーロッパの法律と規則への適合性に自信を持っている。……

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フロレンティーノ・ペレス欧州スーパーリーグ

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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